48 子猫派?猛犬派?小型犬派?
アニエス・ゴーギャン…紳士・淑女教育の在り方を常に研究し、将来を担う貴族の卵を育てるレゾンデートル学園という彼女の理想を具現化した教育機関を設立した女性だ。
私達の前には、学園のマナーの授業で出されるような料理が並んでいる。4つあるのでアルバンとナディン様の分も用意してあるのだろう。
「どうぞ、お祈りをしていただきましょう。」
「はい、先生。」
お祈りをして食べ始める。
「食べながらで構いません、打ち合わせに入りましょう。以前の企画書を一応用意しています。」
「ありがとうございます。企画書の内容はほとんど前回の打ち合わせで決めた事通りなのですが、少々変更を入れたく思います。」
「ええ、どうぞ。例の件でアレクサンダー君とベティーナ君に何かしてやりたいのでしょう?」
「せ、先生?」
まさかアニエス先生の口からそんな言葉が出るとは…。
「全くその通りでございます、アニエス先生。異文化交流という点で王子に自国をプレゼンしていただくという高学年だけのイベントがあったでしょう?あれを全校集会形式にして、王子にハンナヴァルト語でプレゼンをしていただこうと思いまして。」
「アルバン、続けて?」
アニエス先生は真顔のように見えるけど、唇の端が少し上を向いている。
「殿下と、ベティーナ様に全校生徒を代表して通訳をお願いしたいと。」
「それをした事によってフェリクス王子の怒りを買う事は?」
「ないでしょう、事前に話は伝えておきます。」
「…あら、まだ了承はいただいていないのですね?」
アルバンは微笑んだ。
「親切にして差し上げたお嬢様と、公賓である自分の前で無礼を働いた殿下・ベティーナ様では一体どちらの側に付かれるでしょう?ファイアストンは我が国からあまり影響を受けない国家ですので、我が国の王族とてフェリクス王子を敵に回したくはないでしょう、許さざるを得ないと分かっている上で申し上げております。」
「なるほどね。」
アニエス先生は企画書にペンで書き足した。
「…ナディン君。」
「はい。」
「エルク君はハンナヴァルト語も出来るのかね?」
先生は生徒に対して普段はこんな感じだったね、そういえば。一貫して敬語という事は、私達は一応客人扱いなのかな?
「はい、読み書きならできますが、話して聞くことは難しいと思われます。」
そりゃあ…読み書きなら我が国の言語より単純で分かりやすいから簡単だろうけどね。問題はあの発音が出来ない事と聞き取れない事だね。
語学が堪能なエルク様ですら無理だって言うんだもの、これは無茶ぶりだろう。
「私もハンナヴァルト語を生で聞くのは久々で楽しみですね。全く聞き取れないかとは思いますが。まあ、せっかくのプレゼンだから気が済んだらちゃんと分かるようになさい。」
「かしこまりました。」
「話は変わりますが、フェリクス王子の制服の用意は順調です。アリーシア君はどうしますか?」
「はい、2年前の制服を一度着てきて、問題は無かったのでそのまま着てこようと思います。」
せっかくなので制服を着て視察してもらおうという話が出ていたのだ。
「私も制服を着て問題ございませんでしたので、着てこようと思います。」
「アルバンには聞いていないのですが、分かりました。」
アルバンの制服ってダークスーツだよね?いつも着てるじゃない。
一通り打ち合わせを終えてお料理も食べ終わったので、学園長室を出る。
「緊張した…」
いつでもアニエス先生の前では緊張するんだよね。
「アリス。」
「はい?」
「…もし、フェリクス王子があなたと結婚を考えていらっしゃるようだったら、どうする?」
「そのような事はまさか無いと思いますが、断ると思います。私は一国を治めるようなタマじゃないです。」
「そう…」
ナディン様がどことなく不安そうだ。珍しい。
「何かありました?」
「来訪の際、あなたが接待係で私は世話係だから、私の身の振りを考えているのよ。私は、王子とあなたの関係をよく知らないの。それで、王子があなたに気があった場合、どうするのが良いのか教えて頂戴。」
「ガードしてください。」
「即答するのね、アルバン。アリスの気持ちは?嫌なら私がずっと付いておくし、良い感じになりたいのならアルバンを離しておいて2人の時間を作ってあげてよ。」
「ガードしてください。」
「アルバンの気持ちはよく分かったから黙って頂戴。」
「私の考えにお嬢様の考えが従っているので問題はありません。」
「普通は逆よ。主の考えに従者が従うべきなの。」
「ナディン様はもう少しご自分の使用人を大事になさっては?」
「それとこれは次元が違う話よ。…大体、私とエルクの子猫達を再起不能にしたのは誰よ!」
「さあ?」
何か心当たりがあるお顔ですね、アルバン。
「子猫ならば、どう猛な犬にでも噛まれたんでしょう。」
「その犬って飼い主の手も噛むのかしら?」
「時と場合によるのでは?」
何の話だろう…?
