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13:シェラの本音

 その日、その夜。

 深き森の奥に住まう賢者の家には、珍しく明かりが灯っていた。

 普段は眠りについている二人の少女は、暖炉の火に照らされながら向かい合い、片方が片方の傷口に手を伸ばす。姉の手が妹の頬に触れた瞬間、小さな呻き声が漏れて聞こえた。


「…ッ! 痛い…」

「はいはい、動かないでね~」


 腫れ上がった頬に、緑色の液体が塗られた布が当てられ、シェラは思わず顔をしかめる。

 布自体に粘着性があるようで、張り付けられたそれは剥がれることがない。アザミはそれをシェラの顔や体、傷を負った部分に片っ端から張っていき、少女の全身を布まみれにしていく。

 その間、姉貴分の顔は鬼のように凶悪に歪み、口から呪詛がこぼれ続けていた。


「あの糞野郎共…! あたしの妹によくもこんな傷を……師匠に止められてなけりゃ、全身切り刻んだ後で消毒液塗り込んで、危な過ぎて封印した猛毒で全身浸して、絶望と苦痛で生まれて来たことを後悔させてやったものを…!」

「ねえ様…こわいよ」

「ごめんね、ごめんねシェラ。あたしが呑気に寝てたせいでこんな目に……」


 襲撃した黒ずくめの集団よりも、むしろ殺意と憎悪を燃やすアザミの方が恐ろしく見え、引き攣った顔を見せるシェラだが、アザミは全く気付いていない。

 しかし、不意にアザミはシェラにも鋭い目を向け始める。


「ていうか……シェラもシェラだからね! 師匠が言うには、あんたあたしの身代わりに攫われたみたいじゃない! 抵抗の痕がなかったって…お姉ちゃんはそういうの求めてないから! むしろ嫌いだから!」


 姉に強く咎められ、そして今まで向けられたことのない怒りの感情をぶつけられ、シェラは思わず目を白黒させて気圧される。

 それが純粋に自分を案じる気持ちであることを察しながら、シェラは気まずげに目を逸らす。


「あたしだってただ、やられるだけじゃないんだ。自衛の手段なんていくらでもある。あんたがあそこまで体を張る必要なんて……」

「…そんなの、信じられるわけない」

「あぁん?」


 ぼそっと聞き捨てならない一言を呟いた妹に、アザミの目が急に据わる。

 シェラは一瞬、しまったというように目を見開くも、もう構うものかとばかりに姉を睨みつける。


「相手は大人で…あんなにいっぱいいたのに、どうしたら逃げられるの? 刃物だって持ってた。とんでもなく身軽だった……ああいう役割に長けた連中だった」

「っ…それは、そうだけど」

「…ただの薬売りのねえ様に、あいつらの相手ができたなんて思えない」


 ぴきっ、とアザミの額に血管が浮き上がる音がする。

 鋭さを増す姉の視線にびくっと肩を震わせるシェラは、すぐにまた表情を引き締め、姉を睨み返す。


「自分で言ってたみたいに、眠りこけてたねえ様に何かできたなんて思えない。一度寝たら朝まで起きられないくせに、何とかできたなんて無責任なこと言わないで」

「そんなことない! あんたが助けを求めてくれたら、すぐにあんな奴…」

「私は刃物を突き付けられていたの! そんな状況で助けなんて呼べない! ああしてなかったら、殺されていた!」

「それは…」


 実際、師が戻って来るまで何もできなかった負い目を抱くアザミには、シェラの言葉に反論できない。すぐ近くで事件が起こっていたのに、それに気づく事ができなかったのだから。

 沈痛な表情で目を逸らすアザミに、胸が痛みを訴え出すが、頭に血が昇った今の彼女の口は止まらない。止まってくれない。


「私の…! あの時の恐さなんてわからないくせに、何とかできたなんて言わないで! 私がああしてなかったら、ねえ様が酷い目に遭ってたんだ! だから私はああする他になかった!」

