13_クラリス、大混乱!
クラス単位での移動教室の時間。
混み合う廊下をわたしは周囲の視線から逃げるように歩いていました。
すると前方から、鋭い魔力を纏った一団が近づいてくる。
先頭にいたのは魔法専科の才女、クラリス・ヴァレンティーヌ様でした。
「な……な……な……っ!?」
わたしとすれ違った瞬間、クラリス様は幽霊でも見たかのように絶句し、その場で硬直しました。
彼女の視線は、わたしの頭半分ほど高くなった身長と、明らかに「淑女の枠」を逸脱した官能的な曲線を描く胸元、そして何より、内側から輝くような肌を捉えていました。
そこへ、背後から悠然とした足取りでレインハルト様が現れました。
「シャル。やはり心配だ。今日は帰り、教室に迎えに行くから。そこで待っているように」
「あ、ありがとうございます、レインハルト様……」
レインハルト様が周囲の目も憚らずわたしの頬にそっと触れ、愛おしげに微笑みかけます。
そのあまりに甘い光景に、周囲の女生徒たちは息を飲み、どよめきが広がりました。
「まあ、どうなさったのかしら……」
「婚約破棄の噂まで流れていたのに、あんなに熱烈に……」
「―――レ、レインハルト様……っ!!」
我に返ったクラリス様が、震える指をわたしに向けて叫びました。
「エリュシオン嬢のその姿は、い、一体何なんですの!?ちょっと前までは、も、もっとこう、慎ましかったはずですわ! その……その、不埒なほどに育った身体は……っ!」
「あ、あぁ……ヴァレンティーヌ伯爵令嬢か。しばらく会っていなかったら、女性はこれくらい変化するものじゃないか?」
レインハルト様は、一切の表情を変えず、淡々と言い放ちました。
「演舞場での実習でお会いしてから一週間ほどですが!?い、色々……色々とおかしいですわ!し、し、し、身長だって、こんなに高くなかったはずですわよ!?」
「……成長期だろう。我が婚約者は、伸びしろがあったということだ。他人が口を挟むことではないな」
「伸びしろのレベルが違いますわぁぁ!!」
押し問答の末、レインハルト様の黄金の瞳が一瞬で温度を失い、クラリス様を射抜きました。
空間がパキパキと凍りつき、凄まじい「嫌悪」がクラリス様の喉元を突き刺していく。
「……これ以上、僕のシャルの身体を吟味するつもりか?……不快だな」
「っ……ひ、ぅ……」
クラリス様の影に隠れるようにしていたイザベラ様が異変を察知し、二人の間に割って入る。
「…クラリス、大きい声出さないで。成長期だって言うんだから、そっとしといてあげましょう」
「し、しかし明らかに…ッ!」
「明らかに、じゃないわよ。……明らかにしてどうするのよ、さあ、もう行くわよ」
「ま、待ちなさい、イザベラ! わたくしは――むぐっ!?」
イザベラ様は半泣きのクラリス様の口を塞ぎ、無理やり引きずっていきました。
「ごめんなさいね、レインハルト様。クラリスはちょっと、計算ドリルをやりすぎて頭が疲れてるんです。それでは、ごめんあそばせ」
クラリス様は悔しそうに唇を噛み、最後にわたしを――そしてレインハルト様を見て、息を吞みました。
まるで「身を引いて」と言いかけた時の、自分の言葉が喉に詰まったみたいに。
イザベラ様の必死の撤退劇により、廊下には再び、重苦しいほどに甘い沈黙が戻りました。
「……ホントは一週間どころか昨日の今日の話だが、ややこしくなるから黙っとこう…」
すぐ後ろを歩いていたリオネルのか細いつぶやきが聞こえましたが、ええ、ええ、そうしてくださいまし。
わたしは終始心臓がばくばくしていましたが、レインハルト様の飄々とした切り抜け方はさすがでございましたわ。
レインハルト様は逃げるように去るクラリス様方を一瞥した後、再びわたしに向き直ると、その耳元で熱い吐息を漏らしました。
「……続きは、今夜の『研究』で。まだ伸びしろがあるか、僕が確かめてあげるよ」
「!……っ!!…………」
わたしの「成長期」は、どうやらまだまだ終わりそうにありませんでした。
物語が大きく動いた激動の第二幕、これにて終幕となります。
次回、第三幕の幕開け、苦悩と羞恥の板挟みになるレインハルト、お楽しみに。




