陰キャと陽キャはノリが違う。
あー、ひどい目にあった……。
二時間後、オレは日の暮れかかった校内を歩いていた。
ヨウによるボール顔面強打&『お姫さま抱っこ』という精神的ダメージの2つで心身ともに傷を負ったオレは、昨日の寝不足もあってついそのまま眠ってしまったのだ。
すでに校内に生徒の姿はほとんどなく、運動部の連中さえすでにグラウンドから撤収していた。
当然、オレも無人の学校になんて用はない。さっさと帰るに限る。
「あっ、ルイトせんぱ〜い!」
「げっ!」
が、正門になぜかヨウが立っていた。
「遅かったすね〜、先輩。オレ、待ちくたびれちゃいましたよ!」
「もしかして、僕が起きるまで待ってたの? なんで?」
「そりゃーもちろん、先輩にお詫びするために決まってるじゃないっすか! 二回もボールぶつけちゃったお詫びに、アンパンおごりますよ! アンパン!」
「いや、別にお詫びとかいいけど……というかなんでアンパン?」
「オレ、アンパン大好きなんすよ! 近くにめちゃくちゃ美味しいアンパン売ってる店があるんで、一緒に行きましょ! オレ、おごりますから!」
「と言われても、今アンパンって気分じゃないし……」
「絶対美味しいですから! ルイト先輩にも『山崎屋』の特製アンパンを食べてみて欲しいんです! マジでアンパンに対する考え方が変わりますから!」
「いや、別にアンパン対して何の考えも持ってないけど……」
「お願いします! オレにおごらせて下さい!」
「………」
「お願いします!」
深々と頭を下げるヨウ。
その様子を見ながら、オレはつい、言ってしまった。
「い、行きます……」
「ルイト先輩、ちょうど焼きたてが出来たみたいですよ! ラッキーだったすね」
そのあと。
学校近くのパン屋『山崎屋』の行列に並びながら、ヨウが嬉しそうに声を上げた。
オレは近くのガードレールによりかかりながら適当に返事をする。
なんというか、アレだな。
前の人生で営業の仕事を十年以上もやってた弊害かな。ついつい相手にいい顔をしちゃうというか、強く頼まれると断れないというか……。
いや、単にオレが生まれつき優柔不断なだけかもしれないけど……。
その結果がこの状況なわけで、そろそろマジで生き方を改めないと……
「センパーイ、なに落ち込んだ顔してるんすか? ほら、買ってきましたよ! 山崎屋のアンパン!」
ヨウがアンパン片手に戻ってきた。
「どうも……」
仕方なく受け取ってかじる。
これは……!
「美味しい!」
「でしょ! 良かったー! ルイト先輩にもこの良さが分かってもらえて!」
嬉しそうに笑うヨウ。
仕方がないので二人でアンパンを食べながら帰った。
「いやー、美味しかった! よっと!」
食べ終わったヨウがサッカーボールを取り出し、器用に歩きながらリフティングする。
「こんなとこでボール蹴ったら危ないよ。というか、さっきまで散々サッカーやってたはずなのに、まだやり足りないの?」
「とーぜんすよ。オレ、プロ目指してるんすから。もっともっと死ぬほど練習しなきゃいけないんです」
「へー、すごいね!」
オッサンになると、夢に向かって頑張っている若者を見ると、無性に応援したくなるのはなぜだろう。
たぶん、自分にはもう夢なんてなにもないのと、『あのころもっと何かを頑張ってればなぁ……』という後悔があるからだろう。……悲しい話だ。
「そうだ! オレ、明日隣の松陽高校で練習試合やるんすよ!」
「へー、頑張ってね」
「ルイト先輩、見に来て下さい!」
へ?
「どうっすか?」
「いや、それはその……」
正直面倒くさい。
「じゃあ、ジャンケンで決めましょ! オレが勝ったら応援に来てくださいね」
「ちょっと! いいなんて一言も……」
「いきますよ! じゃーんけーん、ポン!」
咄嗟にチョキを出す。
負け。
「やったー! じゃ、試合は明日十三時からなんで、よろしくお願いします! オレ、こっちなんで!」
「ええっ!? ちょ、ちょっとー……!」
引き止める間もなく、ヨウは走り去ってしまった。
オレはしばらく、ポカンとその場に立ち尽くしていた。
スポーツ少年って、みんなこうなの?