「ナディン様って猫飼っていましたっけ?」
「…じゃあそういう事にしておいて頂戴。」
その時、予鈴が鳴った。もう昼休みも終わりらしい。
「そろそろ私は次の授業に移動するのだけれど、何かあって?」
「いいえ、特には。」
「そう。じゃあ、当日はよろしく。」
「こちらこそ!」
~ ~ ☆☆☆☆☆ ~ ~
学園を出ると、次は軍事学校へ向かう。
王国軍事学校は魔導学院・レゾンデートル学園とは少し離れた郊外にある。B級ダンジョン【混沌の街】の近くとでも言えば良いだろうか。その近さから、2年次の研修では泊まり込みでタイムトライアルのクラス対抗戦をしているという話も聞く。
「ワープゲートが出来たらいつでも道場破りに行けるので、車での遠征は残りわずかでございますね。」
「アルバン?」
不穏過ぎる。
外がだんだん騒がしくなってきた。道に接した柵の向こうを、軍服を着た人たちが走り回っている。もう敷地内に入ったんだろう。
「いらっしゃいませ、何のご用件でしょうか?」
門番の実習をしている生徒さんに用事を話して通してもらう。ここはこっちが緊張するぐらいちゃんとしてくれるんだよね、実習生だから。
信頼できるだけの生徒とか、バリーさんみたいに慣れが出ている人とは違う。本人や車体の確認をした後にてきぱきと誘導してもらって、車庫入れする。
「久しぶりだな、アリーシア嬢にアルバン。」
「お久しぶりです。会えるのを楽しみにしていましたよ。」
車の前に2人の男女の騎士が現れた。男性の方は豹の獣人で背が高くがっしりしている。女性の方は膝丈のスカートからすらっとした脚を包むように鎧のブーツを履いている。
「ターシャさんにアナスタシアさん!」
この2人、実はリーゼル領出身で、お祖父様の下で厳しい訓練を経てこの王都の軍事学校の共管になったらしい。
ターシャさんは傭兵出身、アナスタシアさんは山間部の先住民集落の出身で、2人とも地元ではちょっとした問題児だったそうだけどお祖父様とお祖母様が更生させて騎士の資格を取らせたらしい。お祖父様がそこまでするのだから、実力はかなり認められているはずだ。
「アルバンは相変わらず若いな!もうあれから30年経つぞ?」
「2人の老けるスピードが異常に早いだけです。」
「お~、やんのか?まだ老いぼれちゃいないし、むしろ強くなったんだが。」
「アルバン、凍らせて100回ぶちましょうか?」
…実力は確かだけど、問題児「だった」らしい。
「…。」
「あっ、ごめんなさいね、アリーシアさん。打ち合わせをしましょうね。」
「おっ、そうだな。悪い悪い。この後も何か用事入ってるんだろ?変な事で時間食ったらダメだな。」
2人は歩き出した。私達も付いて行く。
「…何かさ、その…言うか言わないかで迷っていたんだが。」
ターシャさんが振り返った。
「…大変だったな。」
そっか、騎士だから情報が回るのか。
「はい…」
アナスタシアさんが声を潜めた。
「…今は何とも言えませんが、もしフランツ様が王家に反旗を翻すような事があれば、私達は騎士を捨ててフランツ様に付く覚悟でいます。」
「えっ?!」
騎士の立場を持っている人間の反逆は、他の人間に比べて重罪。ただ死刑で済まされず、激しい拷問の後公衆の面前にさらされて弱りはてた所を殺すという人がやる事とは思えない刑罰が待っている。
「そんな…」
「俺達は割と本気だぜ?死にそうな時は王国軍に勝ちゃ良いだろ。」
「それはそうかもしれませんが、そこまで私のために危険を冒して」
「そんな馬鹿が、やたらこの軍事学校にはいるんだな。俺達だけじゃなくて、王都出身の奴らも王国軍VSリーゼル軍だったらリーゼル軍に入る馬鹿ばっかりだぞ。馬鹿みたいな忠誠心もリーゼルが相手じゃ好奇心に負けてしまうんだと。」
はい?
