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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第一章 ダンジョンマスターになりました。なお現地調査はセルフで行うもようです
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27 お荷物付き探索と新たなダンジョンマスター



 気が済むまで祈ったら次は行動に移る番だ。全身水洗いされ、心なしかよれっとした印象のギンとすっかり綺麗になったヤシチがやってくると、荷物から引っ張り出した布でわしわしと拭いてやりながらこれからの行動を考える。


 まず優先すべきは情報収集だから、地下に残っているダームフライのうちの何体かに地上に出てもらって、空から魔物の分布状況を確かめよう。ダンジョンが魔物の群れの中心になっているようなら、ギンたちに出てもらって近隣の魔物の間引きを行えば状況は落ち着くはずだ。

 ただ、ダンジョンの領域外だと強い魔物が近づいてきてもわからないのがネックだ。いっそのこと私が同行して、危なそうな時は〈帰還〉で逃げることも考えたほうがいいかもしれない。


 ダンジョンが魔物の群れの中心でなかった場合は……魔物の多い方向を確かめてその方面の調査を行う。

 本命は魔の断崖のある東方面。これはさすがにダームフライじゃ荷が重いだろうから……ギンかヤシチに出てもらうしかないだろうなぁ。最悪の事態を考えたらあんまりダンジョン外には出て欲しくないんだけど。


 いや、ダームフライだったら犠牲になってもいいってわけじゃないけど! でも心の中の比重の問題として、ダームフライよりもギンたちを惜しむ気持ちが強いのは否定しようもない事実だ。

 もちろん、ダームフライも無事帰還できるようにできる限りの手を打つつもりだけどね。

 地下に残ったダームフライたちに関しては、妙に知恵が働くようになっている気もするので使い潰す前提の作戦なんか立てたらストライキを起こされそうだし。



 とりあえず方針が決まったところで、まず最初に行ったのは放り出したままの荷物を小屋に運んで中身を片付けることでした。

 情報収集は大事だけど、一分一秒を争うような事態というわけでもない。


 念のために〈視野借用〉でルドルフの視界を借りてエッダたちの様子を見たけど、特に村に危険が迫っている様子もなかったし。あ、一応〈伝達〉で一言断りは入れましたよ? 返事はなかったけど、抵抗も感じなかったのでOKってことだったんだろう。

 まぁ、エッダに譲ったとはいえあくまで気分的なものだし、私がダンジョンの機能で作成したモンスターだから、ルドルフは今も私の使役モンスターという扱いなのかもしれない。



 ちなみに〈視野借用〉はけっこうレベルが高くなってるせいもあってか、居場所のはっきりしている魔物に対しても使用できるようになっている。

 せいぜいランク1か2の魔物が精一杯だけど。それ以上のランクの魔物や人間が相手だと、抵抗にあうせいかスキルが不発になって使えませんでした。実験で何ポイントかDPを無駄にしたけど、ダンジョン内の魔物をカメラ代わりに使うこともできるとわかったので必要経費だったことにしておこう。



 さて、荷物を片付けたところでいよいよダンジョン領域外の状況確認に乗り出すことにいたしましょうか。

 ダームフライたちはダンジョン周辺の偵察に出ると伝えたら、ちょっと尻込みするものと任せろとばかりに張り切るものできっちり二つに分かれました。尻込みするものに無理に偵察させるのも酷なので、ここは張り切ってる連中に頼むことにします。


 というか、張り切ってる連中に見覚えがあるというか見落としようのない特徴があるというか……首に巻いている風呂敷がですね。うん、どう見てもルドルフを村に送り出した時の輸送部隊だ。一度任務を成功させたという自信があるせいなのだろうか……


 まぁ、外に送り出す以上はできる限りの対策を取らせてもらうつもりです。

 スキルを後付けするのは不可能なのでそれは諦めたけど、かわりにダンジョンで作成できるアイテムを使うという手もある。

 DPは使うけど……いいんです、ダームフライを新規作成する分のポイントをそっちに回したと思えば! 少なくとも今いるダームフライに関しては元手はゼロだし、その分を安全確保に使ったと思えば自分でも納得がいく!


