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不老不死たちの過去  作者: San


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15/15

不老不死たちの過去 15

映画館には、毎日いろいろな人が来る。


といっても、普通の映画館とは少し違う。


ここで上映されるのは、映画ではない。


その人自身の過去だった。


私は、その映画館で案内人をしている。


受付の少し奥にある小さなカウンターに座って、来館した人の名前を確認する。


上映する記憶を確認する。


それから、部屋まで案内する。


仕事としては、それだけだった。


長く続けている。


どれくらい続けているのかは、もう正確には覚えていない。


この映画館ができた頃からいたような気もするし、その前からここで働いていたような気もする。


不老不死というのは、そういうことがよくある。


長く生きていると、始まりが曖昧になる。


今日も一人、客が来た。


白い髪の男だった。


髪が白いのは、年齢のせいではない。


彼も不老不死だから、身体そのものはほとんど変わらない。


ただ、長く生きていると髪型や服装は何度も変わる。


男は受付で、自分の名前を告げた。


私は画面を確認する。


「上映する記憶は、三千年前のものですね」


「そうです」


「途中で止めることもできます」


「分かっています」


「では、こちらへ」


私は男を案内した。


廊下を歩く。


左右には、いくつもの上映室がある。


小さな部屋もあれば、大きな部屋もある。


一人で見る人が多い。


昔の自分を、大勢で見る必要はないからだ。


男が部屋に入る。


「ありがとうございます」


「ごゆっくり」


扉が閉まる。


私は受付へ戻った。


しばらくすると、別の客が来た。


今度は女性だった。


「昔の家族の記憶を見たい」


そう言った。


私は検索する。


「何年前ですか?」


「……二千年くらい前」


「複数ありますね」


「一番古いものを」


「分かりました」


彼女を案内する。


その途中で、


「この映画館、昔からありますよね」


と聞かれた。


「そうですね」


私は答えた。


「私も昔、ここに来たことがあります」


「そうですか」


「もっと古い頃ですけど」


女性は笑った。


「その頃のあなたも、ここで働いていた?」


「たぶん」


「たぶん?」


「昔のことなので」


彼女は少し笑って、


「そうですね」


と言った。


それ以上は何も聞かなかった。


私は仕事へ戻った。


昼を過ぎると、客が増えてくる。


昔の恋人を見に来る人。


昔住んでいた街を見に来る人。


まだ人間だった頃の世界を見に来る人。


もう存在しない国を見に来る人。


自分が若かった頃の自分を見る人。


ただ、昔の自分が何をしていたのか知りたいという人もいる。


人によって目的は違う。


けれど、上映室から出てきた後の顔は、少し似ている。


みんな、少し静かになる。


泣く人もいる。


笑う人もいる。


何も言わない人もいる。


「どうでしたか」


と聞くことはない。


私は案内人だからだ。


過去について聞く仕事ではない。


ただ、次の人を案内する。


夕方になる頃、一人の女性が受付に来た。


「昔の自分を見たい」


「どのくらい前ですか?」


「かなり古いです」


「年代は分かりますか?」


「分からない」


私は画面を操作する。


彼女が昔撮った記憶がいくつか表示された。


一番古いものを選ぶ。


「こちらでよろしいですか?」


「はい」


私は女性を上映室へ案内した。


歩きながら、彼女は何も話さなかった。


扉の前まで来る。


「それでは」


女性は一度だけ私を見る。


「あなたも、自分の過去を見るんですか?」


私は少し考えた。


「見ますよ」


「最近?」


「……最近は見ていません」


「どうして?」


「仕事で毎日、他の人の過去を見ているので」


女性は少し笑った。


「それはそうですね」


扉が閉まる。


私は受付へ戻った。


自分の過去。


私にも、もちろんある。


それは他の人と同じように、ここで上映できる。


何千年も前。


何万年も前。


私がまだ今とは違う場所に住んでいた頃。


人間だった人たちと話していた頃。


今ではなくなった街を歩いていた頃。


そういう記憶が、ここには残っている。


私自身が保存したものもある。


保存したつもりがなくても、残っているものもある。


私はときどき、自分の名前を検索する。


昔の記憶が一覧に出てくる。


けれど、いつもそこで止める。


上映室には入らない。


なぜかは分からない。


見たくないわけでもない。


怖いわけでもない。


ただ、後回しにしている。


不老不死だから、時間はいくらでもある。


今日見なくても、明日見られる。


明日見なくても、来年見られる。


百年後でもいい。


千年後でもいい。


そう思っているうちに、何千年も経ってしまった。


夜になった。


最後の客が帰っていく。


「ありがとうございました」


私は頭を下げる。


誰もいなくなった映画館は静かだった。


照明を少し落とす。


受付の画面を閉じる。


そのとき、ふと自分の名前が画面に残っているのが見えた。


古い記憶。


一番古い上映可能記憶。


私は指を止めた。


何千年も前の自分が、そこにいる。


その頃の私は、何をしていたのだろう。


誰といたのだろう。


どんな声で話していたのだろう。


今の自分と同じ顔をしている。


でも、きっと今の自分とは違う。


私は画面を閉じた。


今日は見なかった。


受付の明かりを消す。


廊下を歩く。


誰もいない上映室の前を通る。


さっきまで誰かの過去が映っていた部屋。


その隣では、別の誰かの過去が映っていた。


何千年前の街。


何百年前の家。


昔の友人。


昔の恋人。


昔の自分。


この映画館では、毎日それが繰り返されている。


人が来て。


自分の過去を見て。


帰っていく。


そしてまた別の人が来る。


私はその入口で、ずっと案内をしている。


自分の過去を見ないまま。


外へ出る。


夜の街には、まだ人が少し歩いていた。



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