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19/43

陰キャと陽キャはノリが違う。


 あー、ひどい目にあった……。


 二時間後、オレは日の暮れかかった校内を歩いていた。


 ヨウによるボール顔面強打&『お姫さま抱っこ』という精神的ダメージの2つで心身ともに傷を負ったオレは、昨日の寝不足もあってついそのまま眠ってしまったのだ。


 すでに校内に生徒の姿はほとんどなく、運動部の連中さえすでにグラウンドから撤収していた。


 当然、オレも無人の学校になんて用はない。さっさと帰るに限る。






「あっ、ルイトせんぱ〜い!」


「げっ!」




 が、正門になぜかヨウが立っていた。





「遅かったすね〜、先輩。オレ、待ちくたびれちゃいましたよ!」


「もしかして、僕が起きるまで待ってたの? なんで?」


「そりゃーもちろん、先輩にお詫びするために決まってるじゃないっすか! 二回もボールぶつけちゃったお詫びに、アンパンおごりますよ! アンパン!」



「いや、別にお詫びとかいいけど……というかなんでアンパン?」


「オレ、アンパン大好きなんすよ! 近くにめちゃくちゃ美味しいアンパン売ってる店があるんで、一緒に行きましょ! オレ、おごりますから!」



「と言われても、今アンパンって気分じゃないし……」


「絶対美味しいですから! ルイト先輩にも『山崎屋』の特製アンパンを食べてみて欲しいんです! マジでアンパンに対する考え方が変わりますから!」



「いや、別にアンパン対して何の考えも持ってないけど……」


「お願いします! オレにおごらせて下さい!」


「………」


「お願いします!」




 深々と頭を下げるヨウ。


 その様子を見ながら、オレはつい、言ってしまった。




「い、行きます……」








「ルイト先輩、ちょうど焼きたてが出来たみたいですよ! ラッキーだったすね」



 そのあと。



 学校近くのパン屋『山崎屋』の行列に並びながら、ヨウが嬉しそうに声を上げた。


 オレは近くのガードレールによりかかりながら適当に返事をする。



 なんというか、アレだな。


 前の人生で営業の仕事を十年以上もやってた弊害かな。ついつい相手にいい顔をしちゃうというか、強く頼まれると断れないというか……。


 いや、単にオレが生まれつき優柔不断なだけかもしれないけど……。


 その結果がこの状況なわけで、そろそろマジで生き方を改めないと……




「センパーイ、なに落ち込んだ顔してるんすか? ほら、買ってきましたよ! 山崎屋のアンパン!」



 ヨウがアンパン片手に戻ってきた。




「どうも……」





 仕方なく受け取ってかじる。



 これは……!




「美味しい!」



「でしょ! 良かったー! ルイト先輩にもこの良さが分かってもらえて!」




 嬉しそうに笑うヨウ。


 仕方がないので二人でアンパンを食べながら帰った。


 



「いやー、美味しかった! よっと!」




 食べ終わったヨウがサッカーボールを取り出し、器用に歩きながらリフティングする。




「こんなとこでボール蹴ったら危ないよ。というか、さっきまで散々サッカーやってたはずなのに、まだやり足りないの?」


「とーぜんすよ。オレ、プロ目指してるんすから。もっともっと死ぬほど練習しなきゃいけないんです」


「へー、すごいね!」




 オッサンになると、夢に向かって頑張っている若者を見ると、無性に応援したくなるのはなぜだろう。


 たぶん、自分にはもう夢なんてなにもないのと、『あのころもっと何かを頑張ってればなぁ……』という後悔があるからだろう。……悲しい話だ。


 



「そうだ! オレ、明日隣の松陽高校で練習試合やるんすよ!」



「へー、頑張ってね」



「ルイト先輩、見に来て下さい!」





 へ?





「どうっすか?」



「いや、それはその……」


 正直面倒くさい。


「じゃあ、ジャンケンで決めましょ! オレが勝ったら応援に来てくださいね」


「ちょっと! いいなんて一言も……」


「いきますよ! じゃーんけーん、ポン!」




 咄嗟にチョキを出す。



 負け。




「やったー! じゃ、試合は明日十三時からなんで、よろしくお願いします! オレ、こっちなんで!」


「ええっ!? ちょ、ちょっとー……!」




 引き止める間もなく、ヨウは走り去ってしまった。


 オレはしばらく、ポカンとその場に立ち尽くしていた。

 

 スポーツ少年って、みんなこうなの?


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