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新城秋姫はきらわれたいっ!!  作者: 達花雅人
オレのネット彼女がヤバい可愛かった件について
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オレのネット彼女がヤバい可愛かった件について

 みなみがUFOにログインしギルドに入ると、kightがあたふたした動作をしながら待っていた。


『あ、mimiさん、待ってた! 相談乗って!!』

『どしたの?ww』

『女の子から告白された! 人生初北伐!!』

『慌てすぎww 誤字ってるしww』


 なんだ。

 告白されて冷静だなあと思っていたけど、本当は心の中では動揺してたんじゃないか。


「ふふ。可愛いなあ…」


 この感じだと、OKしてくれるのかな?


『それでそれで? その告白の返事とやらはどうするんだい? kight君?w』


 そんなkightの様子に、ペナントレースで優勝が決まった野球チームの観客が敵チームを無駄に煽るように余裕のみなみだったが、すぐにその気分は奈落へと落とされることになった。


『うん、断ろうかなって』


「えっ…!?」


 こ・と・わ・る。

 断る→フラれる→はいさようなら。


『ええええええええeeeeeeee~!?』

『いやmimiさんこそ落ち着いて!?』


「落ち着いてられるわけないじゃない!!」


 テレビに話しかけるおばあちゃんのような真似を、パソコンの画面の前であたふたするkightに向けてしながら、みなみは絶叫するしかなかった。


「なんで結果聞く前からフラれる結果知らなきゃいけないのよ!?」


 いや私というかmimiが聞いたからだろというセルフツッコミを盛大に無視し、みなみはkightにコメントを送る。


『な、なんで!?』

『考えてみたんだけどさ、リアルで彼女出来ちゃったら、UFOやる時間確実に減るじゃん? そうなると、mimiさんと一緒にプレイ出来る時間も減ると思うんだよね』

『そ、そうだね』


 言えない。

 もうこのタイミングで『私がmimiです♪』なんて言えない。


『オレ、mimiさんとUFOやってる時間が、一番楽しいんだよね。なんかこう、人生楽しんでる~♪、みたいな?』

『お、おう。ありがと』


「くっそぉ、mimi羨ましいなあ…!」


 私だけど。

 私なんだけど!


『だから、その子には本当に悪いんだけど、オレはやっぱり、mimiさんとこうしてUFOやってる方が好きだから。だから、その子にはそのこと話して諦めてもらうよ。あ、今mimiさんのこと好きって言ったのは、人としてって意味ねw  女の子としてって意味じゃないから!www』


「…」


 kightの照れ隠しのコメントに、みなみはすぐに反応出来ないでいた。


『? mimiさん?』


「…ううっ~!!」


 どうして。

 どうして君は。

 そんなにmimiのこと気遣ってくれるんだよ。

 受け入れてくれるんだよ。

 一人ぼっちだったmimiを好きになってくれるんだよ。

 そんなの。

 そんなの、好きになるに決まってるじゃんか。


 眼鏡を外し、涙と鼻水で酷いことになっている顔を乱雑に袖で拭うみなみ。

 そして、kightに向けてキーボードにその文字を打ちこむ。


『オフで会おうよ』

『え!? でもmimiさん怖いって言ってなかった?』


「…もう、怖くないよ」


 そのコメントを返すために、みなみはまた文字を打ちこむ。


「…」


 送信ボタンに矢印を合わせるが、その動作のまま、みなみは固まる。


「これを押したら…」


 リアルでの関係も、ネットでの関係も。

 全部、無くなるかもしれない。

 でも。


「…貴方に、言いたいから!」


 みなみの手が、エンターキーを弾いた。


『キミに、聞いて欲しいことがあるんだ』


 送信ボタンを押した後、みなみがどきどきしながら待っていると。


『相談、なのかな? 日にちと場所はどうしようか?』


 良かった。

 断られなかった。

 

 その自信を胸に、みなみは力強くコメントを打ち込む。


『もう、決めてあるんだ』

『あ、そうなんだ。どこどこ?』

『明日になったら、わかるよ』

『?』


 今だ疑問符を浮かべているkightの言葉を待たずに、みなみはログアウトした。


「…明日。うん、明日」


 決意を秘め、みなみは呟いた。






「うぅ~、さぶっ~…」


 秋の木枯らしに、ドミンゴは少し身を震わせた。


 日曜日。

 グラウンドや校内は休日出勤の部活動生の声で活気づいている。

 中庭だけが、そんな世界から切り離されたかのような寂しさを漂わせていた。


「まだかな…」


 ドミンゴが腕時計で時間を確認する。もうすぐ、短針も長針も仲良く十二時に重なろうとしている。


「…それにしても」


 昨日のことを振り返り、ドミンゴは今この状況がやはり夢ではないのかと、今日目覚めてから100回以上はすでに繰り返したその自己問答をもう一度だけ繰り返してみる。


 一人でお昼食べてる先輩に声かけてウザがられて怒られたら急に告白されて。


「…わけがわからないよ」

 

 彼女が欲しいと常日頃から思っていたドミンゴだったが、彼の想像する『彼女』という概念というかその流れからはおよそかけ離れたそんな展開に、ドミンゴは現在進行形で混乱するほかなかった。


「でも、断るしかないよなあ…」


 ドミンゴは女性であれば全てストライクゾーンな男である。であるのだが、二股が嫌いで処女が好きという大分こじらせてしまっている男だった。


 そんな彼の性癖からすると、みなみと付き合うことは彼が結構良いなと思っているmimiに対して不義理となり、その二人を天秤にかけてしまうと、やはり付き合いの長いmimiの方が優先され、結果、みなみの告白を素直に受け取ることは出来ないのである。


「はあ…。mimiさん、結局昨日は待ち合わせのこと何にも言わないで落ちちゃったしな。何か急用でも入ったのかな? あの後も来なかったし」


 ずっといいなあと思ってたUFOのmimiに急にリアルで会おうなんて言われて一瞬舞い上がった気持ちになったドミンゴだったが、これから振る予定のみなみのことを思うと素直に喜べず、ほんとどうやって断ろうと身の丈に余り過ぎな悩みを抱え、ベンチの傍で佇む。


「いやいや、でもよく考えてみないと」


 mimiさんが女だなんていつ誰が決めた?

