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旧作2-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.過去と未知の薬
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05 王国暦五九九年 スコルピョン 十九日

「…で?みんなで外出禁止令を食らって、散々補習をやらされることになったから、私の課題が終わらなかったの」

 そんなに悪いことをしたつもりはないんだけど。

 みんなにシャボン玉を配って、授業中に教師にばれないようにシャボン玉を吹いてたら、ランチの前に担任教師に呼び出されて怒られた。

 授業を妨害した覚えはないが、妨害したことになってるらしい。

 ランチの後は三限目を潰して教室の掃除。

 俺、シャルロ、カミーユの三人は、更に外出、外泊禁止令に、補習と課題を出された。

 おかげでアレクが居ない間はずっと、休日を潰して勉強会。

 補習は錬金術の実験だったから楽しかったし、課題も面白かったし、良い暇つぶしになったから良かったんだけど。

 カミーユはロニーから出された課題をやる暇がなかったらしく、ロニーは少し不機嫌だ。

 アレクは俺とカミーユの話しを楽しそうに聞いてる。

「面白いね。シャボン玉か。私もやりたいな」

 なら、今度一緒にやろう。

「そうだね。今度、姉上と一緒にやろう」

 そうだ。フラーダリーも今度の休みは居るはず。

「で?課題をやらずに、レシピは作ってたの」

「課題やってたら思いついたのを書いて行っただけだよ」

 流石、カミーユだな。

「材料は?」

「実験室に置いてあるから…」

「じゃあ、これから行って作ろうか」

 やった。

「え?」

「私が居ない間、実験を我慢してたんだ。今日は好きなだけやっていいよ」

「私も興味があるよ。カミーユ、一緒に行っても構わないかい」

「えっ。はい、もちろんです」

「ありがとう」

 カミーユはアレクに弱いな。


 ※


 カミーユの薬。

 結構かかりそうだな。

「エル、ココアを作ってあげようか」

 頷くと、アレクがビーカーを火にかけながら、砂糖とココアの粉に、ミルクを少し入れて練る。

 ココアを作っているアレクの顔を見上げる。

「何か気になることでもあるのかな」

 アレクの瞳を指さす。

「うん?」

 右目。

「どうかした?」

 菫色。

「言わなくちゃわからないよ、エル」

 そんなこと、アレクから初めて言われた。

 喋れないの知ってる癖に。

 アレクが練ったココアにミルクを入れてかき混ぜる。

 言いたくないのか。

「もともと右と左の色は違ったんだけどね。砂漠で精霊の力に当てられて、右目の菫色が濃くなったみたいだよ」

 そんなことあるのか。

 精霊の力…。魔力に当てられて?

 そういえば、マリーの瞳も、光の精霊の祝福が強いからピンクって言ってたな。

「はい、どうぞ」

 出来上がったココアをもらう。

 甘くて美味しい。

 もう一度、アレクの右目を見る。

 菫の瞳。

 懐かしい色。

 …思い出す。

「私が居ない間、変わったことはなかったかい」

 変わったこと?

 シャボン玉の件が一番のイベントだったけど。

 あ。そういえば、光の精霊と友達になった。

 あの精霊は、夜中にたまに来てくれる。

「何かあったみたいだね」

 頷く。

 メモ…、あった。

 メモ紙を取り出して、文字を書く。


 光の精霊と友達になった。


「どんな子かな」


 たぶん、養成所を守ってる精霊?

 俺が喋れないの知ってた。


「魔法陣で呼び出したわけじゃないみたいだね」

 頷く。

 アレクがメモ紙をしまう。

「エルは精霊に好かれるね」

 好かれる…。

 それ、良いことなのか?

 ココアを飲んでいると、カミーユから薬を渡される。

 出来たらしい。

 一口、口に含む。

 え?

 いつも甘くて美味しいのに…。

 でも、飲まないと。

 薬を一気に飲み干す。


 まずい。


 声は出ない。

 ちゃんと我慢して飲んだのに、これもだめじゃないか。

 アレクが笑う。

「薬というのは、そういうものだけどね」

 だって。カミーユが作る薬はいつも甘いのに。

「ほら、まだあるみたいだよ」

 カミーユの前に、薬が大量に並んでる。

 あれ、全部?

 不味かったら嫌だな…。見た目だけじゃわからない。

 アレクが作ったココアで口直しをして、次の薬を飲む。

 あ、これは甘い。

「……」

 でも、声は出ないな。

 次。

 甘くて美味しい。

「……」

 んー。だめ。

 次。

 …口の中がしびれてきた。

「……」

 だめ。

 次。

「……」

 なんだろう、これ。

 ちょっと気持ち悪い。

 水…。

 ないな。

「エル、大丈夫かい」

 頷いて、次のを飲む。

「……」

 くどい。

 甘すぎ。

 あれ?甘いのか?

 味、わからないかも。

「エル?」

 なんか…、変な感じ…。

 これって…?