「シェラ…」

「なのに…私の気持ちを否定しないで! 私のやったことを否定しないでよ! こんな事でしか……」


 理性のどこかで、これ以上はいけない。これ以上は口にしてはいけないと訴えてくる気がしたが、シェラは自分を止められなかった。

 青い顔で自分を見つめてくるアザミの眼差しに、ギュッと心臓を握りつぶされる様な苦痛を抱きながら、シェラは自身の本音を口にしてしまった。


「赤の他人でしかない私は…こんな事じゃなきゃ何も返せないんだから!」


 ひゅっ…と、目の前から息を呑む声が響き、熱を持っていたシェラの頭は一気に冷えていく。

 愕然とした様子で、自身を見つめてくるアザミの反応に、激しい後悔がシェラの胸中を埋め尽くし、背筋に冷たいものを走らせる。

 築き上げられてきた何かがいま、壊れてしまった。そう気づいたその時。


 どこからか飛来してきた一冊の分厚い本が、シェラの側頭部に激突した。


「っ…!? ふぁ…」


 ガゴンッ!!と凄まじく、耳にした者全員が顔をしかめるような鈍い音が辺りに響き渡り、シェラはたやすく意識を手放す。

 アザミも一瞬何が起こったのかと硬直するも、目を回して崩れ落ちるシェラに我に返り、慌ててその体を抱きとめた。


「あわわ……シェラ! シェラってば! しっかりしてよ!?」


 先ほどの重苦しい雰囲気もどこへやら。力無く自身の胸元に倒れ込む少女に呼びかけていたアザミは、すぐに入り口に鋭い視線を向ける。

 重い靴音を響かせて戻ってきた師を睨みつけた彼女は、鬱陶しそうな視線を向けてくる彼に、怒りを孕んだ声を張り上げた。


「ちょっとお師匠…! シェラに何してんのさ!」

「煩い」

「そんな理由でこんな物ぶん投げないでよ!」


 凄まじい剣幕で怒鳴りつけるシェラに一切怯むことなく、師は彼女達の横を通り過ぎ、定位置である椅子に腰かける。

 いつものように本を手にせず、頬杖をついた彼はアザミとシェラに目を向ける。


「…で、どうするつもりだ」

「え…? どうするって……どういうこと?」

「赤の他人をいつまでここに置いておくつもりだ、ということだ」


 無遠慮な師の質問に、アザミはひゅっと息を呑み、シェラを抱く腕に力を込める。

 妹分本人からぶつけられた衝撃的な一言、不用意な自分の言葉が引き出した彼女の本音が蘇り、自身の胸が痛みを訴えだす。

 黙り込んだ弟子に向けて、師は一切の気遣いなく質問を重ねた。


「他ならぬ本人が言ったのだ……わざわざここで面倒を見てやる必要はないだろう。望むようにさせてやればいい」

「…! む、無理だよ……シェラはまだ、あの、人との関わりが苦手で。まだ慣らすのに時間がかかるから…あ、あたしがちゃんと見ていないと」

「身代わりとなって死ぬ覚悟ができた者に、人との関わりが必要なのか。時間の無駄のように己は思えるがな」

「あ、あれは急を要する事態だったから! いつかちゃんと役に立つものだから!」

「本人が望んでいないのにか。求めていないように思えるがな」

「い、いつも一緒にいるわけじゃないお師匠にはわかんないんだよ!」


 じろりと鋭い視線を向けられ、アザミはしどろもどろになりながら反論しようとする。やや支離滅裂な返答になっていることに気付いているのかいないのか、その表情は必死で見苦しい。

 やがて、意識がはっきりしてきたシェラは、頭上で交わされるアザミと師の口論に目を瞬かせ、ハッと目を見開く。アザミが見たことがないほど、焦った様子を見せていたからだ。