 実は青いツナギを着たガタイのいいおっさんかもしれない。


「うっ~…!?」


 風のせいではない別の悪寒がドミンゴの体を走り抜けたが、その可能性はなるべく考えないようにしようと、ただみなみを待つ。


「―と!」


 木々がカサカサと秋風にその葉を揺らす。


「?」


 その音の中に、ドミンゴは誰かの声を聞いたような気がした。


「気のせいかな?」


 そう思い、時計を確認していると―、


「―いと!!」

「?」


 確かに今、誰かの声が聞こえた。


「kightっ!!」

「!?」


 UFOでの自分のユーザーネームを呼ぶ声。

 その声に、ドミンゴが振り返る。


「…こ、こんにちは、kight」

「…え?」


 葉が少し落ち始めた木の下、吹かれる風に制服のスカートをなびかせながら、みなみが立っていた。

 別件で待ち合わせているはずのみなみの呼ぶ声に、ドミンゴは何が起こったのかわからず、呆然と立ち尽くす。


「みなみ先輩? あの…」

「…kight、いい? 落ち着いて、聞いて?」

「あっ、はい」

「私が、mimiなの」

「…はいィ!?」


 ドミンゴがその言葉にあたふたし始める。それを見て、まるで昨日のkightみたいとくすっとみなみは笑う。


「えっ? みなみ先輩、mimiさんだったの!?」

「ふふ、そうよ」

「巨砲使いの?」

「そうよ」

「よく自分の砲撃で自滅する?」

「最近は、気をつけてあんまりやらないでしょ?」


 みなみが微笑みながら指を銃の形にしてドミンゴを打ち抜く真似をした。


「みなみ先輩、一つ聞いていい?」

「…いいわよ」

「オレのこと、ホントに好きなんですか?」

「…ええ、好きよ。貴方はmimiにも私にも優しくしてくれた。そんなの、好きにならない方が無理よ」

「mimiさんにも、一つ聞いていい?」

「いいよ」

「mimiさんも、オレのこと好きなの?」

「同じ人間なんだから、当たり前だよ」

「じゃあ…」


 みなみは真っ赤な顔で少し眼を逸らしながら再びドミンゴに告げる。


「好きよ。私と、付き合ってくれないかしら?」


 その言葉にドミンゴがわなわなと震えだす。


「ど、どうしたの!?」

「いやったああああーッ!!」


 そして不意にみなみを抱きしめると、ドミンゴはその右の頬にほおずりをする。


「きゃっ!? ちょ、ちょっと!!」

「mimiさん、好きだあああああッー!」

「…こ、こらっ!」


 みなみの非難の声に、空気が読め過ぎるドミンゴは今度はみなみの左の頬に自分の頬を寄せて叫ぶ。

 

「みなみ先輩も、好きだああああッー!!」

「も、もうっ!」


 そのドミンゴの言葉にまんざらでもない表情を浮かべるみなみ。

 抱擁を解いたドミンゴが、みなみの手を取り言う。


「キスさせていただいても?」

「…別に、構わないわ」


 みなみの言葉に、ドミンゴが跪き、その手の甲に、一つだけ口づけを落とす。


「…ふふ、おかしいわね。普通、口か頬にするものじゃないの?」

「キスにも前戯が必要かと思いまして」

「…ふふ、そんなもの、必要ないわ。少なくとも、貴方からのキスなら」

「ならば、仰せのままに」


 ゆっくりとドミンゴが立ち上がり、みなみに顔を近づけ。


「んっ…」


 そして、その唇が重なった。


「ははっ」

「ふふっ」


 顔を離し、どちらからともなく笑いあう二人。

 ドミンゴがみなみの手を取り、さわやかに微笑む。


「これから、一緒にUFOしに行きませんか?」

「…奇遇ね。私も同じことを言おうとしていたわ」

「先輩の家で!!」


 ドミンゴのその言葉に、みなみはジト目になって答える。


「…手と足を縛ってでいいなら、いいわ」


 ドミンゴが両手を顔に当てながら頬を染めた。


「全部、先輩にお任せってことですかッ!?」

「!? 馬ッ鹿じゃないの!? 馬ッ鹿じゃないの!!」


 秋の風が中庭を通り抜けるように吹き抜けていく。

 そんな冷たさなど微塵も感じさせない二つの熱が、そこにはあった―。






番外編:『オレのネット彼女がヤバい可愛かった件について』


       ~Fin~


 これにて番外編『オレのネット彼女がヤバい可愛かった件について』完結となります。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!


 最後に一言だけ。

 『新城秋姫はきらわれたいっ!!』は、当初、完結まで書くことが出来ず、途中で無理やり完結させる予定でした。

 ですが、ブックマークしてくれた方や感想をくれる方が少なからずいらっしゃって、中途半端に終わらせてはいけないと思い、最後まで書ききることができました。

 需要があったかはわかりませんが、こうして番外編まで書くことが出来、本当にありがたいことだなあとしみじみ感じております。

 

 これで『新城秋姫はきらわれたいっ!!』の更新は終わりになりますが、またどこかの話でお会いできれば作者として嬉しい限りです。


 最後にもう一度、ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!

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