お仕立て バックの補修 2
ファティマからバックを借り受け、まじまじ見ると、それ以外にも細かい傷も見える。それに革製だけど頻繁に水も浴びていたようで、斑な染みや膨れも出来ていた。
「おもいっきりリメイクしちゃっても大丈夫?」
「もちろんです。でも旅を続けていきますから、ほつれにくいようにお願いしますね」
「うん。丈夫に作るわ」
バックの回りをしげしげ眺めながら返事をする。…うーん、どんな風に作ろう。いい案がすぐ出てこない…
唸っている私の脇でリトがファティマにお茶とお菓子を勧めながら話をしている。
「次はどこの国に行くの?」
「そうですね。捜索中に実は魔女の眷属らしき者と手合わせしたのですが、決定打を与えられなくて。
魔女の手がかりを探しに旅をしてみようかと」
ファティマの話を聞いて思わず肩が跳ねた。
あのキレイな騎士団長も、私が魔女に捕らえられていた、と話していた。
なんだか自分が魔女ではないのに…魔女のような気がして、たちまち喉の乾きを感じた。私はどうして…魔女のところにいたんだろう?
急に頭になにかを打ち付けられたような激しい痛みを感じた。ファティマのバックが手から滑り落ち、テーブルの上で跳ねた。
ガチャン、とテーブルの上のティーカップがバランスを崩し音をたてる。
私の視界も傾いだ。
「リゼ姉!」
リトの声が聞こえ、話そうとしたが呂律が回らない。
「リト、お医者さんを呼んでください。私がリゼをベットに運びます。」
ファティマの声が聞こえ、体が浮く感覚を感じたとたん、私の意識は途切れた。
私は服を縫っていた。パフスリーブのドレス。
お母さんに言われて、唐草をドレスの全体に刺繍していく。こんなに細かく、たくさんの刺繍、いつもだったらもっと時間がかかるのに、不思議とすいすいと刺繍をして行けた。
「リゼ、あなたのこの力は、魔女になれるわ。
魔女はね、魔術師と違うのよ。
魔術師が作る魔方陣なんか、ただの児戯。
魔女はね、作ったものに魔力を籠められる。そしてその魔力はすぐさま作動するの。
私の糸と、あなたの刺繍を施した服、合わさればすごいことになるわ…この国を数時間で廃墟にできるくらい。
楽しみね、私たちを、魔女をバケモノのように敵外視するこの国がなくなるのは。…ああ、バケモノとされてしまうから、大がかりな刺繍は私以外には作っては駄目よ。
かわいい、かわいいリゼ」
怖くてお母さんの顔を見た。笑った顔はお母さんよりもずいぶんと幼く見えた。




