一話
『第102回超高位ダンジョンデスゲームの勝利者は、なんと大穴であるカーディス・バルバトスとなりました。ご視聴まことにありがとうございます。今回の大会の振り返り配信は後日行います。また、次のゲームの開催は――』
慣れ親しんでしまったアナウンスの声が頭の中でガンガンと響く。
血塗られた俺の手は震えている。
勝ち残った。このクソッタレのゲームの勝利者。
そんなもの何も嬉しくない。魔法も使えないクズでダメ人間だった俺が勝てたのは……仲間のおかげだった。
開始時には千人のプレイヤーがいた。
それが今は俺一人だけ。
目の前には血だらけの幼馴染のセリカが倒れていた。
最後に残ったプレイヤーの俺とセリカ・ブランシュ。
……胸に刺さっているのは、ちっぽけな短剣。
微動だにしないセリカの身体。
「なんで……こうなったんだ……」
帝国魔導学園高等部――、いつもの日常だった。幼馴染のセリカと一緒に学食で昼食を取っていた。
そして、妙な魔力を認識した瞬間、目の前が真っ暗になった。
気がついたら悪魔の領域とされている超高難易度ダンジョン『悪魔城』のエントランスにいた。
噂は本当だった。一部の人間の娯楽のためだけに水晶端末で配信される、死のゲーム。
帝国の都市伝説として有名な話だった。
学食にいた生徒が全員いた。恩師の先生もいた。他にも大勢の帝国民がいた。有名なギルドの戦士や、帝国の冒険者ランキング上位勢、それに大切な友人も、いたんだ……。
地面に倒れて空を見上げる。ダンジョンの中なのに晴天の青空が浮かんでいた。
吐き気がこみ上げて仕方ない。
涙なんてとっくに枯れ果てている。
胸に穴が空いたような気分。
「カーディス。まさかてめえが生き残るとはな。はっ、ようこそ、こっち側の世界へ」
ゲームの運営であり、俺達の監視役のリーダー『黒騎士』が魔法剣を向けながら俺に魔法をかけた。
黒い闇が俺にまとわりつく――
「―――――――――ッ」
声にならない言葉を上げることしかできない。
そんなぐちゃぐちゃな感情の中、俺は……、段々と、意識が遠くなり……。
俺はもう日常になんて戻れないと思った――
***
帝国魔導学園高等部、2年A組。
「おはよ! 今日の宿題やった? ねえ見せてよ」
「なんだよ、やってねえのかよ。仕方ねえな」
「ねえねえ、昨日の勇者配信みたか?」
「えっと、勇者様の魔王討伐配信? まだ序盤でしょ? もうちょっと進んだら観るわ。私は聖女様の美容配信にハマってるのよ」
「それでね、恋リアでね、アレス騎士団長が言ったの!」
「私はアレス様より、冒険者ランキング一位のハムフル様が好きよ」
魔導学園のクラスメイトたちの声が聞こえてくる。
貴族と一般帝国民、分け隔てなく入学することができる魔導学園。
奇しくも、俺は普通の日常を送っている。
あの日から二ヶ月が経った。一見して、以前と何も変わらない生活。
……変わった事は、俺のクラスに空席が目立つ事だ。
俺と一緒にデスゲームに強制参加させられた生徒たちだ。もう二度と帰ってこない。
のこのこと帰ってきた俺に居場所なんて無かった。
なぜなら、あのゲームは参加者の知人にだけ、招待制の配信をされていた。
……知人に支給された水晶端末にはカメラが付いていた。知人の様子がこちら側に定期配信されていたんだ。
壊れていく俺たちを見て、壊れていく知人たち。
人の本性が暴かれる。それは、地獄のような光景だった。
そして、人の残酷さをまざまざと実感することができた。
『ねえ、昨日の配信観た?』
『うん、ちょっと慣れてきたよね。……正直さ、すっごく面白くない? だって、私さ、セリカの事大嫌いだったし』
『わかる〜、だってドロドロっぷりがやばいよね? 実は超楽しみにしてるの』
『カーディス君やばくね? いままで何人の生徒殺したのかな?』
配信に徐々に慣れていく友人たち。いつしか、俺達の姿を観ながら笑っていたのであった。
全ての娯楽があるといっても過言ではない帝国。そんな娯楽に慣れてしまっている生徒たちは、『デスゲーム』という新しい娯楽に興奮したようだ。
クラスメイト全員があのデスゲームを観ていた。
それは……、クラスメイトが死んでいく瞬間を、俺が人を殺す瞬間を……観ていたということだ。
俺に話しかける生徒は誰もいない。
元々、魔法が上手く使えない、勉強しか取り柄のない、役に立たないクズでダメ人間であった俺の帰還を喜ぶ人間なんていなかった。
両親は失踪していた。
それに、守りたかったあの子、リディアは……もうこの世界にいない。
夢だと思いたいけど、あれは現実にあった出来事だ。
「んだよ、あいつまた苦しそうな顔してやがるな」
「マジ、あいつが死ねばよかったのに」
「はぁ、てか関わるとヤバいだろ? 殺されるぞ」
「でもさ、あいつって魔法使えないよね? 雑魚じゃん」
全部見られていた。
時には騙し合い、時には協力しあい、時には……殺し合い。
俺はどうやら魔法の才能はからっきしだけど
……人を殺す才能だけはあったみたいだ……。
***
放課後になり、俺は席を立とうとした。
何をする気力も沸かない。汚いお金だけは水晶端末の中に水晶ゴールドとして沢山ある。一生遊んで暮らせる額だ。
そんなものいらなかった。ただ、俺は、大切な人を守りたかっただけだった。
カバンを取ると、俺に声をかけてくる生徒が一人。
――メル・クリオロ。魔導学園一年。
二年生の教室なのに、堂々と入ってくるメル。魔導戦技部に所属しており、明るく、とても優しい後輩だった。
後輩は笑顔なんて浮かべていない。ただ、憎しみを俺にぶつけるような顔をしてた。
「……カーディス、あんたなんで生きてんの? 私のお兄ちゃんを殺したくせに……」
俺を慕ってくれて、一緒に魔導図書館デートもしたことがある。
デスゲームの前日、校舎裏に呼び出されて手紙を貰った。
『カーディス様! う、うちに帰ったらゆっくり読んで下さいね! 絶対ですよ!』
俺は手紙を読む前に、デスゲームに参加することになってしまった。
そんな後輩は俺の事を憎悪の眼差しで睨みつけてくる。
……デスゲームは終わっていない。
俺は様々な人から憎悪を向けられていた。
「……卑怯者。あ、あんたが死ねばよかったのよ!!!」
俺は何も返事が出来ない。
あの時の気持ちはプレイヤーにしかわからない。
あんなにも仲が良かった後輩はもういない。大切な人は……もうこの世にいない。仲間だった友達もおれを庇って……。
「あ、あんたなんか死んじゃえばよかったのに!」
後輩の言葉が銃弾のように胸を貫いた。
だが、今の俺は痛みを感じる心なんて無かった。
だって、そうだろ? あの地獄を体験してきたんだ――
……なあ、リディア。……俺、会いたいよ、リディアに……。




