ヌエバ・エスパーニャ副王領
「¿Hasta cuándo hizo este tipo de edificio?(いつの間にこのような建物が出来たのだ?)」
「¡No había tal edificio en el mes pasado!(こんな建物、先月には無かったぞ!)」
「¿Quiénes son estos chicos?(この者らは一体何者だ?)」
名護屋城の大広間に集まった諸侯らの前で、島津義弘に連れて来られた男達3名が意味の分からない言葉で会話をしていた。
一様に疲れた顔をしていたが、秀包らと建物を見回して呆然とした顔をし、ハッとしたかと思えば仲間うちで盛んに言い合っている。
異世界人かもしれないと秘かに期待していた秀包であったが、彼らの姿に浮かれた気分はすぐに消え去っていた。
それもその筈で、
「あれって十字架だよね……」
「ロザリオでござったか」
城を見て驚愕していた彼らは、胸に下げていた十字架を取り出して何やら叫んでいた。
想像するに「おお、神よ!」であろうと思う。
フロイスが常に身につけていたモノと同じである。
故に彼らの正体は容易に知れた。
「南蛮人って事だね」
「なのでござろうな」
異世界ではない事に気づいてがっかりすると共に、ではここは一体どこだと思う。
広がる大地の大きさから日本でない事は予想がついた。
「こやつらは何者なのだ?」
集まったうちの誰かが言った。
捕まえた義弘が答える。
「切支丹であろう。十字架を胸にぶら下げておる」
勇猛なだけではなく文化人でもあった義弘であるので、そのくらいの事は知っていた。
因みに島津の家紋は〇に十字である。
「有馬公は南蛮人の言葉が分かるのでは?」
切支丹大名である有馬晴信に秀家が尋ねた。
晴信(25歳)は大友宗麟、叔父の大村純忠と共に、1582年に天正遣欧少年使節団を出している。
「会話などとてもとても」
しかし晴信はすぐさま否定した。
祈りの言葉くらいは知っていても、それで会話が出来る筈もない。
話が進まないので秀包が提案する。
「伴天連の宣教師が城下にいる筈だから、通訳に来てもらえば良いと思うよ」
「流石は兄上!」
という事でフロイスを呼ぶ事が決まった。
「景っち、フロイスさんを探して連れて来て!」
「承知致しました」
景俊に命じ、探させた。
「義弘公、一体どのような成り行きでこの者らを捕らえたのです?」
秀家が尋ねた。
「突然の雷の後、周りの様子がおかしいので陣屋の周囲を調べておったのだが、その途中で馬に乗ったこやつ等と出くわしたのだ。見れば種子島を持っておる。南蛮人が何故種子島を持ち、城の周りを馬で歩いておるのか咎めるつもりで止めた所、突然撃ってきたのだ。止むなく応戦し、取り押さえた次第」
「成る程」
秀家が頷く。
「奴らは12人の集団であったが、6人は斬り捨て、3人は逃がし、捕まえたのがこの3人だ」
「な、成る程!」
顔色一つ変える事なく義弘は付け加えた。
流石は鬼島津だと周囲は思った。
「島津公らに被害はあったのですか?」
「怪我をした者はいるが軽傷だ」
鉄砲を撃ちかけられて軽傷で済んでいるのが不思議である。
秀包は疑問に思ったが、問いかける雰囲気ではなかった。
「逃げた者らの行方は追わせている。ここから町が見えたそうだが、どちらの方向なのだ?」
義弘が秀家に尋ねた。
町の話は耳にしていたが、自身の目では確かめていない。
秀家が町の方向を指指す。
「あっちです」
「ならばその町に逃げたのだろう」
逃げた先と町の方向は同じであった。
「町の遠さは?」
「馬なら数刻かと」
「ならば夜が明ければ仲間を連れて来るな」
義弘が断言した。
「ひょっとしてその為にわざと?」
増援を呼んで来させる目的で、わざわざ逃がしたのかと問うた。
「巣穴があるなら突き止め、殲滅するのみ」
「さ、流石ですな……」
異変に巻き込まれて混乱している中、よくぞそこまで頭が回るモノだと皆は思った。
「それはそうと、追っ手は確かな者なのです?」
巣穴を突き止めるのは良いが、ばれてしまえば藪蛇となりかねない。
逆に捕まり、人質となったら厄介な交渉となろう。
しかし義弘は秀家の懸念を払拭する。
「甥の豊久に向かわせた。まだ若いが腕は確かだ」
「義弘公が言うのなら確かですな」
義弘の言葉に過剰反応したのは秀包であった。
「豊久だって?!」
「兄上?」
突然の秀包の叫びに秀家も何事かと訝しむ。
「どうかなさいましたか?」
「い、いや、何でもない!」
そのような場ではないと慌てて誤魔化したが、秀包にとって島津豊久は特別な名である。
病院で夢中になって読んだ異世界モノの主人公だからだ。
敵に容赦しない戦闘狂な島津豊久が、頭脳派の織田信長らと共に異世界を駆け抜ける物語に、鎮痛剤の効いたぼんやりとした身で没頭した記憶が蘇る。
そんな秀包に義弘が向き合い、静かに口を開く。
「貴公が小早川秀包殿であるか」
「は、はい!」
