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悪役(の僕)なら法に触れない限り怠慢は働きません故(黒笑)  作者: 旧プランクトン改めベントス
パンケーキ~層を重ねる度に増える贖罪(食材)~
43/71

41 第一部、これにて閉幕

この話で第1章が終わりになります。


コメント、ブックマーク登録、評価ありがとうございました。

これからも婚約破棄の第2回開催と断罪、ざまぁ展開を期待してくださると光栄です。

 馬車が屋敷の裏門に着いた。


 「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 「うん?」

 アルバンにエスコートされて降りると、侍女が2人いた。


 「あら、あなた達は…」

 「留守の間、掃除や洗濯など別館の簡単な管理を任せておりました。」

 「そうだったんですね。ありがとうございます。」


 「いっいえ、そんな事」

 「お嬢様、私はこの後、片付けがございますので、その間ご入浴なさってくださいませね。」

 「はい!」


 「ごっ、ご案内いたします!」

 あれ、さっきこの2人が何か言おうとしていたけど…まあ良いか。私は2人に付いて行った。



 ***



 「お着替えはこちらに置いておきますね。」

 「はい、分かりました。」


 「アルバンからお嬢様のご入浴の同伴はしないで良いという風に伺っておりますが、いかがしましょうか?」

 「はい、1人で入ります。」

 アルバンが伝えていてくれたんだ…。


 「かしこまりました。では、私達はこちらで待機しておりますので、お気軽にお声かけください。」

 「はい、ありがとうございます。」


 1人で湯舟に浸かる。

 「ふー…」


 『1つ上の姉さん女房だったらそりゃあ気に食わんだろうな』、か…。


 ――「私も彼を男性というよりは弟として扱っていた部分があって、それが面白くなかったんだろうなって。」――

 そっか、そうだよね。自分で答えは出せていたはずじゃない。


 殿下に婚約者として初めてお会いした時、とてもキラキラして見えた。私の知らない事をたくさんご存知で、この人の奥さんになるためにはたくさん頑張らなきゃって思っていた。

 お父様の勧めてくださった学園も、王族が通学される場所と聞いて努力した。学校というものに通った事はそれまでなかったのだけれど、殿下の隣にいて恥ずかしくないように、って。


 でも私の尊敬していた人たちは、同級生も、殿下も、ベッティも…芳しく結果が出なかったみたいだ。ナディン様みたいに途中から仲良くなれた方もいたけど、殿下はそれが許せなかった。


 クリストフ様が優秀だった上に私に負けて恥ずかしくないのかと言われたらしい。

 だから私は殿下にデートの機会を増やす事もかねて勉強や魔道を教えていたのだけれど、私の顔も見たくないとだんだん避けられるようになってしまった。


 そんな時、飛び級の話が来たので私は殿下にこれ以上辛い思いをさせぬよう2年早く卒業した。

 それでしばらく落ち着いてくださっていた殿下だったけど、だんだん横暴が過ぎて私に課題をさせるようになった。身のためにならないと押さえておくべき問題を絞ってさせようとしたら怒ってしまわれた。


