お仕立て バックの補修 終
明くる日の昼前にバックの補修を終えた私は、カイさん経由でファティマに出来上がったことを伝えてもらった。
ファティマ、弓が上手だから騎士団の弓兵への指南を今はやってるんだって。確かにウサギをとったときの身のこなし方とか、すごかったもんね。
部屋の扉がノックされる。
「はい、どうぞ」
サラから依頼されていたパジャマを脇におき返事をするとファティマが入ってきた。
「こんばんは、リゼ。カイから連絡を受けました。
もう体調は大丈夫なのですか?」
「ファティマの前ではいっぱい泣いたし変なことも聞いたりしちゃったけど大丈夫!
ファティマから依頼を受けたバックも直せたよ」
私はサイドテーブルに置いていたファティマのバックを取り寄せ、ファティマに渡す。
おもいっきりアレンジしてよい、とも言われたのでかなり大幅に変えてみた。ファティマの目が大きく見開かれたかと思うと、笑みが浮かんだ。
革は裂けた部分だけを直すと目立ってしまうので、全体にダブルクロスステッチをかけて破けた部分の縫合が目立たないようにした。裏からも革を当てて補強もしている。
ステッチが黒のストライプのバックのようにも見える。
ファティマが開いたバックの中は、ファティマの服と同じ淡い青地の布で裏地を作ってみたのだった。
「リゼ、ありがとう。
とってもすてき。まるで新しいバックみたいです。」
「本当は革の水に濡れたあともなんとかしたかったんだけど、クリーム塗るくらいしか対応ないみたいで…」
革の直しはあまりしたことないから、昨日ご婦人に聞いたらクリームを薦められたのだ。全部は直らないけど目立たなくはなる、との忠告も頂いて。
「いえ、刺繍でかなりでこぼこも目立たなくなりました。
ありがとう、リゼ」
ファティマが包容してくれたので、私も軽く抱きついて返す。
ちょっと気恥ずかしい気持ちもあるけど、これが本当のファティマのリアクションなんだと思う。
「気に入ってもらって良かったー。結構変えちゃったから心配だったの」
「とってもすてきですよ。バックの中にも布を当ててもらいましたし」
ファティマがバックの中をのぞきむと、動きが止まった。やがてバックの中から糸巻きを取り出す。
「…この糸巻きですが、たぶん魔女のものです。魔女と騎士団が戦った跡地に行った際に見つけました。繭のような蔦のなかに埋もれていたんです」
私は息を飲んだ。この糸巻きが…
「魔女…南の方で出てるって。
…ねえ、ファティマ。この糸巻き、私もらってもいい?」
自分でも思わぬ言葉が口からついて出た。
「私、魔女が怖いけど、もし…もし魔女なら…自分で自分を止める物を用意しておきたいの。
まだ、私が私であるうちに」
「リゼ」
「ファティマに違うっていってもらえて、私も今は違うと思ってるよ!?でも、もしもの場合に…」
「…リゼ、私あなたは魔女じゃないと確信もって言えるけど、次の旅で魔女が別にいて、その魔女がリゼを巻き込んでいる証拠を掴んでくる」
ファティマはバックを脇に抱えると、右手を差し出した。手を軽く握り小指を立てている。
「ゆびきり。約束するから、リゼ、待ってて」
私は自分の右手小指をファティマの指に絡ませた。
「ファティマ…ありがとう。私、待ってるね」