「この子は…この子にはちゃんと幸せになってもらいたいんだ! 誰かの為とかじゃなくて、自分の為に生きてほしいんだ! だからあたしは…」

「馬鹿弟子よ……それは単なるエゴ(自己愛)というものだ。決して他人の為ではない……ただの自己満足に過ぎん。自分の考える幸福を他人に強要することは、果たして当人の為なのか? 自分の為ではないのか?」

「そんなことは……!」


 強く反論しようとするアザミだが、次第にその勢いは弱く、声も小さくなっていく。

 師は仮面の奥の赤い目をじっと弟子に向け、やがて興味を失くしたように顔を逸らした。


「お前が何を考え、実行しようと勝手だが、他人にそれを強要するのはやめておけ。見ていて実に腹が立つ……今一度自分の行いを顧みて見るがいいわ。傲慢な偽善者め」


 情け容赦のない師の台詞に、アザミはハッと息を呑み立ち尽くす。

 大きく見開かれた彼女の目には、うるうると大量の涙が滲み、決壊したように溢れ出す。やがて、区っと顔中にしわを寄せた少女は踵を返し、脱兎の如き勢いで師の家を飛び出して行ってしまった。


「! ねえ様…!」

「追うな」


 アザミの悲痛な表情を目の当たりにしたシェラが、慌ててその後を追いかけようと振り向くが、師はそれに一喝して制止させる。


「己が歪んだ存在であると認められぬ者に、優しくしてやる必要はない。己の間違いを受け入れられぬ者に、踏み出す明日はない。それができぬのなら、あれはそこまでの存在だったということだ」

「…! だとしても、あそこまで言う必要が、あったの…?」

「あれは我が強い…穏やかに言い聞かせたところで、過ちを認めはしない。己はいつも通りに告げただけだ」


 傷付き、逃げ出した弟子を案じる様子などまったくなく、シェラは思わずキッと師を睨みつけるも、鋭い視線を受けた本人はどこ吹く風と言った様子で、椅子に腰かけたまま寛いでいる。

 それが無性に腹が立ち、シェラの眉間により深くのしわが刻まれていった。


「何をそこまで怒る。赤の他人がどうなろうと関係がないだろうに…」

「…でも、恩人。何の関係もなかった私を助けてくれた……大切な人。だから、傷つけさせたくなかった。恐い目に遭わせたくなかった。なのに……」

「そうやって、自分一人で背負いこみ、自分ごと消してしまうつもりだったわけか。それも自己愛(エゴ)というものよ」


 ぎょろり、と仮面の奥の目が蠢き、憎々しげに睨みつけてくるシェラを見つめ返す。黒い鋼鉄で覆われた師の顔からは感情が伺えず、淡々とした口調は無機物を相手に話しているようだ。

 人の姿を持ちながら、人ではない相容れない存在に貶されているような気がして、シェラの胸中には苛立ちが募っていく。


「お前もあれと同じよ。あれの為と言いながら、己の事しか考えてはいない。お前一人が犠牲になった所で、連中は次なる手を打ってくる。その時あれは、お前を失った事で嘆き悲しみ、心を病んだだろう……お前の行いは、別の悲劇を呼ぶだけだ」

