02 王国暦五九八年 リヨン 二十八日
今日の午後から養成所は年末年始の休日に入る。
次に養成所に来るのはヴィエルジュの二日だ。
家に帰る準備をしていると、ノックがある。
アレクかな。
扉を開く。
やっぱり。
「帰る準備は出来たかい」
もう少し待って。
図書館で借りた本を鞄に入れて、アレクの方に行く。
「ちょっと寄り道をして帰ろう」
寄り道?
※
アレクが連れて来てくれたのは、王城。
「おかえりなさいませ。アレクシス様」
「お疲れ様」
アレクが門番に声をかけながら城門を抜ける。
「庭に行こう」
ここは庭じゃない?
…広すぎてわからない。
アレクについて歩くと、少し開けた場所に出る。
「みんな。出ておいで」
アレクが言うと、アレクの回りで、淡い光を放つ小さな人間が姿を現す。
精霊…?
「何の精霊かわかるかい」
頷く。
黄色いのが光の精霊。
赤いのは炎の精霊。
青いのが水の精霊。
緑が大地の精霊。
黒いのが闇の精霊。
全部わかる。
「エルは精霊に詳しいね」
俺が精霊に詳しいのは…。
「養成所は楽しい?」
楽しい。
色んなことを勉強できて。
色んな人間が居て。
みんな、優しいから。
俺が何もしなくても…。
「来年のスコルピョンから、中等部の一年は研修旅行に行くんだ。エルも中等部になれば行くことになると思う」
研修旅行?
「クラスのみんなで出かけるんだ。行き先は、砂漠のクロライーナ」
クロライーナ?
なんで?
「精霊戦争があった世にも珍しい場所。オアシス都市ニームを拠点にして、クロライーナの調査を行うんだよ」
精霊戦争。
争いを好まない精霊が、精霊同士で戦った場所。
その原因は…。
誰も、知らない。
きっと、知っている精霊だっていない。
知ってるのは…。
「私が居ない間、この精霊たちがエルの傍に居てくれるよ」
え?
「だから、困ったら呼ぶと良い。…手をこうして」
アレクが両手を組む。
「祈りを捧げれば、精霊が姿を現してくれるからね」
首を振る。
そんなこと、出来ない。
だって、精霊は顕現するために魔力を使う。
魔力とは、精霊にとって命の力。
俺の為に、その力を使わせるなんて考えられない。
「やっぱり、エルはそう言うんだね。じゃあ、もう一つの方法を教えようか」
もう一つの方法?
「魔法陣。姉上から本をもらったね?あれを描いて、同じように祈りを捧げるんだ。そうすれば、精霊はエルの魔力を使って顕現できる。ただしこの場合、対応した魔法陣の精霊しか呼び出せないからね」
つまり、光の精霊なら光の魔法陣でしか呼び出せないってことだろう。
「本来、魔法陣とは、契約していない精霊から力を借りるための手段だ。だから、これはちょっと変わった使い方だけど。いずれ、エルが喋れるようになったら、またその方法を教えてあげよう」
精霊に、自分の魔力を渡せる方法。
それを知ってたら…。
「さぁ、姉上のところに帰ろうか」
頷く。
だめ。
過去のことは、捨てるんだ。
すべて。
だって。過去には戻れない。




