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12/26

11:深夜の襲撃

 シェラがそれに気づいたのは、全くの偶然だった。

 いつもなら、朝になれば勝手に覚めていた目が、今日に限って真夜中にふと瞼が開いてしまったのだ。

 まだ時間はある、もう少し寝ておかなければ明日の作業に差し支えそうだ、と考え瞼を閉じるものの、一度目が覚めてしまったためか、全く眠気がやって来てくれない。


「……おししょう様は、起きているかな」


 こうなったらもう、起きてしまおう。そう思いシェラは、いつも通り自分の身体に抱き着くアザミを見やり、一応静かに寝具から抜け出す。

 この姉貴分は寝が深い質なのか、一度眠ったらなかなか目覚めることがない。夜中に起きる事は勿論、朝あ陽が昇りきってから慌てて置き出すことが多く、あまり気にせず動く事ができた。


 幸せそうに笑いながら、すやすやと寝息を立てるアザミを後にし、シェラは師がいつもいる部屋に向かう。

 彼は、自分が起きる頃には既にあの椅子に腰かけ、白紙の本に何かを書き込む作業を行っている。いつ寝ているのかといつも疑問に思っていたが、この際確認するのもいいだろう、とシェラは少しの好奇心を抱いて部屋を覗き込む。


 しかし、師の姿はそこにはなかった。

 窓から差し込む月光のみが唯一の光源となった室内に、ぼんやりと無人の椅子が見えるだけだった。


「…それはそうか」


 少しの期待を抱いていたシェラは、思わずそう呟いて頬を掻く。

 普通に考えれば、人がいつまでも起きている筈がない。彼の方が普段、何の作業を行っているのか全く知らないが、一度も休まない事はきっとないだろう。考えるまでもなくあたり前のことである。

 少しだけ気恥ずかしさと、話すことのできなかった落胆を覚え、ため息を一つこぼしてから踵を返した時。


 自分の首元に、冷たい金属が触れるのを感じた。


「動くな」

「……!?」


 背後から聞こえてきた声に、思わず悲鳴がこぼれそうになるが、その際金属の感触がより近くに感じられ、慌てて唇を噛み締めて堪える。

 シェラの首に、鋭い刃を突き付けた何者かは、シェラの口を手で覆い、逃げられないよう抑え込んでくる。

 侵入者だ、とシェラは恐怖で凍りかけた思考の中で叫んだ。


「…何も言わず、大人しくしてもらおう。言う事を聞けば危害は加えない……だが、妙な動きをした時には―――」


 おそらくは男であろう、低い声で語りかける黒衣で顔と身体を隠した侵入者は、手にした刃を少しだけシェラの首に押し込む。

 研ぎ澄まされた刃は容易く少女の肌を裂き、一筋の傷を走らせ血を垂れさせる。その気になれば、シェラの血管は両断され、儚く命を散らされる事は間違いなかった。


 シェラは堪らず、ガタガタと身を震わせて立ち尽くす。声を上げる事も叶わず、目に涙を溜めながら、久しぶりに自分に迫った死の感覚に怯えるばかりとなる。

 この男が何者なのか、どうして自分が狙われたのか、何が目的なのか、様々な疑問が浮かぶが、恐怖が少女の思考の一切を凍り付かせ、呼吸さえもうまくできなくさせられる。


「賢者の弟子……アザミだな? 答えなくてもいいぞ。とにかく、黙って人質になればそれでいいんだ……いや、人ではなかったな」


 シェラはその問いに、ようやく現状を理解する。そして同時に、この行為の狙いにも気づく。


 この侵入者の狙いはおそらく、師。そしてその理由は、昼間の訪問者達との一件にある。

 危険な生物が跋扈するあの森を抜け、必死の思いで師の元を訪ねた彼らは、師に辛辣な対応を受けて追い出された。あの場で最も偉い立場にいたあの小柄で太った男は、その際かなり怒りを抱いていた。

