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悪役(の僕)なら法に触れない限り怠慢は働きません故(黒笑)  作者: 旧プランクトン改めベントス
パンケーキ~層を重ねる度に増える贖罪(食材)~
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9 でもそれは当然の事

 「さま、お嬢様…」


 声がしたので目を開けると、いつものダークスーツではなくおめかししているアルバンがいた。


 「お目覚めでしょうか。」

 「はい。おはようございます、アルバン…お昼寝って質の良い睡眠をとれるものなんですね。」


 「ふふ、ここの所睡眠不足だったからでございましょう。さっ、お着替えをいたしましょう。」

 「はい!」


 なんだか頭がスッキリしている。


 「アルバンの私服、久しぶりに見ました。何を着ても様になりますね。」

 「はい、気合を入れて参りました。これで多少はお嬢様と釣り合いましょうか?」

 「あははっ、逆ですよ。私が見劣りしますって!」


 見劣り…そうだね、私は殿下にもベッティにもアルバンにも…。


 「お嬢様、またネガティブな事を考えられましたね?」

 「えっ、いや、その…だって、そうじゃないですか!」


 「従者としてしつけを致します。罰として今夜は寝かせませんよ?」

 「寝ませんよ!そもそもダンジョン内で眠るのはよっぽどの事が無い限り自殺行為じゃないですか。」


 いや、アルバンと一緒ならワンチャン大丈夫かもしれないのか。


 「そういう意味ではありません…が、またそれも良しとしましょう。」

 はい?


 「何か拗ねてます?」

 「お嬢様は…ませていらっしゃるようで、健全な方なのですね。」

 「えっ?」


 「お嬢様、本っ当にあの下衆に食い物にされなくて良うございました!」

 はい?


 「もう、殿下の事は良いでしょう?」

 もはや不敬についてはツッコむまい。


 「あっ…あのアホもでしたね。そういえばそうか。」


 「殿下以外、誰がいると言うのです?」

 「…いえ、何でもございません。」

 あっ、何か隠した。



 「ん~アルバン、これとこれならどちらが良いでしょうか。」


 カジュアルドレスを2着見せると、アルバンは首を左右に振った。


 「あっ、もしかして遠出でしょうか?」

 「このぐらい気合を入れてくださいませ。」


 アルバンが見せたのは、王室御用達のデザイナーに作らせたひざ丈のカラードレスだった。お茶会とか良い所のディナーに着ていくような略装のおしゃれ着とかいうやつ。


 「…今から行くのってダンジョンですよね?」

 「はい。」


 「ダンジョンに行く服装じゃないですよね?」

 「はい、でも攻略に行くわけではないので。」


 あっ、そっか。元々はご飯を食べに行くだけなんだよな。それにしては気合が入り過ぎだけど。


 「貴族~って分かる格好で大丈夫でしょうか。」


 今日は第二王子の誕生パーティーだし、出席しない貴族とかほぼいないんだよな。


 「大丈夫です、平民しか見ていないようなキャストに王室御用達のレイチェルブランドなんて分かりやしませんよ。」

 「それはバカにし過ぎです。」


 「でもお嬢様だってレイチェルの名をご存知になったのはシティハウスに移られてからですよねぇ?それもあのアホ王子のブランド自慢が全く分からず私にお聞きになったじゃありませんか。」

 「…そういえばそうですね!」


 よし、分からないのは恥ずかしい事じゃない。


 「でもライターの名は各地に届いております故、お嬢様にはアリスと偽名を使わせていただいております。」

 「分かりました。」


 ドレスを着て、お化粧をして…髪も一つ結びだけど髪飾りでドレスに合わせてもらった。


 「…お嬢様、お綺麗です。」

 「え?」


 「お綺麗だと申し上げたのです。」

 「ええ…?」


 アルバンにストレートにお世辞を言われたのはおそらく初めてだ。


 「アルバン、どうしたんですか?」

 「私はどうとも?」

 「だって、綺麗だなんて…」


 アルバンはしばらく考え込んだ後、真顔になった。


 「…これから向かうダンジョンには、男の吸血鬼やインキュバスやその他諸々がおります。よって、そのキャストに毒を抜かれるぐらいなら私が一番やr…コホン、耐性を付けて差し上げているのです。」

 「なるほど!ありがとうございます。」


 「まあ…あまり派手な演出はしないよう伝えてありますが。」

 「そうなのですね、ますます楽しみです。」




 別館をアルバンと一緒に出る。裏門に馬車が付けられていた…とはいっても、馬はいないのだけれど。


 私がアルバンのエスコートで乗ると、私は馬車に魔力をこめた。この馬車は車輪に魔導の術式を組んでいるので魔力を入れれば半永久的に動く。あとは、アルバンが行き方を考えて速さや向きを調節して目的地まで連れて行ってくれるだけだ。


 だから基本はこの2人で良いのだけれど、王宮へ行く時などは体力温存のために馬と御者に頑張ってもらっている。


 「わ~、速い!」

 「ダンジョン【混沌の街(カオスタウン)】まで飛ばしますよ。」


 「…へ?」

 「どうなさいました?」


 いやいや、確かにここからは近いダンジョンだけれども。


 「【混沌の街】って、B級ダンジョンですよ?手練れ冒険者でも5人以上のパーティー組んで入る所ですよ?」


 「お嬢様、ですから攻略ではないのです。ダンジョン飯を食べに行くだけです。」

 「そうではなく…そんな大御所によく要求が通りましたね。」


 B級ダンジョンを冒険者ぐらいになると、そこそこ有名人が多くなるし、王族のパーティーに呼ばれるついでに寄って行こう、みたいになるんじゃないの?だから今日はお客さんがいなくても準備とか大変だよね。