 で、作ったのは『気配希釈のスカーフ(ランク3):200p』×4。

 立候補してくれたダームフライは五体だったんだけど、方面別に派遣すると一体余ってしまうため今回は見送りということに……あれ、なんかしょぼんと羽を落とす姿に既視感が。第一陣孵化組のぼっち君だったりはしないよね……いや、まさか。


 ダームフライの個体識別はいくらなんでも無理なので断言することはできないけど。もしあのぼっち君だった場合は……運命って恐ろしいね。




 作成した薄い緑色のスカーフを、輸送部隊の証である風呂敷と取り替える形で次々とダームフライの首に結びつけていく。

 前の風呂敷は布(しかも低品質)をただ切っただけのものなので、見栄え的には格段に良くなった。特に意図したわけじゃないけれど、ダームフライの銀青色のボディによく映えている。……まぁ、前の失敗した泥棒コスプレみたいなスタイルに比べたら、たいていのものはマシに見えるだろうけどね。


 気配希釈のスカーフはその名の通り〈気配希釈〉のスキルを着用者に付与するもので、着用するだけで効果が出るという優れものだ。

 本来スキルの使用にはMPというか精神力が必要となるのだけど、ダンジョン産のアイテムの中にはMP消費が不要なものもある。もちろんそういったもののほうが必要DPは高いけど。うん……必要経費です必要経費。



 スカーフを結んだ途端に、目の前のダームフライたちの姿がぼんやりと霞んだような錯覚を覚える。

 見えているんだけど気に留まらないというか、まわりの景色に溶け込んで意識しなくなる感じだ。なるほど、これが〈気配希釈〉の効果か。


「一応これで他の魔物から発見されにくくなるとは思うけど、あんまり〈気配希釈〉の効果を過信しすぎないようにね。ヤシチの〈千里眼〉みたいなスキルを持った魔物には効果がないと思うし、とにかく安全第一で!」


 私の言葉に四体のダームフライは羽を震わせて応える。残った一体が一緒に羽を震わせてるのは激励のつもりか、単につられただけなのか……前者ってことにしておこう。



 ダンジョンマップで入口周辺の生体反応を確認してから、非常口の扉を開けてダームフライたちを送り出す。

 地上部の光点は大分少なくなったけど、それでも以前に比べたらかなりの数だ。ほとんどは低ランクの魔物だから、〈気配希釈〉があればそうそう襲われることはないと思うけど……四方に向けて飛んでいく光点を祈るような気持ちで見つめる。


 同時にダームフライの視野を〈視野借用〉でモニターに映し出し、四つの画面に映る景色に目を凝らす。

 魔物の数はダンジョンの領域から抜けたところでちょっと多くなったあと、同じくらいの密度で続いていく。ほとんどは虫系かゴブリンといったランクの低い魔物だ。たまに狼や熊などの猛獣系のモンスターも映るが、その数はあまり多くない。


 ダンジョンから10キロほど離れたところで、初めて方面ごとに魔物の数に違いが出てきた。西、北、南の魔物の数が徐々に少なくなっていく一方で、東方面だけ逆に魔物の数がはっきり増え始めたのだ。


 東方面の魔物の中に、ゴーレムや妖精などといったランクが高めの魔物が混ざり始めたところで、東に向かったダームフライに引き返すよう指示を送る。

 〈気配希釈〉の効果がどれだけ通用するかわからない魔物がうろうろしてる中、無理に偵察を強行させる必要はない。怪しい方向が確定しただけで十分だ。



 他のダームフライたちにも無理のない範囲で偵察を続けながら戻るように指示を出し、送られてくる映像に目を凝らしながら魔物の分布状況を考える。


 東方面以外は数が増えているとはいっても低ランクの魔物ばかりで、高ランクの魔物の姿はほとんど確認できなかった。ということは、高ランクの魔物が移動することによる玉突き事故という可能性はあんまり高くないということだ。