 アザミが言うには、師は巷で有名な実力者。戦争に役立てるために伺うも、一切首を縦に振られなかったことで、面と向かった交渉の代わりの手段を講じたのだと。


 すなわち、弟子であるアザミを連れ去り交渉材料とすること。

 姉をさらい、脅すことで、無理矢理にでも自分達の勢力に取り込もうと考えたのだと。


「…私は…!」


 人違いだ、と言いかけて、シェラはハッと我に返る。

 ここで間違いを指摘すれば、きっとこの侵入者は口封じのために自分を殺す。そして次は、深い眠りの中にある姉を連れて行ってしまうだろう。


 この勘違いは、自分が誰にも存在を知られていないためだ。

 昼間の一件の際も、アザミは家の奥に自分を隠し、なるべく人目に触れさせないようにしていた。そのために起こったすれ違いだ。


 それに気づいた瞬間、シェラの心は決まった。


「……そうだとして、わ…あたしをどうするつもり? 言っておくけど、人質にしたところでお師匠はあたしなんかのために動かないわよ。あの人は…そういう人だもの」


 この1年、共に過ごしてきた姉の口調を真似て、挑発的な口調でシェラが語り掛ける。

 煩く脈打つ胸を抑え込み、声にその振動が伝わらないよう気を付け、精一杯の虚勢を保つ。

 この暗さの中では、姉の黒髪とは異なる薄い金髪はきっと目立たない、それだけを懸念に、シェラは必死にアザミを演じ続けた。


「さぁな……連れてこいと命じられただけだ。あとは知らんよ」

「…あ、あの人の恐ろしさを知らないの? 自分が就寝中に忍び込まれたと知ったら、貴方の命も危ないんじゃない?」

「ハッ…いねぇ奴を恐れてどうすんだ。もし気付いたとしても、俺はもう奴の目の前に居ねぇ」


 鬱陶しそうに鼻で笑い、侵入者は刃を突き付けたまま懐に手を回し、小汚い袋を取り出すと、シェラの顔に被せる。

 視界の全てが闇に包まれ、顔から血の気を引かせるシェラを横抱きにすると、侵入者は音一つ立てず西の家を飛び出し、深く静かな森の中へと姿を晦ませた。




 アザミが目を覚ましたのは、妙な肌寒さを感じたためだった。

 指先に刺さるようなその感覚に、心地よい眠りの中にあったアザミは顔をしかめ、重い瞼を無理矢理こじ開けて体を起こす。


「……ぁれ、シェラ…!? え、シェラ!?」


 寝る前に抱きしめていたはずの妹分の姿がないことに、一気に覚醒するアザミ。

 わたわたと室内を見渡し、目を見開いたままシェラの姿をうろうろと探し回った彼女は、瞬くして部屋の中心で立ち止まり、何度か深呼吸を繰り返す。


「…落ち着け、落ち着けあたし……ふぅ、いつもの事じゃないか」


 どくどくと激しく脈動する胸に手を当て、冷えた頭に血を巡らせようと試みる。

 いつも目が覚めた時にシェラの姿が見当たらず、今に向かえばその姿があり、すでに朝食を用意して待っているというのが、最近の日常である。

 むしろ、こうも過保護になっている自分が間違っているのだと、アザミは自分に言い聞かせる。


「そうだ、向こうにいけばお師匠もいるだろうし、シェラだって子供じゃないんだ……ていうか、朝になっても起きられないあたしの方が情けないんだ。之を機に、もうちょっと早起きできるように頑張……って」