「好奇心?」
「皆ね、よく知らないにも関わらずフランツ様の事が好きなんです。獣人でも、女でも、平民でも、国籍があやふやでも、騎士の資格を実力で取らせてくれるって。」
その理由なら納得する。魔導師の最高位である賢者ながら、武も尊び、武人に対して見下した態度を取らないのでお祖父様は騎士や傭兵からの支持が厚い。
「義理と人情に篤いフランツ様と、不義理な理由で婚約破棄する色ボケを庇う王族じゃどっちに付くかなんて明白だよな。王族に付いてもどうせゴミのように切り捨てられるんだろうなって分かっちまうんだから。フランツ様のためなら切り捨てられる前に自分で死に場所を提案すっからな。」
「皆さん…」
「私達はアリーシアさんの味方です。」
アナスタシアさんが切れ長の目を細めて微笑む。ナヴァルト人由来の白に近い金髪とお揃いの色の長いまつ毛がしぱしぱしている。
「まっ、理由はそれだけじゃないんですけどね。」
「フランツ様ご自身の強さと、鍛え抜かれた使用人集団だろ?言わなくても分かるさ、アルバンが1番だ。」
「私はもう大旦那様の使用人ではないので、お嬢様が王族に付くなら全軍を叩き潰し、フランツ様の首を獲ります。お嬢様が大旦那様側に付くならお嬢様に代わって将軍の首を獲ります。全てはお嬢様のご意思のままです。」
「おっかねぇなぁ…」
ターシャさんが笑う。
「まあ、今は音沙汰が無いし、様子見でしょうね。とりあえずフェリクス王子の事をちゃんとしなきゃ。」
応接間に着くと、ソファを勧められる。
「見学の内容は事前に打ち合わせをしたものと変わっていない?」
「はい、ほとんどは。でも、ええと…殿下がいらっしゃらない事になったので時間がかなり余ると思います。」
「数分ぐらいなら向こうも待ってくれるんじゃないのか?王族だし、そういうのは慣れてるだろ。」
「各項目で少なくとも10分は余ります。平均して2,30分です。」
「ええっ?!」
2人して驚くのも無理はない。
だって…言えるわけないじゃん、フェリクス王子は元が生真面目だしアルバンがいる以上はてきぱき動いてくださるだろうけど、アレクサンダー殿下は一度気に食わないとてこでも動かないし、初めての外交で慣れない事も多いだろうから万が一に備えて激しい巻きを入れなくて良いようにゆとりを持たせたんだもの。
竜舎の見学や剣術の稽古の視察に至っては絶対ボイコットするって読めていた。だけど、フェリクス王子が軍事学校で特にその2つを見たがっていらっしゃると分かる以上、外すことは出来なかった。
苦肉の策として異常な長さの休憩時間を組み込んだのだ。
「…じゃあ、全部で1時間半ぐらい余るのですか。」
アナスタシアさんが色白な顔をさらに白くさせている。
「…もてなされる側の王子より、もてなす側の王子の方がワガママなのか?」
「嘘…だってアレクサンダー殿下は第二王子でしょう?対して向こうは一人息子で王の座を狙って女性が寄ってくるしよりチヤホヤされているはずじゃないですか!」
だけどフェリクス王子はアルバンからしごかれているもんなぁ…多分、ターシャさんとアナスタシアさんがお祖父様からやられた以上にしごかれていると思う。お祖父様はまだ慈愛をお持ちだもの。
「私、アレクサンダー殿下よりもっと調子に乗ったトンデモ男が来ると思っていました!」
「フェリクス王子がぶっ飛んでいるのは頭と行動ではなく、実力と性欲です。」
「なっ、何言ってるんですかアルバン!」
実力がぶっ飛んでいるのは私も知っていますけど。
「…まあ、思春期の男で、女選び放題だったらあっちもそうなるわな。」