 もし原因が東方面にあったとしても、高ランクの魔物が活発に動いているのなら同程度の魔物がまったく影響を受けないとは考えにくい。


 いやいや、まだ結論を出すには早すぎる。もうちょっとしっかり情報を集めてからでないと……ただ、もし魔の断崖から出てきた魔物が原因だったら、あんまりゆっくり構えているわけにもいかないんだよね。

 最悪、本格的な魔物の大移動が起こっている可能性も頭に置いておかないと。


 もし原因がそうだったとして、元凶の魔物がギンたちで対処可能なものなら討伐することで大移動を阻止できる可能性もあるけど、手に負えないようだったら……その時はどうしよう。

 魔物の移動ルートの途中で対処可能な魔物を倒して、少しでも村にほうへ行く魔物の数を減らすか、それも難しそうだったら村まで走って少しでも被害を食い止めるか。


 さすがに、なにもしないで見捨てるって選択肢はここまできたら存在しない。寝覚めが悪いどころの話じゃないし。本当に最悪の最悪、ダンジョンが危機に陥るような状況でもない限りできるだけのことはするつもりだ。



 なんて考えているうちに、東方面に向かった以外のダームフライが地下部分への入口近くにまで戻ってきたので、非常口を開けて迎え入れる。

 東方面のダームフライに関してはスネークミッションも兼ねているので、帰還にはまだしばらくかかりそう。なんかね、どう見ても二桁ランクの魔物がうろついてるエリアに入り込んでしまいましてね。

 ……段ボールの支給はないけど、無事のミッションクリアを祈ってます、真剣に。


 まぁ、一時間ほど余計に時間はかかったけど、東方面のダームフライもなんとか危険地帯を無事に脱出して戻ってまいりました。

 本当にお疲れ様……非常口から入ってくるのと同時に、ぺたりと地面にへたり込んでしばらく動かなかったのは精神的疲労が原因だったに違いない。


 あ、ダンジョンの領域外で活動した分の栄養補給が必要かな……と思ってたら、畑のほうへ行ってなにやら捕まえて食べてたので、地上でのお食事タイムは省略する。

 地下の畑もいつの間にかかなりの広さになっていたし、十体のダームフライで虫を根絶するのはさすがに不可能だよね……うん。でも小屋に入り込まれるのは嫌なので、虫除けのハーブを育てておこうかと思った次第です。



 さて、なんだかんだで偵察部隊の帰還を待っている間に夕方が近くなっていたので、今日のところは解散のち休息に当てることにして小屋に戻る。

 さすがにちょっと疲れたし……肉体的にはほとんど動いてないけど、主に精神的疲労がね。


 荷物を先に片付けておいたことに内心で感謝しつつ、小屋の隣に併設した倉庫――もともとカマキリ先生の部屋だったのをサイズダウンして移動させたものだ――へと足を向ける。

 ここには畑で収穫した野菜及び果物またはハーブ類が貯蔵されていて、出入り口はジンガも出入りできるようにかなり広くなっている。


 ええ、畑で取れる作物が食料庫に入りきらなくなったのと、ジンガに留守中収穫した作物をしまっておいてもらえる場所を確保するという理由で設置いたしました。

 ついでに室内全体を食料庫と同じ劣化防止の仕様にしたので、何ヶ月入れておいても採れたて同然の新鮮な状態で食べられる。

 その分DPは余計にかかったけど、せっかく収穫した作物を腐らせるよりはマシだと思ったんですよ。そこ、貧乏性だとか言わない! むしろDPで野菜とか果物とか作ったほうが安いくらいだったんだから! 本末転倒って言葉が頭に浮かんだよ!



