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着地点

大学への道すがらに喫茶店がある。

駐車場はいつも車で埋まっていて店内にも人影が多い。人気店なのだろうか。

通い始めた頃から気になっていていつか行こうと思いつつ、勇気が出ないまま季節が過ぎようとしていた。


あるとき、普段よりも早く行かなくてはならなくて眠い目を擦りながら喫茶店の前に差し掛かると、普段は車で埋まっている駐車場に1台しか停まっていないことに気づく。

いつもと同じ場所に置かれたピカピカの紺色は、熱心な常連のものだろうと思っていたが違ったらしい。


何気なしに店先に目をやると、開店の支度をしている綺麗なお姉さんと目が合った。

ニコッと会釈をされ、思わず頷き返してしまう。


はっ、あぶないあぶない危うく恋に落ちるところだった。


え、あのお姉さんがこの車を……?


この際だから、大学の用事が片付いたら行ってみようか。


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外回りのルート仕事がメインだもんで、昼食はいつも外食をする。

お弁当とか持って来ればいいんだけど自分で作るのは面倒だし、かといって朝っぱらから家内に作らせるのもそれはそれで申し訳ない。


丁度昼頃になると、この喫茶店の前を通りかかるからここで昼食を摂るのが定番だ。

ここのランチは量が多くて嬉しいんだよネ。駐車場もあるし。


昼時ということもあり、店内は混みあっている。いつものようにカウンター席へ腰掛けて、水を持ってきたお嬢さんに「Cランチください、ホットコーヒーで。」メニューも見ずに告げる。


息子とサイゼリアに行くと何も見ずに2101/5101と記入するけれど、それと似たようなものかな。

おじさんになると数字の羅列なんか覚えてられないからナァ。若いっていいよね。


あ、何の話だったっけ。


そうそう、Cランチは日替わりのスパゲティに自家製のハンバーグが乗っててボリューミーでおいしいんだよ。ボリュームを求めるだけならラーメンとか牛丼でもいいんだけど、食後のコーヒーとか諸々含めてこのひと時を買っているんだよね。牛丼屋で1時間粘るわけにはいかないからね。


背後の扉がカラコロと鳴って、新しい来客を告げる。

「1名様ですか?カウンターお願いしまーす!」


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講義が終わり、朝に決めた通り喫茶店へ向かう。

朝のそれとは打って変わって満車の駐車場に混みあった店内。いつもの風景が帰ってきた。


こういった小さな冒険こそが日々を豊かにしてくれるはず。思い切って扉に手を掛ける。


カウンターに通されて、メニューをひと読み。L字カウンターの向こう側に座るおじさんが山盛りのスパゲティとハンバーグにがっついている。たぶんCランチかな。外回りの休憩だろうか。


おいしそうだけど、ちょっと量が多いかな。どうだろう。

メニューに目を凝らすと、麺の量は減らせるらしい。やったね。


「すみませ~ん。Cランチ面少な目で、ホットコーヒーでお願いします!」


まだ食事に手を付けてもいないのに、妙な満足感を覚える。

ただ店に入って注文しただけなのだけど、これは慣れたチェーン店じゃ味わえない感覚だ。


それにしてもあのおじさん、食べるスピードが尋常じゃない。カー○ィかってくらいの勢いで吸い込んでいるまである。


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食後のコーヒーを口に含みつつ腕時計に目をやる。

次の予定まで時間があるから、サボ…げふんげふん、時間調整をしようかな。


ふーっと一息ついて、店内をそれとなく見回す。見慣れた風景だから今さら見回しても変わらないけどなんとなくね。


フロアはさっき注文取りに来たお嬢さんが回し、キッチンにはもうひとりのお嬢さん。

毎回来るたび、ふたり揃って店に立っているなと気づく。


定休日はあるとはいえ、バイト募集の張り紙が無いのを見ると本当にふたりで回しているんだなと。凄いよね。俺、たまには有給取らないと死んじゃうヨ!いやほんま。


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麺を少なめにして正解だった。私の胃にはこれくらいが適度というかこれでも多いまである。

店員のお姉さんたちも美人だし、なんだか素敵な店を見つけてしまった。繁盛するわけだ。


そろそろ引き上げることにする。夕方からバイトだから家でひと眠りしたい。

会計を済ませて出ようとすると入れ違いの客とすれ違う。


ひとりの女性客のようで同い年くらいに見えた。もしかしたら同じ大学かもしれない。講義で見かけたことは無いから他学部だろうか。


いずれにしてもカッコいい系のおねーさんって感じ。お姉さんじゃなくておねーさん。

ダルに羽織ったチェックシャツが超イカしてる。


店外に出ると、入店時には見かけなかったスポーツカーが停めてあった。

朝から置いてあった紺色のそれと同じ車種らしい。色違いだけれど。


さっきすれ違ったおねーさん以外に新規客はいなかった、もしかしなくても彼女の車らしい。

ちょっと想像をしてみよう。この車に乗る彼女。


うーん、かっこいいな。


店員のお姉さんが紺のそれに乗っているのもギャップがかわいらしいけど、こっちはこっちで正統派のイケイケ感。


キャーッとひとしきり妄想した後で我に返って店の方を見る。

あまり人様の車の近くでごちゃごちゃやるものではなかったな……いけないいけない。


さっきのおねーさんと目が合った。ジト目?でこちらに熱い視線が送られていた。


ひゃーっ!!!ごめんなさい!!!

何故か手を合わせて拝んでからその場をすたこらと退散した。


……それにしてもさっきのおじさん2時間近く居座ってるけど、仕事大丈夫そう?


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一日の営業を終え、店じまいを済ませる。

照明をすべて落とし、あとは店外のシャッターを閉めればお終いだ。


「ほんじゃー帰りますか~。」

「今日も今日とてごくろうさんでした。」

「それはこっちの台詞だな~?」


「ねー、明日はお休みだからゆっくりできるねえ。」

「な~に~?意味深~。」

「ふふふ」


外に出ようとしたら腕をつかまれ引き留められた。

「どした?……んっ……」


振り向きざまに体温を押し当てられる。

首に手を回され、完全に捕食の態勢……。


「明日はお休みだもんね。」

__早く帰ろ


悪戯な笑みが、街灯の薄明かりに浮かび上がっていた。

彼女にお願いをしたの。

ふたりでそうやって生きていきたいと思ったから。

その言葉を受け取ってくれたわ。

指に嵌めたリングの重みが、覚悟を再び問いかける。後戻りはない。


進んでいける。これからも。

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