弟の彼女
「ほ、ホノカさん、喉乾きませんか? ほら、あそこに喫茶店がありますよ」
慌てて話を逸らすオレ。
「そうね。ちょっと休みましょ」
作戦成功。どうにかホノカの気をそらすことが出来た。
喫茶店は三年生の出し物のようだった。ここなら同級生の知り合いに会う可能性も低そうなので、なお都合がいい。
というか、マジで知り合いに合わないように気をつけないと……。
「ここ、普通の喫茶店じゃないのね。執事喫茶って書いてあるわ」
言われてみると、確かに執事喫茶と書いてあった。店員は全員男子で、明らかにコスプレと分かるスタイリッシュなタキシードを着ている。
オッサンのオレとしてはメイド喫茶の方が嬉しいとこだが……まあ、こういう『学生時代の馬鹿なノリ』は嫌いじゃないぜ。アホなこと出来るのも若さの特権だからな。
「お、おかえりなさいませ、お嬢様。お、お飲み物は何にいたしますか?」
なにやらぎこちない声で長身の店員が接客してきた。こういうノリに乗り切れないのだろう。その気持ちも十分に分かる。
一体どんな顔をしているのだろうとオレは顔を上げて――驚いた。
「み、御堂先輩!?」
「ル、ルイくん!?」
そこにいたのは、なんと生徒会長の御堂レイだった。
この姿でもっとも会ってはいけない人物だ。
まさか、こんなところで会うなんて……!
「ルイくん、体調を崩して休んだのではなかったのか?」
「ええと、その、だいぶ良くなってきたので、登校したんです! せっかくの学園祭ですから」
「そうだったのか……」
「御堂先輩こそ、どうしてそんな格好を?」
「こ、これは……クラスの出し物で人手が足りないというから、仕方なく……」
赤くなった顔を白手袋で押さえる。
ようするに無理やり手伝わされているらしい。
……めちゃくちゃ似合っているけど。
「あなたの知り合い? ずいぶんかっこいい人ね」
ホノカが聞いた。
「ハヤトさんのお兄さんです」
「ハヤトの? ということは、レイさん? はじめまして。私は四条ホノカ。四条キリヤの妹です」
「君が四条の妹か。話は聞いているよ。モデルだそうだな」
「ええ。ハヤトと同じ事務所にいるわ」
「君がルイくんと知り合いとは知らなかった」
「つい最近紹介されたばかりだけどね。ハヤトの彼女として」
ちょ……!
「ハヤトの……彼女?」
「あら? 知らなかったの? 彼女はハヤトの彼女なのよ。それはもう熱い仲なんですって。そうよね、ルイ」
「え、ええと、その……あの……ハイ……」
誤魔化すことも出来ず、小さく頷くオレ。
「そう……なのか」
明らかにショックを受けているレイ。
ああ、良心が痛む……。
自然消滅ならまだしも、好きな女の子を弟に取られたとなればショックは大きいだろう。
しかし、オレは何も言えなかった。
男と結ばれるエンディングを避けるためには、レイにはこのまま失恋したと思ってもらった方が都合がいいと判断したからだ。
レイには悪いが、諦めてもらうしかない……。