 その倉庫から何種類かの野菜とハーブを取ってきて、小屋の食料庫に入れておいた小麦粉の袋を取り出す。

 ボウルにあけた小麦粉の中に投入するのは少量の水と油、蜂蜜に塩。まとまるまで練ったところでテーブルに敷いた布の上で薄く伸ばし、食料庫にストックしてあるトマト(もどき)ソースと切った野菜、ハーブ、さらにサルサーギ村で買ってきたチーズを載せる。


 ここまで来れば、なにを作っているのかはおわかりでしょう。はい、ピザです! ピザ窯がない? ……そこに薪をくべて暖めてある竈があるじゃろ?

 薪をどかして作ったスペースに突っ込めば、小さめのピザくらいなら軽く焼けるわ! 灰が付くくらいどうってこともない。高温の竈の中で生息できる雑菌がいるわけもないし、気になったら払って食え!


 なんか変なテンションになりながらがんがんピザを焼いて、熱いうちに布で包んで食料庫の中に突っ込んでからギンとヤシチのご飯の準備をする。

 今日はいっぱい働いてもらったので、いつもの生肉の他に表面だけ焼いて切り分けた塊肉も追加だ。ローストビーフというにはちょっとどころでなく雑だけど(ついでにビーフとも限らないけど)、新調する前のお皿に盛った肉の匂いを嗅いだギンたちの反応は悪くなかったから問題ない。


 で、ピザの他に塩とハーブをすり込んで焼いたウサギ肉とか、村まで持っていったけど呑む機会のなかったリンゴ酒とか、小屋の外に敷いた敷き布の上に運んでいって、全員がそろったところで晩ご飯の開始だ。



「いただきます!」

 ピザはやはり発酵させた生地とは違うけど、できる限り薄くしたおかげでパリパリサクサクの食感だ。チーズも日本のスーパーで買うような癖のないものじゃなく、匂いも塩味もきついけど野菜が中心のピザには合っている。

 うーむ、でもトマトソースで作るんだったらベーコンとかサラミのほうが合いそうだな。あるいはジャガイモにソーセージを合わせてジャーマン風ピザとか。


 まぁ、十分及第点には達しているので、リンゴ酒を飲みつつぱくぱくといただきます。

 反省点を生かすのは次からで十分だ。ついでにウサギ肉をつまむと、こっちはあっさりした淡泊なお肉とハーブがベストマッチ。塩加減も悪くない。


 お腹がいっぱいになってくると、現在進行形で起こっている異変についてもなんとなく楽観的な思考が湧いてくる。

 だって、ダンジョン近辺に関してはギンとヤシチに出てもらえば問題なく片づきそうだし、東方面だって桁違いのランクの魔物がひしめいてるわけでもない。それこそドラゴンが出てきたとか、オ○ムの群れが暴走してるとか、そんな手の付けられない惨状にはなっていないのだ。



 いや、もちろん楽観的に考えてばかりもいられないけど、悪い想像ばっかりしてたって身体にも心にもよくないよね! ひとまず今日は無事にダンジョンに戻ってきたことを喜びつつ、明日以降への英気を養う意味も込めてゆっくり休みます!




 翌朝、いつも通り目を覚ましてほんの少しだけ違和感を覚えながら身支度をする。

 あれですかね、たった三日(というか三晩)の滞在だったというのに、もう身体が宿のベッドに慣れてしまったというか。ちょっと真面目に干し草ベッドの導入を考えてしまいましたよ。


 昨日のピザが食料庫に残っているけど朝から食べるにはちょっと重いので、塩茹でした芋に削ったチーズを載せたものと野菜のスープで朝食にする。

 昨日は久しぶりのピザについ浮かれすぎて何枚も焼いちゃったからなぁ。とりあえず、今日の晩ご飯もピザで決まりだ。



 後片づけをして小屋を出ると、相変わらず小屋のすぐ前でピッカピッカ光っている警告灯と門番ポーズで立ちはだかっているジンガが目に入る。

 やはり、門番というのはゴーレムのアイデンティティ的なものなんだろうか……あ、お土産の麦わら帽子を渡すのを忘れてた。それとジンガサイズの手拭いも作ってあげないと。


 そのあたりはひとまず後回しにすることにして、ダンジョンマップを立ち上げて地上の生体反応を確認する。

 表示された光点は昨日の夕方よりは増えているものの、ダンジョンに戻ってきた時に比べれば少ないままだ。少なくとも、すぐさま地上部の魔物の間引きをしないといけないほどの状況じゃない。


