それは、きみのものだよ
「ヤヨイ、バカ息子に代わって謝罪をさせてくれ」
国王陛下が頭を下げられ、わたしは慌てておやめくださるよう懇願した。
「だが、きみの運命だったのかもしれぬな。しあわせになるきっかけを、バカ息子がつくったのかもしれぬ。レイモン、会談も無事終わったときいておる。ヤヨイを手放すのは残念であるが、どうか彼女をしあわせにしてやってくれ。此度の騒動の件については、あらためて貴国に謝罪と祝いの使者を送るつもりだ。おお、そうだ。たったいま王太子になったばかりのエドガーは、つい先日婚約者ができたばかりだ。二人の初仕事として、貴国を訪れさせることになろう」
「エドガー・リスナールです。こちらは、婚約者のシモーヌ・アンペール公爵令嬢です。ぜひ貴国に伺います」
軍服の胸のあたりに勲章を幾つかぶら下げている恰幅のいい青年が、一礼とともに言った。その隣では、おとなしくて感じのいい令嬢がおなじように頭を下げている。
たしか、彼女は西方地域の領主のお嬢様だと記憶している。
「こちらこそ、再会を楽しみにしています」
王太子殿下同士が握手をかわした。
長いようで短いパーティーは終わった。
「荷物はたくさんあるかい?」
王太子殿下、ってもちろん隣国のだけど、彼の部屋にひきとってから、開口一番尋ねられた。
「はい?ええ、もともと荷物は多くはありませんので」
「エドモンド、明日の朝一番に彼女の部屋に行って運んでくれ」
「承知いたしました」
「え?ど、どういう意味でしょうか」
「明日の朝、帰国するからね。慌ただしくなるけど、メイドたちにも挨拶をすませておいてほしい」
「いえ、おっしゃる意味がよくわかりませんが」
せっかくのドレスは奮闘でヨレヨレしわしわになり、髪はバサバサ状態。
部屋の片隅にある姿見に映るわたしは、とてもではないけど見られたものではない。
「殿下、ヤヨイにちゃんと説明をしなくては」
「エドモンド、ヤヨイ様、だ」
「あ、そうでした。アルノー殿。ヤヨイ様、ですね」
はい?
「ヤヨイ、父上もきみに会うのを心待ちにしていらっしゃる。こうなったら、一刻もはやく帰国せねば、迎えの軍を国境までよこしそうだからね」
「ああ、それはそうですね。おそらく、歓迎の、というよりかは婚儀の準備を着々とすすめられていらっしゃることでしょう。殿下の病が恋の病だと伝えただけで、有頂天になっていらっしゃいました。いつになるやらわからぬ結婚が、まるでふってわいたかのように現実になったのですから」
「想像できるな」
エドモンドがクスクス笑いながら言うと、アルノーたちも笑いだした。
あ、そうだわ。「ドラゴンの泪」、こんな高価なものお返ししなくては。
わけがわからない中、とりあえずはわかることからやっていきたい。
手をまわして貴重なネックレスをはずそうとすると、王太子殿下に慌ててその手をつかまれてしまった。
「そのままでいい。道中、盗賊に襲われることになっても、エドモンドが片付けてくれるからね」
「お任せを」
「いえ、これは正妃に、ですよね?」
「だから、それはきみのものだ」
「はい?いえ、わたしは婚約者のふり、ですので」
「なんだって?」
王太子殿下は、わたしの手を強く握って激しく振った。