鬼島津という噂の割には秀包を見る目は柔和であった。
「薩摩の領民を代表して礼を言う」
「え?」
突然に頭を下げた義弘の行動に呆気に取られる。
そんな秀包に義弘が説明した。
「貴公が見つけ、分け隔てなく普及を図ってくれた牛痘のお陰で、薩摩でも痘瘡に罹る者がめっきりと減ったのでな」
「そういう事ね」
住血吸虫対策は中々進んでいないが、牛痘の発見以来、痘瘡患者の減少が続いていた。
秀吉の積極的な支援もあり、全国への普及も進んでいる。
「若い娘が痘瘡に罹った場合、命を取り留めても痘痕が顔にでも残ろうモノなら絶望し、自ら命を絶つ者もいた。そのような不幸を見なくて済むようになったのは貴公のお陰だ」
「それは、良かったです……」
病は体の健康を損ねるだけではなく、心までも蝕む事がある。
「とは言え礼には及びませんよ。病は僕の敵ですからね」
「病が敵とは……。秀包公は医者なのか?」
「違います。患者の命と直接向き合う覚悟はありませんが、為政者として病を減らせる手は打てるのです」
「為政者として病を減らせる、か……」
その一環が牛痘の普及を図る事であろう。
領主が許可しない場合、有効な手段があっても領内に広める事は難しい。
「それよりも義弘公の甥の豊久って、あの豊久君なのですか?」
一転、秀包が目を輝かせて義弘に尋ねた。
「あの豊久もどの豊久も、甥の豊久は一人しかおらぬが?」
「そ、そうですよね!」
意志弘は訳が分からないといった顔で答える。
「秀包公は豊久の奴を知っておるのか?」
「う、噂だけです!」
首を欲しがる妖怪と思われていようとは、当の豊久も思うまい。
そんな秀包に尋常ならざる視線を送る者がいた。
「何やら嫉妬心がメラメラと燃えるでござるぞ!」
「言っておくけど、そんなんじゃないからね!」
見当違いの宗茂の発言をピシャリと制する。
「秀包様、どうして夜になっているのです?」
景俊に連れられ、フロイスがヴァリニャーノらと共にやって来た。
秀包は城門で出迎える。
天変地異に遭遇して気が動転しているようだったが、神への信仰心からか比較的落ち着いているように見えた。
「その答えは彼らに聞けば分かると思うよ」
秀包はすぐさま義弘が捕まえた者達の下へ案内する。
「あれはイスパニアの言葉ですね」
「やっぱり」
彼らを見るなりフロイスが述べた。
フロイスはイスパニアのお隣ポルトガルの出身であり、イスパニアの言葉にも堪能である。
「ここがどこだか聞いてね」
「分かりました」
フロイスは早速彼らの前に進み出た。
「Buenas tardes」
イエズス会士は世界のどこに行っても同じ黒い服を着ている。
その姿とフロイスの顔、言葉に安心したのか、彼らの表情に安堵が広がるのが見えた。
一斉にフロイスに向かい、話し始める。
「ここがどこだか分かりました」
青ざめた顔でフロイスが秀包に言った。
ただならぬ様子に秀包も緊張する。
「どこなの?」
ごくりと息を呑み込み、尋ねる。
秀包の質問に、まずフロイスは持って来ていた世界地図を広げた。
何度も目にしている彼らの地図だ。
「秀包様には今更ですが、ここが日の本、ここがバチカン、私の故郷であるポルトガルです」
そう言って各地を指で指した。
「それで、ここはどこなの?」
一番肝心な事がまだである。
その質問に一瞬躊躇する素振りを見せたが、決心したように地図の一点を示す。
「メキシコ?!」
フロイスが示したのは北米大陸のメキシコであった。
秀包の言葉をフロイスが訂正する。
「ヌエバ・エスパーニャ副王領ですが?」
「ヌエバ・エスパーニャですか……」
何を言っているんだと言いたげな顔のフロイスに、秀包も恐縮する。
※転移後の名護屋城周辺
漫画『ドリフターズ』は好きな作品ですが、この作品では豊久をそこまで登場させない予定です。
レジェンド級が義弘なので、彼に活躍してもらおうと思っております。
参考までにゲーム『信長の野望:創造』における主な武将のステータスですが、
織田信長:統率99武勇87知略94政治100
豊臣秀吉:統率94武勇78知略97政治99
毛利元就:統率97武勇80知略100政治96
島津義弘:統率97武勇94知略83政治68
島津豊久:統率66武勇87知略56政治38
立花宗茂:統率91武勇95知略81政治62
主人公:統率29武勇58知略62政治57
宇喜多秀家:統率82武勇73知略72政治73
加藤清正:統率83武勇91知略70政治70
小早川隆景:統率88武勇74知略95政治95
鍋島直茂:統率87武勇79知略91政治90
黒田長政:統率76武勇70知略80政治79
吉川広家:統率69武勇60知略68政治76
石田三成:統率70武勇58知略77政治95
大谷吉継:統率86武勇65知略89政治80
だったりします。
こうして見ると主人公の格落ち感が酷いですが、転生者特典(特にない)で頑張ってもらいたいです。