 となると、今日の方針としては……やっぱり情報収集がメインとなるかな。

 本格的な掃討に移るほど事態は切迫してないし、魔物の密度の高い東方面がどうなっているのかが気になる。


 ただ、あっちの偵察となるとギンかヤシチを出す必要があるわけで。どうしようかな……私が一緒に行けば最終手段として〈帰還〉が使えるけど、私の身を守らなくてはならない分ギンやヤシチの負担が増える。ううむ、悩むところだ。

 せめて私に戦闘スキルでもあれば、とは思うけど、DPを相当注ぎ込んでドーピングしない限り焼け石に水だろう。


 ダンジョンの防衛のことも考えたら無駄遣いはできないし、それならギンたちを信じてダンジョンで大人しく待っていたほうがよっぽどいい。けれど、ギンたちに万が一のことがあったらと思うと……



 ああもう、うだうだ考えていたってしょうがない! 命が一つしかないのは私もギンたちも同じだ!

 ギンたちになにかあった時の精神的ダメージと自分が危険な目に遭うリスクを秤にかけたら、はい、精神的ダメージのほうがはるかに大きいですね! だったら自分は〈帰還〉用のお守りだと割り切ることにして、ギンたちに守ってもらうことにしよう!


 というわけで、やったね! お守り兼足手まといを抱えての偵察&護衛ミッションですよ、ギン、ヤシチ!

 ……うん、とりあえず一撃死だけは避けたいし、防御力アップのアイテムか装備を準備しておこう。付け焼き刃の戦闘スキルにDPを費やすよりは、そのほうがよっぽど効果的だろう。




 ウィンドウを開いて色々考えた結果、素直に防御力を上げるのが最良だと判断して『防御力向上の腕輪(ランク6)』を作成。

 見た目はいじれるみたいなので、シンプルな銀のチャーム付きの革紐ブレスレットにしておいた。ちょっと試しにギンに軽く体当たりしてもらったら、5メートルくらい吹っ飛ばされたにもかかわらずかすり傷一つなし。520ポイントもしただけあって驚きの防御力だ。


 で、マジックバッグにまた色々詰め込んで(主に毒消しとか回復薬とか)、ギンに騎獣具を付けてまたがったらすぐさま出発です。本日のところは様子見を兼ねてなので、ランクの高い魔物がいたり魔物の数が多すぎるようならすぐ引き返す予定だし。


 またもや置いてきぼりのジンガは残念そうとも心配そうともつかない複雑な気配を漂わせていたけど、出発間際には「グオオオ~~~~ッ!」と激励めいた咆吼で見送ってくれた。

 毎度毎度留守番ばかりで本当に申し訳ない。この件が落ち着いたら、一緒にダンジョン近辺でのんびり採集兼ねたお散歩でもしようか?


 そして非常口から地上部へ出たあとで、またもやお土産の麦わら帽子をジンガに渡し忘れていたことに気づく。

 ……帰ってきてからでいいよね? わざわざ戻って渡すのも間抜けだし、形見の……とか、それが最後の……とか、変なフラグが立ってしまいそうな気がするし。



 地上に出たらすぐに〈視野借用〉でヤシチの視界をウィンドウモニターに映し、同時に立ち上げたダンジョンマップで周辺の警戒をする。

 今回はギンが私を乗せているため、ヤシチが主戦力兼偵察役ということになる。というか、目的はあくまでも偵察であって掃討でも殲滅でもないので、ギンが派手に暴れ回る必要は最初からないんだけど。


 そのへんを察してかギンはちょっと不満そうだったけど、首筋を叩いて「私の護衛は任せたからね」と声をかけるとあっさり機嫌が直った。

 使役モンスターとしての本能なのか、私から頼まれごとをするのがギンたちにとってはなにより嬉しいらしい。ちょっと逆の方向で心配になるくらいの張り切りようだ。


 あのね、ギン。君の役目は護衛であって、先手必勝とばかりに危険を排除することじゃないんだからね? わかってるよね?



