第六話【転写】
ガルが飛び去るように街へ向かった後、後を追ってやってきたレヴィ達。
城壁の外側からでもわかる程大きな煙は?立ち込める煙が、説明を受けていないイツルにも何となく事態を予感させた。
襲われているのだ、我々の目的地である街が。
入国管理に使われている門にたどり着いたが、見上げるほど巨大な門は片側が外れ傍らには人が倒れている。
「大丈夫か?話せるか?」
「……突然竜巻が襲ってきて、魔族が何人も……」
「分かった、もう十分だ……こいつに回復魔法を掛けてやれ」
「三パーティに分かれろ、各パーティに回復魔法が使える奴を入れろ、怪我人は見つけ次第手当!住人を安全な場所に避難させることを最優先!!全員疲労困憊だろうがここが踏ん張りどころだ!!もうひと働きしてもらうぞ!!」
「無茶いうぜ、でも一番頑張ってるお前がやるって言うなら俺たちもやって見せるさ」
レヴィの一声で彼らはすぐに三人一組に分かれ散っていった。
非戦闘員としてカウントされたイツルにレヴィは「避難所を探してそこに隠れていろ」と告げ去っていった。
──実際俺は戦闘経験0の非戦闘員なのだが、何となくこの身体は戦えるだけのポテンシャルがある。
そんなことを実感させるほど五感が冴えている。
今まで安い環境でゲームをやっていたのをいきなりハイエンド環境に切り替えたかのように、すべてがクリアそしてそれを処理する脳も機能が速い。
いつ襲われるかもわからない中で、息を殺しながら避難所を探す。
曲がり角を曲がったとき、すぐ目の前に瓦礫で足を怪我した少女がいた。声をかけようとしたとき、少女に迫りくる気配にすぐ気が付いた。
──暴力的で触れたくない程禍々しい気配、これが魔族?
角の生えたこと以外は人と変わらない見た目の男、綺麗な背広の様なものを着用している。
両手の爪は鋭く獣の武器と呼べる代物だ。
それを奴が振り上げている今、次に何が起きるのかは一目瞭然だった。
──殺される。
このまま見ていれば少女は必ず殺される。
でも俺に戦えるのか?
もし負けたらどうなる?
俺も死ぬのか?
……また、死ぬ?
……あんな苦しくて痛い思いもう二度としたくない。
振りかぶられた爪は瓦礫を砕いた。
「死んでたまるか!!」
「誰だ?俺の狩りの邪魔しやがって」
──死ぬのは御免だ、だけど誰かが死ぬのも御免だ。
イツルは少女を物陰に避難させ、魔族の前に立ちはだかる。
「殺されるとマジで痛いんだぞ!!」
「それは弱いからだろう?勝てばいいだけの話じゃないか」
地面に転がった剣を拾い上げる。
剣は剣先が折れ、鍔も欠けている。
「そんな折れた剣で何が出来る?」
構えを思い出す、あの時見た彼女の構えを。
「お前を殺して次はそこのガキだ!!」
「──抜刀!!」
◆◆◆
私はどうなった?
そうだ、シドに剣先が触れる直前。
アイツの周りを竜巻が覆ってそれに吹き飛ばされた。
脚が痛い、太ももに木片が突き刺さっている。
「──魔法が切れるくらいで調子に乗るなヨオ!!」
シドの四肢にはリング状の暴風が纏われている。
曇天はさらに黒さを増し、雷が鳴り響いている。
よろめきながら立ち上がるガルに容赦なく暴風流が押し寄せる。
ガルは右足を庇いながら紙一重のところで風を切り刻む。
右足から血がしたたり落ち、少しずつガルの剣も速度を失っていく。
遂には膝をつき、剣は身体を支えるために地面に突き刺さる。
「……何ダ?とんでもない気配の奴が近づいてくル」
「ガル!大丈夫!?って全然大丈夫そうじゃないね」
シドは混乱していた、隙だらけで折れた剣を持つこの少年に異様なまでの危険を感じていることに。
「お前、一体何なんだヨ!!」
「この剣ちょっと借りるね」
イツルはシドの方には見向きもせずガルの元に歩み寄る。
「ちょっと……私の剣!!」
「アイツ倒してみる」
「アンタが!?無茶言ってないで下がってて、ここは私が何とかするから!」
──さっきのをもう一度やればきっと勝てる。
あの魔族との戦いで確信した、この身体は本当に”勇者”の身体なんだ。
俺にはできなくても勇者ならできる。
「死んだら痛いぞ、いいんだな?」
「殺ス!!」
風を集めるシドに向かって積乱雲から雷が落ちてくる。
シドの周りに暴風に加えて雷が纏われる。
雷を纏い強化された暴風流が逃げ場なくイツルに押し寄せる。
「──動跡転写:抜刀!!」
威力とは速度である、居合の速度に自身の速度も乗せることで彼女の華奢な体とは乖離した威力を放つ。
それには彼女の類まれな身体能力と居合のタイミング、達人の技量が必要になる。
そんな離れ業を見て真似るという勇者の才能に全力で頼りきった付け焼刃の戦術。
イツルの身体は彼女の動きの軌跡に重なる様に、同一に動き暴風流ごとシドを切り裂いた。
鈍い音を立ててシドの身体が地面に落ちる。
主を失い竜巻が霧散していく、霧散していく風が雲を押し流し街の上空だけが勝利を祝福するように晴れていく。
舞い上がった埃が光を反射させ雲の隙間から光のはしごを二人の上にかけていく。
戦いの物音を聞きつけて合流しに来たレヴィ達一行が目にしたのは、
──味方の少女に思いっきり顔面を殴れれるイツルの姿であった。
元々気の強い少女であったがあそこまで怒りをあらわにしているのを見て一同はぎょっとした。
唖然とした顔でその場にいた全員が静かに事の成り行きを見守った。
「剣返して……」
「っ!!??…………い、ってて……いきなりなにすんだよ」
よろけながら剣をガルに手渡す。
カッコいいところを見せられたとすら思っていたのに、予想もしていなかった反応に痛みも忘れて困惑する。
「……悪いわね」
「そんなボロボロでどこ行くんだよ?まだ他の魔族とかいるかもしれないし、このままみんなと合流しようぜ?」
「私はいい、一人で平気だから」
「いやそんなこと言ったって、その足じゃもう戦えないだろう。俺が他の奴も倒してやるって。見ただろさっきの力、俺結構戦えるみたいなんだ」
足を引きずりながら立ち去ろうとするガルをイツルは引き止める。
──勇者の力があれば俺も役に立てる、この身体ならみんなを助けて英雄になれる。
そうすれば彼女だって少しは俺の事見直してくれるはず。
「いいから放っておいて、ついてくるならあんたも切るから」
ガルは剣を力なく握りイツルに向け、追ってこないことを確認するとどこかへ去っていった。
「おい、イツルお前一体ガルちゃんに何したんだよ?あんなに怒ってるところ初めて見たぞ。ムネでも揉んだのか?……おいイツル?おーい?……ダメだ、ショック受けすぎて何も聞こえてない」
気配で敵の力量が分かるのはごく一部の才能あるものだけ。




