第五話【城塞都市アルラハマ】
朝日が昇り始め大地の輪郭が顕になっていく。
目に入る景色は今までとはまるで別物、アスファルトや建物はなく力強い生命の息吹にあふれている。
本当に異世界に来たのだという実感に浸りながら新鮮な空気を肺に取り込む。
マントで巻物みたいにくるまれているのを芋虫の様に体をくねらせて脱出する。
夜寝る前にダイカンがマントを貸してくれたのを皮切りに他の男たちも次々にマントを巻き付けはじめ、気が付けば身動きが取れないまま眠りについていた。
レヴィ達はダンジョン攻略の帰りらしく、アルラハマという街に向かっているそうだ。
彼らはダンジョン攻略用に組まれた即席のパーティーであり、街にたどり着いたら解散するそうだ。
短い時間だったが彼らのやさしさに触れ寂しい気持ちを感じながら、アルラハマまで共にすることにした。
野営地を後にして小一時間程度でアルラハマに到着した。
やみくもに歩いていたイツルだったが、方角は合っていたのだろう。
アルラハマは六角形の城壁に囲まれた城塞都市であり、その内部は城館と城下町の二つのエリアに別れている。城館を中心に広がる城下町は蜘蛛の巣状に通りが張り巡らされ露店や酒屋などが多くある。
話に聞いていた城壁が見てきた、海の近くに歴史的建造物の様な見るからに天然石づくりの大きな城壁がそびえたっている。
「様子がおかしい.……」
レヴィが眉を顰め様子を伺うのをよそに、一人状況を察知したガルが飛び出していった。
◆◆◆
軽く身を落とし息を整え、深く踏み込む。
少女の華奢な体が軽々と12m程飛び上がり、城壁の歩廊へと着地した。
広がった視界には悲惨な光景が飛び込んできた。
雲に届くほど巨大な三つの竜巻が、地鳴りを立てて練り動いている。
逃げ惑う人々を魔族が追い詰め殺していく、護衛の騎士も住人も見境なく殺されていく。
──私たちがもっと早くたどり着いていれば防げたかもしれない。
そんなやるせなさに少女は唇をかみしめる。
少女は抜刀し街に舞い降りる。
強い憎悪と責任感に突き動かされるように身体が前へ前へと突き進んでいく。
剣は甲高い風切り音を上げ、次々と侮蔑に満ちた表情の殺戮者たちの首元へと吸い寄せられていく。
「ずいぶん派手に暴れてくれたなア?」
少年の様な出で立ち、翠色の裾の広い羽織に腰布。風によって逆立つ鳶色の髪。
裸足で空を飛び回る様はまさに風の神を彷彿とさせる。
──他の魔族とは別格の魔力、こいつ相当強い。街を襲っている竜巻もこいつの魔術だろう。
「お前も殺す」
問答無用で繰り出された閃光の一撃は軽々と回避される。
「お前あんま強くねえなア。剣速も遅えし威力も大したことなさそうだしよ、つまらないヨ」
「無名の魔族ごときが、一回避けたくらいで随分偉そうだな」
「誰が無名ダ!!ボクはなア、暴風のシドって名前があるんだヨ!!ちゃんと覚えておけヨ!!まあもう殺しちゃうケド!!」
──この魔族相当幼い、カタコトな言葉がいい証拠だ。でも幼い魔族のくせに”通り名”を持っているなんて。
魔族は人と違い家名を持たない、その上名づけをするという風習がなく彼らにとって名前とは自称でしかない。代わりに”通り名”というものがある。
”通り名”は個を主張する手段であり、強さの象徴である。”通り名”が知れ渡っているほど強く慕われる存在ということになる。
無名という言葉に激高したシドが風を押し出すように手を動かすと、束ねられた空気流が暴風流となり次々に放たれる。
魔族は基本的に武装をしない。
杖や魔法具を使わなければ魔術を使用できない人間と違い、魔族は体一つで魔術を操る。
そしてその攻撃は大抵、物理攻撃では防ぐことが出来ないのだ。
一部特例を除いて。
「コイツ、ボクの風を切ッタ!?」
「一つだけ、教えて。この街に恨みでもあるの?」
「この街でかくてカッコいいカラ、ここをボクの住処にしようと思ッテ」
「本当救えないわね、あんた達って……」
迫りくる暴風流を一太刀で切り払い、喉元まで一気に剣を突き立てる。
──そこでガルの意識は途絶えた。