 ダンジョンの領域である半径1キロの範囲を抜けるのはあっという間で、そこからはウィンドウに映し出されるヤシチの視界モニターと自分の目だけが頼りだ。

 とはいえ、〈千里眼〉を持っているヤシチの視界のほうがずっと当てになるけどね! 私の役目は〈鑑定〉を連続発動させて、ランクが高めの魔物がいたら迂回するように指示を出すことだけだ。


 とはいえ、ほとんどヤシチが通りすがりに〈空刃〉の一つも放てば倒せる程度の魔物ばかりだ。せいぜい高くてランク7か8……そう考えると、ギンたちのランク12というのがいかに破格かがよくわかる。

 だって、最初はあれだけ苦戦したカマキリ先生だってランクは4だったんだよ? ギンたちだって二度目のランクアップ前なら苦戦どころじゃなかった相手が、今や通りすがりに倒せる障害物くらいの扱いだ。


 けど、真っ向から交戦すれば時間もかかるし私に流れ弾がこないという保証もない。なのでヤシチモニターと私の〈鑑定〉が大活躍するというわけだ。


(ヤシチ、その先の青い鹿はランク9だから迂回して。右にはスカルドッグの群れがいるから左方向で。あ、でも行きすぎたらトレントの林に入っちゃうから……そうそう、そのくらいでOK。そこから先はしばらく魔物の数が減るから、空からの襲撃にだけ気をつけて)


 ヤシチに〈伝達〉で指示を出しながら、ギンの背中にしがみついて森の中を疾走する。

 障害物(魔物にあらず)のおかげで全速力とまではいかないけど、だいたい時速40キロくらいは出ているだろうか。

 〈騎乗〉や〈身体強化〉のレベルが上がったせいか、それともギンに乗り慣れてきたせいか、あと20キロくらいならヤシチに指示を出しながらでも乗りこなせそうな気がする。


 ……うん、いや、見栄を張りました。単に走っているだけならともかく、ヤシチモニターに映る魔物を片っ端から〈鑑定〉しつつ、脅威度に応じて迂回ルートを考えつつ、ウィンドウの地図を見て現在地を割り出しつつ、できるだけ最短距離で東方面に迎えるようヤシチに指示を出しつつ走るのはけっこうきつい。

 速度じゃなくて脳の処理速度的に。速度が上がれば上がるだけ、入ってくる時間あたりの情報量の情報量も増えるわけだし。



 それでも気力で脳味噌が焦げ付きそうな情報量を捌きつつ、三時間ほど走っただろうか……ヤシチの視野を使って全方位索敵してたモニターの一部に、ちらりと映ったものが私の注意を引きつけた。


「……え?」


 それは、よくよく気をつけて見なければ見落としそうなくらい、ごく自然にまわりの景色に溶け込んでいた。

 周囲の木と比較して、大きさは10×10メートルのダンジョンの最小単位の部屋と同じくらい。低めの崖を背負うように立っていることもあって、発見できたのが不思議なくらい周囲の景色に同化している。


 けれど、確かにそれは人の手によって作られたとわかる建造物だった。大きな石を組み合わせただけの建造物と呼ぶにはあまりにも原始的なものだったけど、自然の悪戯でできたものと考えるのはいささか整いすぎている。


 形状は全然違うけど、強いていうならストーンヘッジ――もしくはもの○け姫の岩屋が印象としては近い。ごんごんとでっかい岩を積み上げ、その真ん中に入口っぽい四角い穴。

 うん、人工物っぽいと言っておいてなんだけど、重機でもない限り普通の人間にはこんなものは作れないだろうな。



 先行しているヤシチに一度ストップをかけ、ちょっと迷ってから謎の建造物のほうに行ってもらう。

 東方面の探索を進めるべきだとは思うけど、これをスルーして先に進むのも心情的に難しい。だって、こんな人里離れた森の中にある人工物っぽい建物だよ? 気にならないわけないでしょう?


