第335話 【咲楽とハクアの夢】
咲楽とハクアは先に寝室へ行っています。
もちろん二人のやりとりは至って健全です。
「これが花の色図鑑ですよ」
咲楽は地球から持ち込んだお土産品をハクアに披露していました。
「…」
異世界の書物は一瞬で読んだ人の思考を別の世界へ運んでくれます。
「他にも色の図鑑は沢山あるんですよ。果物、鉱石、動物などなど…全部持ってくるのは無理でしたけど」
「面白い…」
「ほら、この露草がハクアくんの髪色と同じなんです」
「本当だ」
この一冊の本だけで一晩中話し合えるでしょう。
ですがハクアは勿体なく思います。
「これは後で読ませてもらう」
ひとまず図鑑の本は閉じることにしました。
「それより旅の話の続きを…いや、サクラが元の世界に帰ってからの話…それとも今後の動向について…」
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ」
話題が定まらないハクアを嗜める咲楽。
「時間ならいくらでもありますから」
「そうでもない」
「え?」
「皇帝の責務にはもう慣れたけど、とにかく毎日が忙しない。明日は砦に戻らなければならない」
「やっぱり大変なんですねぇ」
「皇帝の立場でいることは苦ではない。父上のお役に立てるのは嬉しい。だがサクラに時間を割けないのは耐えがたい」
ハクアは今の現状に寂しさを感じているようです。
「…そうですよね」
それは咲楽も同じ気持ちでした。
「最初の旅も大変でしたよね~」
「うん」
「それでもみんなとの冒険は楽しかった」
「うん」
「離れ離れになるのは寂しいですよね」
「…」
ハクアにとって最初は両親だけが全てでした。
それから孤児院に辿り着いて咲楽と出会い、世界を回って仲間たちと出会いました。苦楽を共にした九人の絆は家族と同じくらい大切なものになっていたのです。
ですが九人での物語は既に終わりを遂げました。
再び集結する日は訪れないかもしれません。
「ハクアくんも私の旅に同行させたいところですが、まだ帝都フリムには皇帝の存在が必要です」
「うん」
「でも私はこれからも遊びに来ますし、忙しいのだって今だけですよ」
「本当にそうだろうか」
「そうですね…あと三年ほど待ってください」
「?」
「実はちょっと夢のような計画を立てているのです。もし実現できれば、またみんなで一緒に遊べますよ」
咲楽は嘘でハクアを励ましている訳ではありません。
終戦後の四大勢力を一周して、道中の魔物事情を知ったことで、咲楽は頭の中で一つの終着点を想像していました。その夢が叶えば寂しい気持ちに悩まされることはないでしょう。
「サクラの夢はハクアの夢…楽しみだ」
ハクアはその言葉を信じます。
「それじゃあさっきの話の続き、ギルドの街ソエルでは何をしたの?」
「実はソエルでは困ったことが起きてましてね~…」
二人の会話は睡魔に襲われるまで続くのでした。
※
深夜になっても咲楽とハクアがいる寝室は明かりが点いていました。
「…」
オーガルは静かに扉を開けて部屋に入ります。
大きなベッドの上で咲楽とハクアは眠りについていました。布団も被っていないので、話の途中に寝落ちしたことが容易に想像できます。
二人揃って寝不足だったのですから無理もないでしょう。
(不思議な気分だ…我は懐かしんでいるのか?)
オーガルは二人に持ってきた毛布を被せます。
そして部屋の明かりを消して、ゆっくり寝室の扉を閉めました。