 いつもばたばたと、慌てながら騒がしく朝の用意をする自分にむけられる、妹分からの冷たい視線を思い出して少し落ち込むアザミ。

 しかしその時漸く、辺りの暗さに気がついた。


「……ん? あれ、今何時? あの子、こんな朝早くから起きてたの…いや、そんな筈は」


 いくらなんでも早すぎる、と布団から出て、妹分の姿を探しに向かう。

 小用を足しに行ったのかと厠に向かい、喉が渇いたのかと調理場に向かい、師の元にいるのかと居間に向かい、家中を探し、全く姿が見当たらない事に気付く。

 あっという間に、アザミの顔色は先程以上に悪くなっていった。


「…ウソでしょ…!?」


 バタンッ!と勢いよく扉をこじ開け、家の外に飛び出し、辺りを見渡す。後で師に叱られそうな騒がしさだったが、そんなことに構っていられるほど、彼女は冷静ではなかった。


「シェラ…! シェラ! 返事をして! どこなの!?」


 半狂乱になりながら、すぐ近くの茂みに顔を突っ込み、獣道に飛び出し、少女の身体が隠せそうな箇所を片っ端から探しまくるアザミ。

 しかしどれだけ走り回っても、目を凝らしても、妹分の姿は見当たらない。


 真面目で几帳面で、それ以上に臆病で気弱な、姉を困らせるようなことは絶対にしない妹分が、自分に何の断りもなく姿を消してしまった。

 いやな予感が胸いっぱいに広がり、アザミの呼吸も乱れ始めた。


「シェラ……お、お師匠は!? お師匠はこんな時に何処に行っちゃったの!?」


 不意に冷たい風が吹き、それによって血が昇っていた頭が冷えたのか、姿の見えないもう一人について思い出す。

 室内の定位置に腰かけていた師の姿も、今この時に限って見当たらず、アザミは思わず苛立ちを募らせる。肝心な時に、一番頼りになりそうな人物が一体どこで何をやっているのかと。


