2.
違和感しかない彼女を、ただじっと見つめた。自分の感情は分からない。彼女を不気味だとは思えず、かと言って安心感がある訳でもなくて。ただただ、不思議だった。その笑顔が何故か嬉しそうに見えたから、余計に。
「ねえ。キミがそこで迷っている理由がボクには理解らないんだよね。」
いつの間にか僕の隣に腰を下ろした彼女は、こちらを見上げてそう声を掛けてきた。それはそうだろう、誰も僕の気持ちなんて理解る訳がない。クラスメイトも、先生も、……親だってそうなのに。
何も語る気にはなれず、押し黙ったままの僕を見て彼女が溜息を漏らす。
「そんなことの為に、キミはキミを軽んじるんだね」
「…?」
───何を、知ったふうに。
怒り?悲しみ?よく分からない感情が湧いてきて、一瞬胸が苦しくなった。でも、ふと思考が冷える。知ったふうに?何故?
「他者がキミを軽んじるのは、まぁ仕方ないとしよう。何故なら、誰を軽んじて誰を重んじるかを決めるのは、その他者だからだ。でもキミだけは、キミを軽んじてはいけないんじゃないのかな」
「……」
軽んじてなんかいない。僕は、僕の苦しみから、僕を解放したいんだ。ただそれだけなのに。
朝起きて、支度して、学校へ行くまでの道程。授業中、昼休み、放課後、家に帰るまで。どこに居ても、何をしてても。僕はまともに息をすることが出来なくなっているのに。それでも、この苦しみを終わらせちゃいけないって言うのか?
「逃げるな、とは言わないよ。むしろキミは、盛大に、豪快に逃げるべきだ。でもね、それはこの『境界』ではないよ」
「───っ、じゃあ!」
僕に、どうしろって言うんだ!
そう言いかけて、やめた。久しぶりに声を張ったせいで、簡単に息が乱れる。彼女はそんな僕から視線を外し、こことは別世界のように見える夜景に目を向ける。
辺りには、暫く僕の呼吸音だけが響いていた。




