第三十七話 魔王は策を巡らせる
その後俺は、魔王の眷属になった。この契約はより強い実力を持つ方が破棄することができる。
つまり、俺の方から契約を解除したそのときが、魔王の地位を受け継ぐ瞬間と同義であるというわけだ。
魔王の下に身を寄せてからの俺は、彼はもちろんその配下たちから、闇魔法の指導を受けた。血の滲むような日々を続けて早二年。俺は魔王──ギディオンの支配下から脱し、魔王の座に就いた。
肩の荷が下りたとばかりに、嬉々として退位した彼は今、辺境で隠居生活を送っている。
魔王となった俺の望みは、一つだけ。
やっと、エラを。俺の初恋を、手中に収めることができる。
そのために、この二年を耐えたのだから。
しかし何の理由もなく、彼女を攫うわけにもいかない。魔族の多くは自立し、己の欲望のままに行動するとはいえ、それはその責任を自分一人で負うということでもある。
だがその結果、害された人間の側としては、他の魔族は何も関係ないなんて事情は知ったことではないので、魔族全体を敵視するようになる──というのは、別の話だ。この問題に関しては、既に手を打ってある。
本題に戻ろう。聖女を魔王城へと連れ去ることを、俺一人でやってのけるのは難しい。
ゆえに魔族の誰かに協力を募る必要があり、その時点で、俺一人が責任を負えばいいという話ではなくなってしまう。
また、魔王城に住まわせるのなら、城に務める魔族たちの力も、必然的に借りることになる。庇護を求めてこの場で働く彼らに、俺の身勝手な行動の責任の一端を担わせるのは不条理だ。
そのため、彼らに利のある計画を立てる必要がある。
こんな経緯を経て俺は、勇者による魔界への侵攻を防ぐ人質として、聖女を連れ去るという建前を作った。
ギディオンの残していった部下で、今は側近の吸血鬼、デクスターには事情を知られているものの、特段反対されることはなかった。面白がられている節はあるが、その程度ならば甘んじて受け入れざるを得ない。
王城へ張り巡らされた結界を破ることにかけては、彼の力を借りるのと借りないのとでは難易度が雲泥の差なのだから。
エラの世話は、カミラに任せることにしてある。悪魔に属する彼女には、二年前、俺が魔界に居を移した際世話になった。彼女を傷つける恐れのない、信頼に足る相手だ。
主にこの二人の助力の元、俺は一年かけて彼女の様子を調べ、計画を練った。
そしてやって来た、あの日。カーティスの立太子を祝う式典にて、俺はエラを攫うことに成功した。