「だって……私には本当に、こんな事でしか…」

「周りを見よ、そして常に己の姿を顧みよ。己一人の善意にどれだけの正しさがある。己一人の尺度で物事を見れば、いずれ大きく己が指針を歪める事となるぞ」


 師はシェラを見据えたまま、声を荒げる事も威圧してくる事もない。淡々と、自分が引っ掛かった部分を指摘し、再考を促すばかり。

 未熟な少女達の浅はかさを、自分の思慮の浅さを見せつけられているような気分になり、シェラは恐ろしく居心地が悪くなっていた。


「……」

「認められぬならそれもいい。どうせ己は、お前の保護者ではない……名乗り出たあれも、お前自身が否定した。所詮は赤の他人なのだ。好きにするがいい」


 沈黙の中、師がそう告げると、シェラはきつく唇を食い縛り、踵を返して扉を押し開けて走り出す。師はそんな少女の背中に一瞥だけをくれ、すぐにまた元の姿勢に戻る。

 そのうちフッと、仮面の奥の赤い目の光が蝋燭を吹いかのように消え、室内に沈黙が降りた。




 肌寒い夜の森を、シェラが息を切らせて走る。

 アザミに引き取られてから1年の間に、何度も往復し回ったおかげで、師の家の近くであれば完全に道を覚えた。薬の材料を集める場所も、危険な獣が住まう地域も。

 アザミが好む、あるいは何かあった時にやってくる、お気に入りの場所も。


「……ねえ様」


 森のある一箇所、切り立った崖の上にある、突きと星空がよく見える草地。

 そこにいた、膝を抱えて小さく蹲るアザミの背中に、シェラは恐る恐ると言った風に声をかける。


 だが、アザミはその声には答えず、抱えた膝の中に顔を埋めるだけで振り向きもしない。夜風に髪を靡かせ、じっと体を丸めて沈黙し続けている。

 どうしよう、とシェラが激しい悔恨の念に駆られていた時、不意にアザミが顔を上げた。


「…あたしね、捨て子だったの。忌み子って言われて、森人(エルフ)の里から追い出されちゃったの」


 唐突に始まったアザミの告白に、シェラはハッと息を呑むも、口を挟む事なく黙って耳を傾ける。

 おずおずと彼女の傍に歩み寄り、隣に腰を下ろして同じように膝を抱える。隣に見たアザミの姿は、自分と身長差もあるはずなのに、ずっと小さく見えた気がした。


「何にも悪い事してないのにさぁ…『呪われた子だ』、『災いを呼ぶ悪魔の仔だ』、『村に厄災を齎す』なんて言われて、石まで投げられてさ…」

「…それで、追い出されたの」

「うん……父さんも母さんも一緒になってさ、あたしのこと殺しかけた。『お前は俺達の子供じゃない、さっさとどこかに消え失せろ』って。…笑っちゃうよね」


 自嘲気味に笑うアザミに、シェラは何も返す事ができない。

 ただ、どうしようもないほどに既視感を覚え、シェラは痛みを訴える自分の胸を握りしめる。なぜかはわからなくとも、胸の奥が引き絞られるような感覚があった。


「当てもなく彷徨って、迷って、歩き回ってね…とうとうこの森に辿り着いたの。お腹も空いてたし、体中痛かったし、もう死んじゃうんだなって思ってた。だ~れも助けてくれないと思ってた」


