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旧作2-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.過去と未知の薬
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04 王国暦五九九年 スコルピョン 二日

 今日からアレクは研修旅行で居ない。

 十八日までずっと。

 おまけにフラーダリーも忙しくて、休日には居ないと言われてしまった。

 手紙は書くから、養成所で良い子にしていて、と。

 フラーダリーが家に居ないことはたまにあるけど…。こんなに長いのは初めてだ。

 休みに会えない時は必ず手紙が来る。

 フラーダリーからの手紙は、心配することばかりが書かれてるから困る。

 この前も、カミーユの薬を飲んでることを心配された。

 フラーダリーには言ってないのに。教師から聞いたらしい。

 別に危ない薬を飲んでるつもりはないけど。

 甘くて美味しいし。


 俺も何か作れないかな。

 養成所の図書館の、錬金術関連の本棚を眺める。

 錬金術とは、魔法を使えない人間でも、魔法のような奇跡を使えるようになる手段を研究する学問。

 薬学以外にもいろんな分野があるらしい。精霊に力を借りて作る魔法のアイテムとか。

 その歴史も面白い。

 もともと医学の分野だったものがくっついたり離れたり、全く効果のないものを効果があるような気分で使っていたり。今では絶対に作れないものもあるが、それが実在したかも怪しい。…なんて。あやふやで怪しい学問だ。

 …ん?

 なんだこれ。

 これなら簡単そう。すぐに作れそうだな。

 メモ紙に、そのレシピを写す。

 カミーユを誘って実験室に行こう。

 カミーユは多分、教室でロニーの出した課題をやってるはずだ。


 ※


 教室に戻ると、思った通り、まだカミーユが勉強してる。

 他に誰も居ない。

 問題を解いているカミーユの前の椅子に座って、それを眺める。

 …まだかかりそうだな。

 区切りがつくように思えない。

 カミーユの問題用紙に、文字を書く。


 今日は実験室に行かないのか?


「しばらく実験は休み。ロニーから止められてる」

 なんでロニーの言うこと聞かなくちゃいけないんだ。

 しばらくって、まさか研修旅行が終わるまで?

 冗談じゃない。


 早く終わらせろ。


 カミーユは俺が書いた文字を見た後、課題に戻る。

 無視された。

 課題が終わるまでは、待ってなきゃいけないのか。

 カミーユのペン先を追う。

 あ。それ、間違ってる。

 間違ってる箇所をチェックして、正しい式を書き直す。

 …証明完了。

 答えの横に、文字を書く。


 ちょっと試したいことがある。


「何やるんだよ」


 簡単なもの。


 さっきのレシピ。作ってみたい。

 そう書こうと思ったところで、教室の扉が開く。

「まだ残ってたのか。そろそろ教室閉めるぞ」

 やった。

「はーい」

 カミーユが課題を鞄の中にしまう。

 実験室に行こう。

 自分の荷物を持って、教室を出る。

 あ。シャルロだ。

「あ」

「シャルロ?」

「くそ。教室閉められたか」

 丁度良い。シャルロも誘おう。

「何か用事か?」

「図書館で借りた本、教室に忘れたんだ」

 それぐらいなら明日で済む用事だ。

「まだ教師居ると思うぜ」

「そうか。なら…」

 シャルロの腕と、カミーユの腕を掴んで歩く。

「なんだ?」

「おい、実験は禁止って言われてるだろ」

 カミーユが実験を禁止されてるだけで、俺は禁止されてない。

「実験?」

「何かやりたいらしい」

「何やるんだ?」

「さぁ?」

 面白いことに決まってるだろ。


 ※


 実験室に入って、材料をそろえる。

 ストロー…。

 あった。

「これ、洗剤だろ?」

 レシピに書いてある通りに混ぜていく。

 っていうか、どれから混ぜてもいいのか?これ。

 砂糖って何の作用があるんだろう。飲んでも平気なように?

「何作ってるんだよ」

 洗剤は飲んだらまずそうだけど。

 よし、出来た。

 この液体にストローを浸す。

 そして、ストローを吹く。

「おぉ」

 綺麗。

 ストローから飛び出したいくつもの透明な球体が、ふわふわと浮く。

「シャボン玉か」

「懐かしいなー。俺も遊んだぜ」

 え?

 知ってる?

「やったことないのか?」

 頷く。

 これ、そんなに知られてるものなのか。

 せっかく驚かせようと思ったのに。

 周りのシャボン玉が全部はじけて消える。

 あ~あ。

「たくさん作って、明日、教室に持っていくか」

 シャルロ?

「そうだな。教室でやって、教師を驚かせようぜ」

 カミーユ。

 それ、すごく楽しそうだ。

 こんなに綺麗なんだから、みんなで飛ばせばもっと綺麗だろう。

 外に飛ばせば、もう少し泡の形を保ってられるだろうか。

 窓を開いて、シャボン玉を飛ばす。

 外に飛ばされたシャボン玉は、ふわふわ風に吹かれて昇って行く。

 本当に綺麗。


 ※


 部屋の窓からシャボン玉を吹く。

 カミーユとシャルロと一緒にたくさん作って、それから夕食をみんなで食べて部屋に戻って来たところだ。

 カミーユもシャルロも、俺に付き合ってくれる。

 きっと、二人とも気づいてるはずなのに。

 俺が、知っていて当然のことを知らないってこと。

 そして、どこから来たのか…。

 聞かれたら、どうすれば良いんだ。

 答えることを拒否したら?

 …やめよう。

 せっかく、何も聞かないでいてくれるのに。

 今は楽しい。

 人間と接することが。

 みんな、俺の知っている人とは違う。

 それは、精霊とも大して変わらないように思える。

 だめ。

 やめよう。昔のことを考えるのは。


 今度の休みはどうしようかな。

 フラーダリーが居ないなら家に帰っても仕方ない。

 アレクも居ないからつまらない。

 そうだ。王立図書館に錬金術の本を探しに行っても良いな。養成所の図書館よりも広くて大きい図書館だから。

『綺麗ね』

 え?

 顔を上げる。

『あぁ、見えないよね』

 目の前に精霊が現れる。

 光の精霊。

 アレクに紹介してもらったのとは違う。

『もっとやって』

 シャボン玉を吹く。

『ふふふ。楽しいね』

 俺も楽しい。

 でも、夜中に光の精霊を見るなんて珍しいな。

 シャボン玉を吹く。

『ねぇ、精霊が珍しくないの?』

 頷く。

『たいてい、驚かれちゃうんだよね。姿を現すと。私たち、ずっと養成所に住んでるのに』

 そうなのか。

 養成所を守ってる精霊?

 土地につく精霊は、その土地を守るらしい。

 精霊とは自然そのもの。その土地に精霊が住んで居れば、土地は豊かになる。逆に精霊が消えると、その土地の自然は壊れてしまうらしいから。

『君、喋れないんだよね』

 頷いて、シャボン玉を吹く。

『不思議な子。なんだか傍に居ると安らぐな』

 俺と一緒に居て、安らぐ?

『また会いに来ても良い?』

 もちろん。

『じゃあ、またね』

 精霊を見送る。

 名前聞くの忘れたな。

 あぁ。

 喋れないから、意味ないか。


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