お仕立て 舞踏会ドレス 7
井戸から水を汲もうと思ったけど、痛みで上手く握れず、左手でレバーを掴み体の重さを使って押し込んだ。
バシャッとバケツに水が入る。私はそのバケツの中に手をいれた。
「痛…あれ?」
手を覆うリトから受け取った布が水の中で煌めいて見えた。思わず月明かりだろうかと空を見上げたが、空は暗いままだ。明かりは少しの星と隣家のランプから洩れる光だけ。
もう一度バケツの中を見ると、バケツの中が光っているのが今度は分かった。
思わず唾を飲み込み、見入る。
「こんばんは、お嬢さん」
意図しない声に肩がビクッと跳ねた。バケツの水が跳ね、慌てて思わず息を深く吸い込みすぎて、咳き込んでしまう。
来訪者は私の背中を擦ってくれて、ようやく私は落ち着いてきた。
「ど、どこから…?え、もしかして呼び鈴ならされました?」
来訪者はユーディト様だった。朝会ったときみたいに、ショートマントにシャツ、細身のパンツの出で立ちだ。
「すまない、驚かせてしまって。君と秘密で話をしたくて、直接お邪魔した。こうやって…ね」
ユーディト様は右手を横に伸ばし、何もないところを撫でる。その先には今日見た公爵家の部屋の中が見えた。
私はユーディト様の顔を思わず見る。
「え?え?どうして?」
ユーディト様は私の問いには答えずに、再度撫でると、いつも通りの暗い庭に戻った。
ユーディト様の手はゆっくり自身の髪を耳にかける。あの特徴的な、上部が尖った耳が見えた。
「あと、君これ見えてるだろ?」
「えっと…耳ですか?ちょっと上の方が尖ってるぐらいですけど」
少し形が不思議ではあるが、それが何かあるのだろうか?
話の意図が分からず尋ねると、ユーディト様は弾けるように笑い出した。
「すまない、君はこういう話には無縁なんだな。魔女に気に入られている以外は」
「…魔女に…気に入られている?」
突然の公爵婦人来訪だけでも驚愕なのに、突然魔女が出てきて思わず体が強ばり、自分の声が低く発せられてしまった。
私の様子に公爵婦人は笑いを止め、見つめてくる。
「君、魔女にされそうになってるだろう?
魔女の痕跡がある」
「…」
「魔女に無理やり魔力の扉、開かれたみたいだね」
「…魔力を開く…」
「そう。」
公爵婦人はゆっくり私に近づくと少し屈み込み私と視線を合わせる。
話の内容は理解はできないけど、公爵婦人の緑色の瞳は警戒心も敵意も見えなかった。…とりあえず、もう少し話を聞いてみよう。
私は気持ちを強く持ち直すとユーディト様の目を改めて見つめ直した。