「ちっ、違いますからね!実力だけです。というかアルバン、テキトーな事を言わないでください。」
「いえいえ、10になる前からあっちの方面でも大物になると片鱗を見せていらっしゃいましたので。」
もう何も言うまい。とにかく何かにつけて悪口を言いたいだけなんだ。
「ん~、じゃあ何か企画を足します?騎馬隊の訓練も見学されるとか。」
「でもあれは時間が決まってるだろ?急に言って変えてもらえるか?」
「そうよね…ごめんなさいね、今すぐ各部署に確認してきます。」
「待ってください。」
アナスタシアさんが部屋を出て行こうとしたのをアルバンが止めた。
「アナスタシア、総合課の視察を入れられませんか?」
「確かに私の管轄だしそこは融通を利かせられるけれど…良いのですか?」
「魔道と武術を合わせた融合格闘技ならファイアストン軍の十八番だろ?」
というか我が国の融合格闘技が、ファイアストンを真似たものなのだ。
ファイアストンを訪れた際に現陛下が軍の出迎えのパレードをご覧になったそうで、我が国の軍にもあれを取り入れようと提案して出来た部署だ。
魔力量と魔道の知識、武術の習得と広い範囲で高度なものを必要とされるので元々の実力に加えて厳しい訓練が必要なので、まだ我が国には定着していない。
それこそ、アナスタシアさんのような両立タイプの稀少な人材を各地からかき集めて、それに魔導士と剣士を加えて教育を行わせているような状態なのだ。【魔剣士】とか武闘派の【魔法使い】とかの冒険者からも高時給で雇っているみたいだし、伯爵家に仕えているアルバンにも招待がかかったぐらい人材不足に悩んでいる課で、あまり人材育成が進んでいない部門だと分かる。
「…本場の融合格闘技を見せていただきません?」
「それはありがたいですけど、軍事機密にもなりかねない事を見せていただけるでしょうか。」
「フェリクス王子のアレは人のなせる業じゃないので真似できませんし、隠す必要がないので見せてもらえるでしょう。ただ、彼の洗練された動きから学び活かせる事は多いはずです。」
「分かりました、でもその流れは私達から作る事は出来ないのでアルバン、お願いします。」
「お嬢様、お願いできますか?」
「私?!」
アルバンから言い出したのに。
「…アリーシアさん、お願いできませんか?」
「私もしていただけるよう頼んでみます。力及ばずだったらその時はごめんなさい。」
「お嬢様の言う事を聞かないようでしたら私が代わりにやって差し上げます。そしてお嬢様は『アルバン素敵!カッコイイです!』と大げさに褒めてくださいませね、絶対にやります。」
「子供じゃあるまいし。」
「お嬢様、まだ彼は子供です。」
ファイアストンでは成人ですよ。
(その頃、迎賓館では…)
「採寸は以上でございます。お疲れ様でした。」
「ご苦労だった。よろしく頼む。」
迎賓館の侍従達が巻き尺などを片付け始める。
今まで採寸をしていたのは、アリーシア殿とレゾンデートル学園とやらの視察をする際にその学園の制服を着てほしいからだそうだ。制服のサイズを調節してくれるらしい。何とも親切だな。
「王子、お袖を。」
「ああ、いつもすまない。」
この国では、自分で出来る程度の着替えも召使が手伝ってくれるらしい。賓客だから丁寧な対応をしてくれるのだな。
「…っ!くしっ!…失礼。」
くしゃみが出た。
「い、いえ。」
「(おい聞いたか、今の。)」
「(俺達より背高くて筋肉バッキバキで地声めっちゃ低音なのに、くしゃみが小型犬とかすごいギャップだわ…)」
「(失礼だけど、何か可愛い…)」
何だ?