 次。

「……」

 気持ち、悪い。

 吐く。

「エル!」

 立ち上がって、実験用流しに向かって、吐く。

 吐いて、吐いて…。

 だめ。

 今まで飲んだもの、全部吐きたい。

 気持ち悪い。

 酷い胸やけだ。

 まだ、飲み終わってない薬あるのに。

「エル、」

「……」

「エル?」

「無理…」

 口の中も、喉も、胸も、肺も、全部甘いものが入ってるみたいだ。

「え?」

 吐いても吐いても出て行かない、この不快感。

「エル」

「エル?」

 カミーユを見る。

「殺す気か」

「おい、エル」

「なんだよ」

「お前、さ」

「良かったね、エル」

 何が?

 今度はアレクの方を見る。

「ちっとも良くない。吐きそう」

「でも、もう飲まなくて大丈夫だよ」

「もう飲みたくない。カミーユの奴…」

「カミーユにお礼を言わないのかい」

「なんで?」

 アレクが笑ってる。

 カミーユが呆けた顔をしてる。

 ロニーは口元に手を当てて、笑いを押えてるみたいだ。

「ねぇ、エル。最後に飲んだ薬ってどれ?」

「七番目の薬だと思うけど…。ん?」

 あれ?

 会話が成立してる?

「あー、あー」

 俺、いつから声が出るようになったんだ?

 俺の方を見て、全員が爆笑する。

 なんだよ。

 いつからだ?

 薬、こんなに飲む必要なかったのか?

 あぁ、気持ち悪い…。

「アレク、」

「おめでとう、エル」

「コーヒー飲みたい」

 体の中の甘い成分をどうにかしたい。

「じゃあ、片づけてみんなでカフェにでも行こうか。カミーユ、ありがとう」

「えっ、あのっ、」

 なんでカミーユ、アレクに弱いんだ。

「ロニーもありがとう」

 あぁ、気持ち悪い。

 もしかして、ロニーの奴、薬に変なもの混ぜたんじゃないだろうな。

「私は何もしてないよ。まさか、カミーユがこんなに早く薬を作るなんてね」

 あぁ、そっか。どっちにしろ、カミーユが薬を作ってくれたことに変わりはないんだ。

「いえ、俺も、ちゃんと効果のある薬を作れたかなんて自信が…。っていうか、本当に薬の効果で喋れるようになったのかどうかも…」 

「カミーユ」

「なんだよ」

「お前、天才だな」

「…は?」

 だって、喋れるようになったのはカミーユのおかげだ。

「そうだね。エルの声を取り戻す薬を、たった半年足らずで作ったのだから」

「それは、ロニーが錬金術を教えてくれたおかげで…」

「いいから、早く片づけろ」

 こっちは気持ち悪くて大変なのに。

「いいよ。今作ったレシピ、忘れない内に書き留めておきたいから、先に行ってろ」

「ん」

「私も手伝うよ。アレク、エルに何か飲ませてあげないと、その胸やけは良くならないんじゃないかな。それとも、胸やけに効く薬でも作ろうか?」

「冗談じゃない」

 薬なんてしばらく飲みたくない。

「じゃあ、お言葉に甘えて、行くとしようか。エル、おいで」

「じゃあな、カミーユ、ロニー」

 アレクと一緒に実験室を出る。

 あぁ、気持ち悪い。

「コーヒーだけで良いのかな」

「甘いものは当分要らない」

「姉上にも報告しないとね」

「…今から行ったら迷惑かな」

「平日は忙しいからね。今度の休みに、花を買って行こうか」

「花?」

「エルも、自分の口から姉上に伝えたいことがあるんじゃないかな」

 フラーダリーに伝えたいこと。

「たくさんある」

「そういう時は、花を添えるのが良いよ」


 ここに連れて来てくれて、ありがとう。

 養成所に入れてくれてありがとう。

 子供として引き取ってくれてありがとう。

 でも、俺はそんなに心配されなくても大丈夫。

 声も、取り戻すことが出来たから。

 だから…。

 俺に構わずに、もう少し自分のことを考えて。


「アレク」

「なんだい」

「ありがとう」

「私に礼を言っても仕方ないよ」

「俺はアレクのことが好きだよ。たぶん、人間で一番最初に好きになった人」

「姉上ではないのかな」

「フラーダリーは、母だから。俺を守る責任を持った人だから」

 きっと、あの人が俺に優しかったのも。

 フラーダリーのように、親としての責任を全うするためだったんだろう。

 母親とは子供を守るものだから。

 そうじゃなきゃ、俺にあんなに優しかったのがわからない。

 俺を愛してくれる人間なんて…。

 だから。

「アレクはそんな必要ないのに、ずっと傍に居てくれたから」

 アレクが微笑む。

「必要なければ、傍に居てはいけないのかな」

「アレクは変わってる」

「そうかな」

「王子なのに」

「王子なら、エルに構ってはいけないと言うのかい」

 いや。

 養成所の連中だって。貴族ばかりなのに、全然そういう感じがしない。

 みんな、俺を同じ人間として扱う。

「エル。私もエルが好きだよ。好きな人とは一緒に居たいものだ」

 それは、なんとなくわかる。

 でも。

「見て来たんだろ、クロライーナ」

「見てきたよ」

「それでも?」

「過去は捨てるんじゃなかったのかい」

 捨てる、けど…。

「私の気持ちは変わらないよ。エルはエルのままで居れば良い」

 アレクは、強い。

 強いから俺と一緒に居てくれるんだろう。

 俺が、どんな存在でも…。



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