 その時、アザミの背後に広がる茂みの奥から、ガサッと音が響く。

 アザミはびくっと肩を震わせると、顔を緊張と恐怖で強張らせ、勢い良く振り向き身構える。


「……誰? シェラ…じゃ、ないよね」


 アザミの震えを孕んだ問いかけに、答えはない。

 風が吹き抜け、さわさわと不気味な囁きを響かせる樹々の奥を睨みつけながら、アザミはキッと目つきを強め、声を張り上げた。


「用があるなら、さっさと出て来なさい!」


 自分でも驚くほどに、怒りが表れた声が、暗い森の奥に伝わっていく。

 直後の返答はなく、しばらくの間静かな時間が続いたが、しばらくするとまたガサガサと音が聞こえ、森の奥に動く影を見つける。

 アザミはこめかみから一筋の汗を垂らし、その影を見失うまいと目を凝らし続ける。

 すると、影は徐々にアザミの方へと歩み寄りながら、大きく腕を振り上げるような素振りを見せた。


 ぶんっと音がして、影の方から何かが投げ飛ばされてくる。

 思わず後ずさったアザミの目の前にそれは落下し、ゴロゴロと彼女の足元まで転がってくる。それを目の当たりにした瞬間、少女は凍り付いた。


「…ヒィッ!?」

「っ…!?」


 目を見開き、足から力が抜けた彼女はその場に尻餅をつく。

 そして思わず、足元から自分を見上げてくるそれを、思い切り蹴飛ばしてしまう。その際、それから声にならないうめき声が漏れ、アザミにさらなる恐怖と混乱をもたらした。


「…! ……!?」


 それは、紛う事なき人の首だった。

 頸を半ばから断たれ、顔を苦悶に固め、それでもなおぱくぱくと顎を上下させている、明らかに異様な姿を晒した何者かの顔が、目を全開にしてアザミを凝視していたのだ。

 何か声を発しようとして、首から下がないために音を出せず、呻き声しか出せない様子だった。


「……! …!」

「な、なにこれ…!? どうなってるの…!?」

「……やられたな、己が害虫駆除に勤しんでいる間に、勝手なことをしくさりおって……」


 だんだんと落ち着いてきたアザミが、恐る恐る奇妙な状態に陥っている何者かの首に近づき、まじまじと観察を始める。

 しかし、蠢く生首のもとまであと少しとなった時、彼女の目の前にさらにいくつもの生首が飛来し、ゴロゴロと転がって目の前で停止し、アザミと視線が合わさった。


「ヒィヤァァ!?」

「騒ぐな、馬鹿弟子……時間の無駄だ」


 悲鳴を上げて飛び退るアザミ。そんな彼女の元に、茂みの奥からずるりと抜け出した巨大な人影が、鬱陶しそうに告げる。

 アザミは混乱と恐怖で思考がぐちゃぐちゃになっていたが、自分を見下ろしてくる赤い片目の輝きに気付くと、途端に落ち着きを取り戻していった。


「…お師、匠」

「こういう手合いは、いつまで経ってもいなくなることがない……まったくもって面倒だ」


 そう言って巨大な人影―――師は、手にしていたいくつかの塊を地面に放り捨て、気だるげに首を鳴らす。

 ごそごそと動いているそれは、暗い中ではわかりにくかったが、よくよく見ると縛られた人間であることが分かる。だが、それらは全て頸から上が失われており、醜悪な断面が覗いて見えていた。


「……お、お師匠……なに、これ…」

(ごみ)だ」

「そんな風に言われてもわかんないよ!」


 返答さえ面倒臭そうにする師に、いい加減混乱が極まったアザミが叫ぶ。今も尚元気に悶えている首のない人間を前に、冷静に察しろという無茶振りが理解できない。

 師はぎろりと弟子を見下ろすと、億劫そうに首なしの者達を蹴り上げ、ひとまとめにする。ついでに転がったままの生首も蹴り動かし、その上に巨体を腰掛けさせた。


「…外で何やら、己に対し画策している様子だったのでな。拘束して詳しく問い質そうとしたところ、襲い掛かってきたゆえに無力化した。ちょこまかと動き回って、非常に面倒だった」