「何かあるのか?」
「いっ、いえっ!」
間もなくして、外で待機していたクリストフ殿とカルロッタ殿が入ってこられた。アレクサンダー殿のせいでこの2人も毎日大変だな。
「採寸が終わったようだな。」
「ああ、終わった。この後は何か予定が?」
「無い。だから何かやりたい事は無いか?戦将棋以外で。」
「その言い方は悪意がありますわ、クリス様。」
カルロッタ殿が頬を軽く膨らませてから、微笑んだ。
カルロッタ殿に優しく笑いかけるクリストフ殿を尊敬してしまう…私がもしあんな風にアリーシア殿からされたら理性が崩壊するんだが。
「…あの、フェリクス王子?」
カルロッタ殿がおそるおそるといった様子で私に声をかける。
ハッとする。私は2人を凝視していたようだ。
「大丈夫だ、大体考えている事は察しているぞ。」
「そうだな、察してくれ。」
クリストフ殿は本当に皇太子としてなるべくしてなった人柄だと痛感する。
「一応言っておくが、私も最初は歯止めが利かなかったから2年間公の場でのカルロッタ禁止令、略してカル禁をしていた。」
…紳士だな。
「ああ…でもやり過ぎは良くないぞ。私は7年シア禁をやってこうなってるからな。」
「そうか。確かに7年は辛いな。フェリクス殿は後ろからあだ名を付ける派なのか。」
「そうだ。実際にアルバンさえいなければ全てが許された頃はシアと呼んでいたが、7年シア禁をやっている上に思春期真っただ中には辛いので、戒律としてフルネームで敬称を付けて呼ぶことにしている。」
「なるほどな。」
「あの…何のお話でしょうか。」
カルロッタ殿、何でもないぞ。
「話を戻す。今からやる事だな…そうだ、散歩したい。カルロッタ殿も。」
「はい!」
「今夜、翼竜に乗れそうか?」
「翼竜、ですか…私、免許は持っていないので操縦は出来ません。」
彼女は困ったように細い眉をハの字にした。
「いや、操縦は私がやる。私は最上級の物を持っているから10人乗りまでなら可能だ。」
「久しぶりに乗せてくれるのか!」
クリストフ殿が目を輝かせる。そういえば、彼がファイアストンに来た時に乗せて国を案内したら大喜びしていたな。調子に乗って1回転した事がバレてそれぞれ母親からそれはきついお叱りを受けたが、私達は共に翼竜飛行の魅力に捕らわれてしまっている。
「翼竜の貸し出しがあればな。無ければ私の従属でも良いのだが、アルバンがその従属を知っている以上、変に騒がれると困る。」
「出来るとは思う。カルロッタもどうだ?初めてだろう!」
「はい!」
そうか…初めてか。じゃあ確認しておく必要があるな。特に女性だし。
「カルロッタ殿、変な意味では無いんだが同乗者の安全確認の義務が国際的に取り決められていてな、確認させていただく。」
「私、身長160センチ、体重50キロですが大丈夫でしょうか?」
いや、身長と体重は満たしていると分かっている。幼児ではない限り大丈夫だ。
「…妊娠はしていないな?」
「はい!ちゃんと」
「次の質問を!」
クリストフ殿が慌てて遮る。
何というか、カルロッタ殿は正直なんだな。カルロッタ殿の故郷であるシエルの人々は開放的な性格だと聞くが、まさにその通りだ。
「次…月のものは大丈夫か?これは禁止が推奨される妊婦の場合とは違って貧血を起こしそうな場合だけ避けるように言われているのだが。」
「大丈夫ですわ。」
「冷え性が酷いとか、乗り物酔いするとか、体のどこかが痛むなどは?」
「ありませんわ。半時間近くスピンしても目が回りませんもの、車酔いした事ないです。」
そうか…カルロッタ殿はシエルの姫で、シエルの繁栄を願って幼い頃から踊り続ける義務があった。
以前、シエルを訪れた時にカルロッタ殿とその母君や姉君が出迎えの儀式として音楽に合わせて回り続けながら舞っていたのを思い出したんだが、あれが出来るぐらいだ、さぞ強靭な三半規管を持っているのだろう。
「じゃあ、決まりだな。」




