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序話
彼の声は、少しだけ震えていた。一拍後に返された、あたしの言葉も。
「それで、あたしに自由に生きろって?」
ゆっくりと。しかし深く頷いた“彼”が立ち上がる。
一歩ずつ距離を詰め、マントを後ろへ払ったかと思えば、流れるような動作で、彼はあたしの足元に跪いた。
優しい手つきで右手を取られたかと思えば、そこに嵌められていた腕輪に光が注がれる。
金色のヒビが入ったそれは、次の瞬間には光の粒になり、消えた。
「部下に話はつけてある。魔界に留まってくれても良いし、普通の人間として、人間界へ戻ってくれても良い。……もちろん、“聖女”に戻っても良い」
震えた声で、彼はそんなことを言う。
沸々と湧き上がるこの感情は、怒りだろうか。それとも、いとしさだろうか。
「貴女は、どうしたい」
──そんなの、決まっているじゃない。
パァンッ。
乾いた、そして大きな音が部屋に響いた。続いて、ゴトンと何かが床に落ちる音。
昔と同じ紅い瞳と、視線が交差した。どうして、と唇をちいさく動かしたのが目に入る。
どうしても、何もない。
目を大きく見開いて後ずさる彼の胸ぐらを掴み、あたしは叫ぶ。




