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学園祭スタート! 〜そして冒頭へ〜


 そしてついに、学園祭当日になった。


 オレは朝から警戒度MAXで校門をくぐった。


 校門をくぐるとすでに屋台がズラリと並び、生徒たちか慌ただしく、それでいて楽しそうに準備に走り回っている。


 ああ、オレも本来なら、あんなふうに純粋に学園祭を楽しめたはずなのに……。


 そんなことを考えながら校舎に入ると……。







「よう、ルイト。せっかくの学園祭なのになーに暗い顔して歩いてんだ?」




 一番会いたくない男、ハヤトに遭遇してしまった。


 ……まあ、クラスが一緒なんだから当たり前なんだけど。





「べ、別に、暗い顔なんてしてないよ。単に眠いだけ」





 オレは警戒しつつ答える。


 現状、あの四人のイケメンたちのなかで一番危険なのはこの男だ。全力で警戒しなければならない。





「それより、何か用?」



「何って、学園祭は一緒に回るって約束しただろ?」


「そんな約束してないってば」


「じゃあ、デートしようぜ」


 



 おい!





「だから、何でいきなりそうなるのさ!?」


「楽しそうだから」




 ハヤトはニッコリと笑った。



「なんかお前がまた、オレを避けようとしてる気がするからさ。一緒にいた方がお前が面白いリアクション見せてくれそうな気がするんだよな」



「う……」



 やはり鋭い。


 今日はイケメンどもを極力避ける作戦で行こうと決めていたのだが、その様子が逆に不自然でハヤトのS心に火をつけてしまったらしい。



 オレの様子を見て、ハヤトが口元にさらにSっ気の強い笑みを浮かべる。



「つーわけで、今日は二人っきりで学園祭デートしようぜ。もちろん夜のキャンプファイアーもな」






 じょ、冗談じゃない!


 こんな奴とキャンプファイヤーなんて一緒に眺めたら、そのまま押し倒される可能性さえある。


 どうにか断らないと……。


 と、そのときだった。





「残念ながら、月島ルイトは生徒会の用事を手伝うことがすでに決まっている。お前と遊んでいる暇はない」




 レイ!


 ハヤトの兄のレイが現れた。




「は? なんだよクソアニキ。いきなり現れて勝手なこと言ってんなよ」


「勝手なことを言っているのは貴様だ。生徒会の用事は他の全てに優先する。学園祭だからと遊んでいる暇はない」


「そりゃお前の理屈だろ。オレには関係ねぇんだよ」


「ならそれも貴様の理屈だ。私には関係ない」




 おいおい……


 なんかすっげぇ険悪になってんだけど……


 というか、オレとしてはどちらもお断りなんだが……。




「ええと、僕、ちょっと用事が……」




 と、言いかけたその時だった。




「あ〜! いたいたー! ルイト先パ〜イ! 探したっすよ〜!」



 げっ、ヨウ!?


 このややこしいときに、何しに来やがった!



「な、なんの用!?」


「何って、試合っすよ、試合! 今日試合あるから観に来てくれるって、約束したじゃないっすか!」



「約束はしてないよ! ヨウが一方的に……」


「で、で、試合の前にウォーミングアップを手伝って欲しいんすよ! なんてったって先パイはオレの専属トレーナーなんすから」



 ……ぜ、全然聞いてねぇ。



「誰だ? このチビ」



 ハヤトが聞く。



「チビじゃねーっすよ。先パイたちこそルイト先輩に何か用っすか?」



 ムッとした様子のヨウ。チビと言われるのは嫌いらしい。



「私は生徒会長の御堂レイだ。この男は弟の御堂ハヤト。それぞれ違う用事で月島ルイトに用がある。もっとも、月島ルイトは生徒会の仕事を手伝うことがすでに決まっているから、この男の用件など聞く必要はないがな」


「だから、勝手に決めつけんなって言ってんだろ」


「決めつけていない。当然の結論だ」


「……なんか、二人してルイト先輩を取り合ってるようにしか見えないんスけど」


「そんな事実はない。お前の勘違いだ」


「黙ってろ、チビ」


「チビじゃねーっすよ!」


「さ、三人とも落ち着いて……」



 慌てて仲裁するオレ。


 が、そこに新たな闖入者が現れた。



「僕も彼に用事があるんだけど、いいかな?」



「四条先輩!」


 

 現れたのは四条キリヤだった。


 このややこしいときに、なんの用だ?


 レイが聞く。


「四条か。お前も知っている通り、月島ルイトは生徒会の仕事を手伝うことが決まっている。用事なら後日にしろ」


「ところがそうはいかなくてね。うちの演劇部の部員がひとり、怪我をして舞台に出られなくなっちゃったんだ。このままじゃ午後の出し物が中止になってしまう。そこで、ルイトくんに代役を頼みたいのさ」



 こいつ、演劇部の部長だったのか。


 それはともかく、



「だ、代役なんて僕には無理ですよ!」



 芝居なんてこの方一度もしたことない。小学生のころの学芸会ではセリフなしの木の役しかもらえなかったくらいの才能ゼロ男なのだ。



「大丈夫。ルイトくんにはお芝居の才能があるよ。この前のイベントで僕はそう感じた」



 イベントって、単にコスプレして変なセリフ言ってただけじゃねえか……!



「四条。悪いが代役は他を当たってくれ。月島ルイトには生徒会の仕事がある」


「ところがそうはいかなくてね。ただでさえ人気のない演劇部にとって、今日の舞台は部員獲得のための大事なアピールチャンスなんだ。ルイトくん以外に代役は考えられない。生徒会の仕事はそれからにしてくれないかな?」


「ダメだ。他を当たれ」


「他がいないからルイトくんに頼んでるのさ」


「しかしな……」


「ちょっと、なに二人で勝手に盛り上がってんスか。ルイト先輩にはオレのウォーミングアップの手伝いをしてもらうんすよ」



 ヨウが言う。




「お前こそ勝手なこと言ってんなよ、チビ。ルイトはオレと学園祭を回る予定なんだよ」


 すぐにハヤトも割って入る。


「チビじゃねーっすよ!」


「ちょ、ちょっとみんな、落ち着いて……」



 弱々しく止めるオレ。


 レイはメガネを押さえ、面倒くさそうにため息をついた。




「ラチがあかん。来い、月島ルイト」



 レイがオレの腕を掴んで引き寄せる。



「ちょ、ちょっと……!」



 慌てるオレ。



「おい、ルイトが嫌がってるだろ、手を放せよ」



 ハヤトが止める。



「お前に命令されるいわれはない。これは校務だ。月島ルイトの了承も得ている」


「僕には無理やり連れて行こうとしているようにしか見えないけどね。レイもハヤトくんも」 


 今度はキリヤ。


「先輩たちこそ、ルイト先輩の意思を無視して自分の用事に付き合わせようとしてんじゃねーすか。大人気ねーっすよ」


 最後はヨウまで。


 四人が四人、今日の学園祭でオレを連れまわそうとして争っていやがる。





「ルイト」


「月島」


「ルイトくん」


「ルイト先輩」




 だああああああああ! 


 やめろ! イケメンども!


 オレを取り合って喧嘩すんじゃねえ!


 オレは、オレは、本当は37のオッサンなんだぞ!?


 

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