 本当に…殿下にとって私は何だったのだろうか。



 お風呂から上がり、服を着る。

 今回はアルバン以外の目があるので下着で廊下を闊歩するわけにはいかない。あれ、なぜ女性の目を気にして男性の目を気にしてないんだろう?まあ良いか。


 着替えたら侍女のお姉さん達に髪を乾かしてもらう。


 健康的なピンク色の爪は短く切りそろえられており角が磨かれている。仕立ての良いブラウスから出た4本の手がそっと丁寧に私の髪を乾かし、梳いていく。

 ドロシーちゃんやルージュさんには悪いけど、本当にこの人達が人間で良かったと思う。

 ※34「①お嬢様は②明日③…⑤キスをする。」の冒頭


 というか今思ったけど、ルージュさんってあれだけ長い爪してるのによく器用に髪型をアレンジ出来たよね。

 ※21「純愛と純粋こそ、その男の死活問題」の本文後半



 カジュアルドレスに身を包み、部屋に戻るとダークスーツに着替えたアルバンがいた。

 「お嬢様、お疲れ様です。」

 「アルバンこそ、お疲れ様です。」


 「お茶を淹れて差し上げますね。」

 アルバンがハンドサインで侍女のお姉さん達を追い出した。


 揺り椅子に座っていると、庭園で分けてもらった鉢植えが目に入った。


 「あっ、お花は窓際に飾ってくれたんですね。」

 「はい、出来るだけ日光に当てた方が良いので。少し熱くなるようでしたら陰に入れましょうね。」

 「ありがとうございます。」

 「いいえ、お嬢様のためですから。」


 アルバンが淹れてくれたお茶を飲む。ルートさんが淹れてくれたお茶も美味しかったけど、やっぱりこれだなぁ…。


 「…ねえ、アルバン。」

 「はい。」


 「アルバンもお花、好きなんですか?」

 彼はしばらく考え込んだ後、うなずいた。

 「嫌いだと思った事はございませんので、好きな部類だと思います。」


 「あなたらしい答えですね。」

 基本はあまり他に興味を示さない彼らしい。なぜかダンジョンではっちゃけていたけど、普段は素でも猫を被った状態でもこうなのだ。


 「とにかく、アルバンがお花に詳しかったので助かりました。新しい家族が増えたの、アルバンのおかげですね。」

 「…。」


 「アルバン?」

 「失礼いたしました、ちょっと考え事をしておりまして。お褒めいただき光栄です。」

 ふーん、珍しいの。


 「考え事しているなら邪魔しちゃ悪いですよね、静かにしておきますのでゆっくり考えてくださいね。」


 しばらく窓の外を眺めていると、アルバンが「お嬢様」と声を掛けてきた。


 「まとまったんですか?」

 「はい、お嬢様の寛容なお心に預かりました。」

 「それは良かったです。」


 「お嬢様、私は今から少し席を外しますがその前に御用事はございますか?」

 「いいえ、特には。」


 「かしこまりました、では何かございましたらお呼びください。湯浴みのお手伝いをさせていただいた者達はもうおりませんので、次は別シフトの侍女が夕食を持ってお部屋に伺う時でございます。その間この館はお嬢様と私の2人きりですのでごゆっくりどうぞ。」

 もしかしてそれを思い出してたんでしょうか。


 「では、失礼いたします。」


 アルバンが退室してから、私は花を愛でたり本を読んだりしてぐ~たらして過ごした。


 だから彼が彼に当てられた執務室で忌々し気に顔を歪めて舌打ちしていた事も、「何が家族だよ」とつぶやいて王族の封蝋のしてある封筒を開けていた事も知らなかった。



 男は忌々し気に封筒を開けて便箋を取り出そうとしたが、ドアの前に人間の気配がしたので封筒を本の下に隠した。


 「失礼します、メアリーとジェーンです。」

 まもなくノックと共に女の声が聞こえた。自らの主にシフト制で仕える侍女のものだ。


 「どうぞ。」

 男が入室を許可すると、女2人はおそるおそるといった具合に入ってきた。


 「…シフト交代でしょう?もう帰って結構ですよ。」

 男はドアの前に立つ女2人に言った。


 「あっ、アルバンさん…」

 「ごめんなさい!」

 女2人は頭を下げた。


 「遅刻してしまって…」

 「本当に、すみませんでした!」


 アリーシアは気付かなかったが、男は侍女2人が別館の掃除洗濯を言いつけられていたにも関わらず就業時間から2時間後に集合した事を知っていた。車が見えて、慌てた彼女達が本来ならば既に完了していたはずの作業の手を止めて車を出迎えた事も知っていた。

 だからこそ彼は早めの昼食をアリーシアに提案し、帰宅時間を遅らせたのだ。


 彼女達はもう自分たちのやるべきだった作業を完了させて、男の前にいるのだろう。だから大して男はどうとも思わなかった。


 「…別に、支障が無ければ良いんです。ここ最近、帰れていなかったでしょうし、子供との時間もたっぷり取るべきでしょう。それに、休む間もありませんでしたから寝坊したのも仕方ありません。」

 「なぜそれを…?!」

 「えっ…」


 「私は従者、お嬢様のために最善を尽くす義務があります。当然その傍にいる人間の情報も得ています。」


 だからと言って、急に子供が熱を出したとか寝不足で寝だめしていたら就業時間を過ぎていただとか細かい事情を知っている理由にはなっていない。

 だが、侍女2人は目の前の男がシティハウスとカントリーハウスの使用人を合わせても3本指に入る有能な人間だという噂を思い出して、「アルバンだから」と無理やり納得する事に成功した。


 「お嬢様ならあなた達にこう仰るでしょう。『早く帰ってください』、とね。なので、私に謝る時間があれば子供さんの具合を見に行くなり、しっかり休むなりしてきてください。ロードには遅刻の報告はせず規定時間働いたように伝えておきますので、有給休暇の2時間とでも捉えてください。」


 「はい!」

 「本当にありがとうございます!」

 女2人は男に深々と頭を下げ、部屋を出て行った。


 女達が離れたのを確認し、男は本の下から封筒を取り出し。便箋に目を通した。


 「クリストフ殿下…なるほどねぇ、あの『金のヒヨコ』を通しちゃうんですねぇ。」

 文面を確認した男は机の引き出しを開け、騎兵の小さな人形を握って頭をぐっと親指で押さえつけた。


 「馬鹿だなぁ、お嬢様は淫魔に言われて初めてあなたの事を思い出されたんだよ。あなたのトラウマに、ね?」


 男は楽しみで仕方ないというように口元を歪めた。

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