 あまりに痛々しい、しかしどこかで聞いたことのあるような過去の記憶に、シェラは自身が苦痛を抱いている気分に陥る。

 その時、語り続けていたアザミの口元が、不意に綻ぶ。それに気づいたシェラの視線に、アザミは切なげな表情のまま微笑みを見せた。


「その時にね…お師匠に出遭ったんだ」


 アザミは思い返す。彼の者と最初に交わした言葉を。

 人間が大嫌いで、顔も見るのも嫌で、誰も近寄ろうとは思わない深い森の中に引っ込み、細々と暮らしている賢者との最初の記憶を。


『…捨て子か』

『何をそうも辛気臭い顔をしている……鬱陶しい』

『そうしてただ泣きじゃくり、来もしない助けを待つつもりか。さっさとやめろ、目障りな』


 告げられた言葉の一つ一つを思い出すと、アザミは思わず苦笑をこぼす。

 出遭った最初から、子供相手に情け容赦なく、もちろん優しく気遣ってくれることのなかった彼との、今とあまり変わらないようなやり取り。

 そうしてみて初めて、アザミには気づくことが一つだけあった。


「…そうだなぁ、あたし…お師匠みたいになりたかったんだ。あの時助けてくれたお師匠みたいに……誰かを助けてあげたかったんだって、今わかった」

「……!」


 今にもまた、泣き出しそうな表情で星空を仰ぐアザミの横顔を見つめ、シェラも気づかされる。

 自分が感じた既視感の正体、それに思い至ったからだ。


 アザミと出会ったかつての自分は―――師と出遭ったアザミと全く同じだった。

 かつてのアザミは、今のシェラでもあったのだ。


「お師匠みたいに、あんたに生きる希望を見出させてあげたかった。お師匠みたいに、あんたにこの世界で生きていける力をあげたかった……全部、お師匠の真似事だったんだ」

「ねえ様…」

「だけど…ごめんね。あんたは、望んでなかったのに……あたしだけ盛り上がって」


 苦し気に顔を歪めるアザミに、シェラはぶんぶんと首を振る。

 決して謝れるような事ではないのだとそう伝えたくて、しかしそれが声になってくれなくて、もどかしさにシェラの表情が歪む。

 アザミは悲痛な顔のまま、再び決壊した涙を滴らせる。


「あんたのためにやってたつもりで…あんたの気持ちを考えてなかった。うん……お師匠の言う通りだった。ただのあたしの…自己満足だった。本当に…ごめんね」

「違う…! 違うの! ねえ様は悪くない、悪いのは……」


 自分を責め続ける姉を止めようと、思わず縋りつき自身の首を横に振るシェラ。

 そこで彼女も気づく。誰が最も間違っていたのか、そう考えたその時、何よりも先に自分自身の事が浮かんだことに。

 ハッと息を呑んだシェラは、その場にへたり込み項垂れた。


「……この関係を壊したのは、私だ。私が疑ったから……こうなったんだ」

「…だめだめだねぇ、あたし達。変な意地張って怒り合って、家まで飛び出して……何やってんだろうね」


 そう口にした瞬間、シェラの目からボロボロと涙があふれる。止める気にもなれず、自分の膝に堕ちていく雫を見つめる事しかできない。

 アザミも同じく頬を濡らし、嗚咽を漏らし始めた妹分を胸元に抱き寄せる。お互いの抱いた公開を共有するかのように、血のつながらない姉妹が抱きしめ合う。


「…あの方は、そう伝えたかったのかな。言われた時は、すごく腹立たしかったのに…今はなんだか、納得出来そうな気がする」

「…賢者様だからねぇ、こうなるのもわかってたのかもしれないな~。わざわざ焚きつけて……悪役になって、自分を見つめ直させたんじゃないかなって、今はすごくそう思う」

「……戻っても、受け入れてくれるかな」

「……さすがにもう、見捨てられちゃったかな。でも…ケジメはちゃんとつけないとねぇ」


 姉妹は苦笑しあい、互いの涙を拭い合うと、やや気まずげに師の家のある方角を見やる。

 一方的に騒いで出ていった弟子、そしてその弟子が引き取った少女。引き受ける義理などほとんどない少女達を、今更また迎え入れてくれるだろうか。

 そんな不安を抱きながら、姉妹は元来た道を一歩ずつ戻っていく。


 そうして、途中何度も葛藤しながら歩き続け、見慣れた家の扉に辿り着いた二人。

 そんな彼女達を、師は扉の前で仁王立ちし、待ち構えていた。


「…………」

「あ、あの…お師匠。その…」

「この度は……」


 無言で見下ろしてくる師の視線が恐ろしく、うまく声をだせなくなるアザミとシェラ。

 怒鳴りつけられ、追い返されてもおかしくなく、二人してびくびくと縮こまるばかりでうまく言葉が出てこない。

 師は、そんな二人をしばらくの間見下ろし、やがてくるりと背を向け、告げる。


「……煮汁でも入れてやる。さっさと入れ」


 背中越しにかけられた言葉に、アザミとシェラはほっと安堵の息を吐き、目を潤ませる。

 姉妹はきつく手を握りながら、開かれた扉を潜り、温かい暖炉の火の前に腰を下ろしてから、互いに可笑しそうに微笑み合う。


 その翌日、シェラは以前よりもはるかに深い眠りに就き、朝遅くまでぐっすりと眠り込んでしまった。

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