 まぁ、今日のところは様子見も兼ねてだし、ちょっとくらい寄り道するのは大目に見てもらおう……たぶん、ただの住居跡かなにかだと思うし。

 これが古代遺跡への入口だったりしたらロマン溢れる展開だけど、その時は地図に場所だけ印付けてさっさと引き上げます。ロマンが溢れるからこそ、こんな非常事態の最中じゃなくてあとでゆっくり探索に来たい。



「……クッ」

 あちこち点在している魔物を迂回してヤシチのもとにたどり着くと、控えめな鳴き声で迎えられました。〈伝心〉がなくても伝わる思いは「なにもないとは思いますが、調べたいというなら反対はしませんよ」といったところか。


 まぁ、ここまで休みなしで来たことだし、ちょっと中を調べてから休憩してもいいだろう。この近辺はやたら魔物の密度が濃い気もするし、中が安全ならそこで休憩を取ったほうがゆっくり休めそうだ。


 とはいっても、中が虫とか魔物とかの巣になっていない保証もないので、ヤシチに先行してもらってからそうっと中をのぞき込む。念のためにギンには騎乗したままだ。

 これでバイオ系FPSに出てくるような魔物がいきなり飛び出してきたら、自力では絶対避けられない自信があるからね! あっという間にさらわれて頭からもぐもぐされる未来が見える。


 幸い、中ボスっぽいクリーチャーに襲撃されるようなことはなく、私はギンの背中に乗ったまま入口から中へ入っていく。


 岩屋の中はがらんとした空洞で、人が住んでいた形跡とか道具なんかは一切見当たらない。動物の毛や食べかすも落ちていないから、魔物の巣になっていたわけでもないのだろう。

 というか、長年人の出入りもなく放置されていた割には、あまりにもきれいすぎるという気もする……



 ……なんて思ってた時期もありました。あちこち見回していたら奥の壁に見たことのある四角い入口を発見。

 5×5メートルの入口の奥には下り階段があって……たぶん、その奥には廊下とか部屋とかあるんじゃないかな。見てないからわからないけど。


 そこはかとはなく投げやりになってしまいましたが、どうやらここは住居跡でも遺跡の入口でもなくダンジョンの入口だったもよう。

 ええ、ダンジョンですよダンジョン。自分で作った以外のダンジョンを見るのはこれが初めてだけど、あまりにも普通すぎて驚く気にもなれなかったよ!


 いや、冷静に考えたら一歩足を踏み入れた途端、殺意満々の罠が炸裂するようなダンジョンじゃなくてよかったんだけど。

 ギンの背中から下りて手近な壁に〈鑑定〉をかけてみると、『ダンジョン:--(??)』というあまり実のない鑑定結果が出ました。ダンジョンという確証が得られたのはいいけど……もうちょっとなにかないものか。



 ただ、ダンジョンとわかった以上、このまま奥に進むのはリスキーを通りこして無謀としか言いようのない行動だ。

 このダンジョンがどういったものかもわからないし、罠とか鍵に対応できるようなスキルも持っていない。モンスターだけならギンやヤシチのランクにものを言わせて突破することができるかもしれないけど、あえて危険を冒してまで奥に入らなければならない理由もない。


 ……よし、ここは見なかったことにしよう。そもそも今は偵察の最中だったし。今回の魔物騒ぎが解決して、DPに余裕が出るようになったらそのうちダンジョン向けのスキルを取って来ることにしよう。というわけで撤収、撤収~



 そう結論づけて、歩き出そうとした時一つの記憶が頭の端をかすめる。


 東の村でエッダたちからダンジョンの話を聞いた時――脳裏をよぎった可能性。もしも他のダンジョンにもダンジョンマスターがいたら……その中には、もしかしたら同じ日本人がいるのではないかという。