「…これ、死んでないの?」

「死体の処理が面倒だからな……後で身包みを剥ぎ、森の獣達に御裾分けでもしようかと考えている」


 丁度いい肉が手に入った、とでもいうような師の物言いに、首だけの招かれざる訪問者達―――中には女の首もある―――は目を見開き、ぱくぱくと口を動かしている。

 何か言いたげだったが、声を奪われた今、師にそれを伝える事は叶わず、師もまたそれに一切耳を傾けようという様子はなかった。


 アザミはやや引き攣った顔で彼らと師を見つめ、次の瞬間ハッと我に返る。師と首なし達の登場による衝撃で忘却していたが、それどころではなかったのだ。


「そうだ、お師匠! シェラが…」

「ああ、わかっている。己も鈍ったものだ……この塵の処理に追われている間にやられるとは」

「え…?」


 妹分が攫われたことを伝えようとしたアザミだが、師の態度に思わず制止する。

 少し考えた彼女は、ある可能性に思い至り、表情を強張らせる。


「…まさか、こいつらは囮で……本命はシェラ…?」

「…いや、お前だ。これはお前を攫うつもりで、あの子と勘違いしたのだ」

「っ…!? なんで、あたしを……」


 師の指摘に、アザミは思わず唇を噛み締める。

 そしてその瞬間、アザミの脳裏にはいくつもの情報が飛び交い、繋がり、ある真実に思い至ってしまう。

 昼間の騒動、訪問してきたあの偉ぶった男の捨て台詞、護衛達の態度、そしてこの襲撃。それらが示す真実に、アザミは愕然となる。


「……あたしを、人質にする気だった? お師匠を、無理矢理国に引っ張り込む為の…でも、向こうはシェラをあたしだと勘違いして……それで」

「あの子もそれを理解したのだろうな……抵抗の跡が一切なかった」

「…!? お師匠、わかってて……だったらなんで!?」


 師のあまりに泰然とした態度に、アザミは思わず頭に血を昇らせる。

 しかし、それを言葉に表すより先に、師はぎろりと血のような眼光を鋭くし、アザミを射抜いた。


「馬鹿者が……それはお前の役目だ。あの子を引き取ると決めたお前の責務だ」

「う…」

「己がこの塵の処理に追われている間、お前は何をしていた? 事に気付かず眠りこけ、無様を晒したのはお前の責であろうが……それを、己に押し付ける気か? 愚か者が」


 容赦のない、しかし全くの正論を突き付けてくる師に、アザミの中の熱は一気に冷えていく。

 そう、本来ならば姉になると決めた自分こそが彼女を守らなければならなかったのに、自分は暢気に眠ったまま事件に気付いてすらいなかった。

 何もできていないのに、怒りを師にぶつけようとしたのだ。


「…ぁ、ああ…! ご、めん……ごめんね、シェラ……ごめん…!」


 あまりにも浅はかで無様な自分自身の姿に、アザミはがくりと膝をつき、項垂れる。

 見下ろす地面にぽたぽたと雫が落ち、染みが広がっていく。恐怖と罪悪感で冷え切った体を、夜の風がさらに冷たさで突き刺していく。まるで世界そのものに、詰られているようだった。


「あ、あたしが…! 守るって決めたのに……大事に育てるって言ったのに……なのに、なのに…! ごめん、ごめんね…シェラ…あたし……お姉ちゃんなのに…!」


 溢れ出す涙を止める術を知らず、アザミは自分の罪深さを嘆き、慟哭する。もう二度と見られないかもしれない妹分の、最後に見た表情を思い浮かべ、さらに声を上げて泣き叫ぶばかり。

 人質という、何をされるか想像もつかない最悪の結末に、申し訳なさと自分自身への怒りで、自分の胸を掻きむしり引き裂いてしまいたくなる。


 師はそんな弟子の姿を無言で見下ろし、響き渡る慟哭を耳にしながら、やがてその傍に膝をつく。

 蹲り、身を振るわせる彼女に手を伸ばした師は。


 ゴッ!と、アザミの後頭部に籠手を纏った手刀を振り下ろした。


「っ!? ぁっだぁ!?」

「いつまでやっている。時間の無駄だと言った筈だ」

「なんで!? 何で殴ったの!? 今の流れ絶対可笑しかったよ!? …いや、普通に殴られてもおかしくないけど、あたしのやった事は」


 ジンジンと痛む頭を押さえ、ガバッと起き上がるアザミ。

 自分の責任を果たせず、確かに攻められてもおかしくはないのだが、思っていたものと異なる反応だったために、困惑で一気に涙が吹き飛ぶ。

 別の理由で、目を涙で潤ませる弟子に、師は面倒くさそうに告げる。


「嘆いている暇があるならさっさと動け……居場所は既に捉えてある。まだ奴らは、森の途中にいる」

「!」


 目を見開き、呆けるアザミに肩を落とした師は、森の奥に指を突き出す。

 それが示す意味に気付くと、アザミの顔に徐々に血の気が戻り始め、目に再び輝きが灯った。


「お師匠…!」

「一度拾ったのなら、最期まで責任を果たせ……己は、お前にそう言った筈だ」


 師の忠告に、アザミの思考は冷静さを取り戻していく。

 息を呑んだ少女は、ニッと笑みを浮かべて頷くと、すぐさま師の家に引き返し、自室に突っ込んでいく。そして、ガシャガシャと荷物をひっくり返し、出撃の用意を始める。

 師は慌ただしく情けなく、手もかかる唯一の弟子の様に肩を竦めると、追っている存在の位置に振り向き、仮面の奥の目を細めた。


「……さて、連中にも相応の罰を与えねばならぬな。己に、余計な手間をとらせた報いだ」


 そう呟く師の影が、不意に不気味に蠢く。

 無数の異形が集まったようなその影が、一斉に巨大な口を開けた。

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