 「金さえ積めばなんぼの世界ですので。」

 「…。」


 おそらくお金以外にも何か力が働いてると見た。


 「何か脅したでしょう?」

 「脅しは(・)しておりません。」


 「何したんですか!」

 「ボスと受付嬢を懐柔しました。」

 ヲイ。


 「何してるんですか。」

 「あのアホ王子から解放された反動でつい走ってしまいました。」


 「飛ばし過ぎです。」

 羨ましいほどのコミュ力と行動力。


 私が執務室で倒れた夜、アルバンはパーティーの準備をする他の使用人に紛れて、別館と本邸の私の部屋の内装を私ごと入れ替えたりダンジョンで職員を口説き倒したり予約入れたり使用人に買い出しに行かせたり下着買ったりしていたのか。


 有能過ぎるというか、エンジョイしているというか。


 「…あっ、だから吸血鬼とかインキュバスがいるって知ってたんですね。」

 「はい。下見は済んでおりますので、お嬢様を完璧にエスコート出来ます。」

 「心強いですね。」


 「床が整備されていたのでこのドレスコードで問題無い事も確認の上です。」

 なるほど、さすがアルバンだ。


 その頃、城では宴も一段落して、パーティーの残るわずかなプログラムはダンスとなっていた。

 主役であるアレクサンダーは、毎年の例に従うならば婚約者のアリーシアと最初に踊るので今年はベティーナと踊るのだろうと思っていた。


 しかし彼が席を立つと、国王と次期国王である彼の兄が止めた。

 「どこへ行く?」


 「ベティーナの所です。最初に踊るのはやはり彼女でしょう?」

 「それは出来ない話だな。」


 「なぜです?アリーシアは」

 「いないからだ。」


 アレクサンダーは兄の言った事を理解できないでいた。

 アリーシアとの婚約は破談となっているので、認められてない仲とは言えベティーナと踊る事は問題無いはずだ。


 「私達の監督において、お前を見張っておく責任がある。」

 「どういう意味です?」

 「好き勝手させないという事だ。」


 「でも今日は私の誕生日ではありませんか。」


 だからこれまで通り、多少のお茶目は赦してもらえるはずなのだと彼は確信していた。例年通りにいけば…。


 アリーシアは去年までの誕生日パーティーの時、踊るのを「曲が気に食わない」「足が痛い」「疲れた」とぐずろうが笑って許していた上に父上や母上に上手く言い訳してそのように取り計らっていたではないか。

 いくら優秀だったとしてもそのような甘さで第二王子の妻が務まるとは思えなかったし、彼女との婚約を破談にした事について正当性ならいくらか見出せそうな気はした。


 「アレク…もうお前を甘やかすアリーシア殿はいないのだ。」

 「アリーシアの手を借りねばお前は何も出来んのか。」


 父と兄に呆れたような目を向けられ、アレクサンダーはアリーシアを逆恨みした。


 「いいえ、彼女は私を甘やかしすぎました。これからは自らに厳しくありたいと思います。」

 「それで?」


 「ですから、私はパーティーが興ざめにならぬよう、終始社交として踊ってまいります。」

 「はー…」


 王族としての務めを果たす事で見直してもらえるはずだったのに、2人の評価はますます下がっていく。


 「え?」


 「それは王族という国の顔として当然の事だ。お前はサボっていただけで。」

 「当たり前の事をして何を誇らしげにしているのだ?」


 何かがおかしい、とアレクサンダーは思った。


 まだ彼がアリーシアをそこそこ愛していた頃、踊りたくないとぐずって別室に連れて行かれて待つように言われた。

 しばらくしてアリーシアが戻って来てからは2人でチェスやカードゲームをして遊んだ。それからアリーシアが最後2曲だけ踊りましょうと言うので言われた通り、母とカルロッタとだけ踊った。それらが終わった後、アリーシアは褒めちぎっていたのに。


 ここで社交をボイコットせずに全てやると言ったならばアリーシアは鉄仮面ながら褒めていただろう。それなのに…なぜだ?彼は分からなかった。


 「…。」


 「もう良い、とにかくベティーナとは踊らせん。したがって、1曲目の相手はいない。無様だな。」

 彼の兄はそう言い捨て、自身の婚約者であるカルロッタをホールの中央までエスコートした。彼の父も同じように王妃をエスコートして去っていく。

 彼だけが、王族の席に取り残された。このような経験は彼にとって初めてである。


 次の曲も、そのまた次の曲も、誰も彼に話しかけようとしなかった。彼の他の家族は誰かしらとダンスをしているというのに彼は不思議でならなかった。


 というより、1人になる経験があまりに新鮮で仕方なかった。なぜなら最後の3年だけは1曲目をアリーシアと踊った事があるし、踊らないときでもアリーシアが彼を1人にしておくような事はあまり無かった。

 それに誰と踊れば良いのかは彼女が指示していたし、踊りたくないとぐずらなかった時には彼を誰も放っておかなかった。誰かしらが自分の娘と踊らせようとしていたし、どこかの貴婦人や令嬢が声をかけていた。


 「そういえば…あいつら、全員来る時にアリーシアの方見てたな。」

 それだけが不愉快だったのを彼は思い出した。主役は自分なのに、と。

 よもやアリーシアが誰かしらに視線を投げかけたり声をかけたりしていた事は気に留めてもいなかったので、彼にその理由が分かるはずもなかった。


 しかし1人になって去年までとの違いをえんえんと思い出す度、彼はアリーシアの存在を痛感する事はした。

 それでも彼女とよりを戻す気にはなれず、彼は元婚約者に責任転嫁をし続ける事によって言い訳を並べていた。

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