「………」

 踏み出しかけていた足が止まる。わかってます、わかってますよ。そんな確率宝くじの一等前後賞がまとめて当たるくらいのものだって。


 そもそも、他のダンジョンにも私と同じようなダンジョンマスターがいるなんて確証もない。万が一にも私の正体を勘ぐられるのが怖くて、そこまで突っ込んだ話は聞けなかったのだ。

 だけど、もし……私と同じように日本から来たダンジョンマスターがいたとしたら。

 宝くじに当選する程度の確率でも、その人がこのダンジョンにいたとしたら。


 うん、たとえ同じ日本人だからって必ずしも友好的だとは限らない。

 日本にだってろくでもない人間は山ほどいたわけだし。犯罪者とかストーカーとか自己愛全開で人の話聞かない脳内お花畑とか。最悪の場合、人を殺してもなんとも思わないサイコパス殺人鬼だったりする可能性だってないわけじゃない。


 ただ、現代日本で生きている人間の比率からいって、そういう特殊な人間がピンポイントで当たる可能性よりも、ごくまっとうな人間が当たる可能性のほうが高いわけですよ。

 まぁ多少癖のある性格だったりはするかもしれないけど、それに関しちゃ私だって人のことは言えない。少なくとも社会生活を送るのに支障がない程度には、ルールやモラルを守る人間のほうが大多数を占めてるはずなんです。



 ……いや、色々理屈を並べてはいるけど。結局のところ、私はただ単純に日本人に会いたいだけなんだ。

 その人の人格とかはさておいて、普通になにも隠さず日本のことを話せる相手が欲しいだけなんだ。私の頭の中にある日本の記憶が夢でも妄想でもなく、確かに存在していたものだと確かめられる相手が欲しいだけなんだ。


「……うん、大丈夫」

 無意識に拳をきつく握りしめていた私を心配そうにのぞき込むギンとヤシチに向かって、安心させるように微笑みかける。


 ちゃんと優先順位は理解できている。私がまず第一に考えるべきことは、自分の身の安全とダンジョンの安全。ギンとヤシチの心配? わざわざ意識して考えるまでもなく常にセンター位置にありますがなにか?

 そもそも私なんかよりはるかに強い彼らの心配をするより自分の心配をしたほうが、よほどギンやヤシチに迷惑をかけないで済む。


 つまるところ、もし日本人のダンジョンマスターがいるのなら会いたいというのは、単なる私の感傷であって優先すべき事柄じゃない。

 それこそDPに余裕があるのなら事前準備をしっかり整えて、万全の対策を立てた上で実行してもいいだろうけど、こんな降って湧いたようなタイミングで後先考えずにやっていいことじゃない。


 ……よし、落ち着いた。とりあえず、ここにまた来るとしたら今回の魔物騒ぎが解決して、村やダンジョンの安全が確認されたあとかな。

 それからだったら、ちょっとくらいDPを消費してもリカバリーがききそうだし。


 もしこのダンジョンにダンジョンマスターがいるなら――億に一つの可能性でそれが日本人だったりしたら、せめて普通に話ができるくらいにまっとうな人だといいな。オタ話がしたいなんて贅沢は言わないから。

 もしかしたらダンジョンマスターになるなんて非常識事態に直面して、パニックを起こしてるかもしれないけど、あともう少しだけ頑張ってください。



 そう心の中で思って、今度こそ外に向かって歩き出そうとした時だった。バタバタと階段のほうから軽い足音が聞こえてきて、思わずふり返った瞬間。



「助けてください! お願い、行かないで――どうしたらいいのかわかんないんです!」



 ものすごく切羽詰まった声と表情で涙ながらに懇願されました。その時の私の気持ちを四百字詰め原稿用紙二枚にて説明せよ。


 ……なんぞこれ。なんぞこれ?

 なにがいったいどうなってこんな状況になってるんでしょうか?




これで第一章は終わりとなります。中途半端なところですが、お約束の引きということで。

第二章が完成次第アップを再開したいと思います。大丈夫、第一章ほどの長さじゃないのでそんなに時間はかからないはず……


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