刈り取る者
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
「――っ!!」
跳ね起きるようにして、俺は意識を取り戻した。
脳を直接揺さぶるような進化の衝撃。
それが収まった瞬間、俺を襲ったのは強烈な焦燥感だった。
「ヤバい!!俺は……俺はどれくらい寝ていた!?」
周囲を見渡す。
そこは、灼熱の熱気が渦巻く13層、黒曜石の空洞の中。
「グリム!大丈夫か!?敵は来なかったか!?」
俺の叫びに、闇の中からカタカタと落ち着いた顎の音が返ってきた。
「なんだ主、もう起きたのか。案外早かったな」
そこには、変わらず泰然自若としたグリムの姿があった。
「すぐに起こせと言っただろう!俺が寝ている間に何かあったらどうするつもりだったんだ」
「いや……特に何事もなかったからな。主には、少しでも長く身体を休めてほしかったのだよ。進化の反動は大きいだろうからな」
グリムの、あまりにも単純で真っ直ぐな優しさに、俺は毒気を抜かれて言葉を失った。
「あ……ありがとう。でもさ、お前にもしものことがあったら……俺は……」
「その時は、主を叩き起こさせてもらったさ。それより主……。その姿、そのオーラ。見違えたぞ。まずは自分のステータスを確認してみるといい」
グリムの言葉に促され、俺はゆっくりと立ち上がった。
まず驚いたのは、視線の高さだ。
これまではグリムのことを大きく見上げていたはずなのに、今はその差が劇的に縮まっている。
俺は自分の手足を見下ろした。
重厚な黒のブーツに、身体のラインを拾いつつも動きやすそうな上下黒の衣装。
その上から、夜の闇をそのまま切り取ったような漆黒のコートを羽織っている。
腰元に手をやると、これまでの短剣が2本しっかりと装備されていたが、新しく背中に独特な曲線を描く大型の鎌が1本、鈍い光を放っていた。
俺はデバイスを取り出し、グリムに頼んで写真を撮ってもらった。
画面に映し出された自分の姿を見て、思わず息を呑む。
「……死神、か。あるいは、アサシンか」
中二心をこれでもかとくすぐる、漆黒の装備一式。
男の子なら誰でも歓喜するようなその格好に、心の中で少しだけウキウキしてしまったのは、ここだけの秘密だ。
だが、それ以上に俺を釘付けにしたのは、自分の「顔」だった。
どこか、あのネットの記事で見た、人間だった頃の「高梨朔」の面影が色濃く出ている。
鼻筋、輪郭、髪の質感。
ただ、その瞳だけは人間とは違う、妖しく輝く金色の光を湛えていた。
違和感はある。
けれど、俺の中に確かにあった「人間としての残滓」が形になったようで、どこか誇らしくもあった。
俺は震える指先で、最新のステータスを表示させた。
■名前:サク 種族:シャドウリーパー レベル:40
HP:212/212
MP:194/194
筋力:E(122)
耐久:E(119)
敏捷:B(286)
器用:D(156)
魔力:C(222)
運 :D(174)
スキル:盗む、シャドウインベントリ、ファイヤーボール、強奪、アナライズ、バックスタブ、エクスプロードボール、影潜り、完全透明化、ダークブレード、影移動、幻惑、シャドウドミニオン
「シャドウリーパー……。刈り取る者、か」
なるほど、だから武器が鎌なのか。
俺の戦闘スタイルである暗殺術や隠密行動を考えれば、鎌による広範囲の「刈り取り」や急所への引っ掛けは、確かに合理的だ。
器用値がDになったことで、これまでにない複雑な動きも可能になるだろう。
そして、何よりも俺の目を引いたのは、最後に追加された新スキル『シャドウドミニオン』。
その詳細を確認した瞬間、俺の背筋に冷たい戦慄が走った。
シャドウドミニオン:特殊固有スキル。対象を「眷属」として支配・契約する。
・使用者は、全眷属の全ステータスの10%を自身のステータスに上乗せする。
・眷属は、自身の全ステータスが10%上昇する。
・眷属1体につき、使用者の経験値取得率が5%上昇する。
・眷属に闇属性を追加、または既存の闇属性能力を大幅に強化する。
・五感の共有、および念話が可能となる。
・眷属を使用者の影の中に収納し、いつでも召喚可能にする。
・MPを消費することで、眷属を瞬時に再生・復活させる。
ここまで見れば、まさに軍団を率いる王のための無敵のスキルだ。
だが、その後に記された「デメリット」が、このスキルの危うさを物語っていた。
・再生・復活を行う場合、使用者の最大MPの半分を強制的に消費する。
・維持コストとして、眷属1体につき最大MPの10%が封印(使用不可)される。
・眷属が死亡した場合、そのフィードバックとして使用者の最大HPの20%分の直接ダメージを受ける。
「……眷属を増やせば増やすほど強くなるが、何かあれば即死するってことか」
もしあのルミナスドラゴンのような怪物に軍団を壊滅させられれば、眷属が5体いれば、俺自身も戦わずして死亡する。
まさに運命共同体。
「命を大事にしろ、お前らが死ねば物理的に俺も死ぬ」という、呪いにも似た強い絆のスキルだ。
考えどころではある。
けれど、俺の答えは最初から決まっていた。
この過酷なダンジョンで、背中を預けられる相手は、もう決まっている。
「なぁ、グリム。俺、新しい進化でとんでもないスキルを習得したんだ」
「おめでとう、主。一体どんな力だ?そのオーラを見れば、凡百の力ではないことは察しがつくが」
「『シャドウドミニオン』。眷属化のスキルなんだ。……グリム、お前に詳細を伝えておくよ」
俺は、ステータス加算の恩恵から、一蓮托生の死亡リスクまで、隠さずすべてをグリムに伝えた。
そして、俺は彼の空洞の眼窩を見据え、真っ直ぐに問いかけた。
「それでなんだけど……グリム。俺の最初の、そして唯一無二の眷属になってくれないか?」
「……カカカ!何を今更」
グリムは、俺の言葉が終わるのを待たずに、愉快そうに顎を鳴らした。
「そのつもりで話を聞いていたのだぞ。私が主の右腕であることを、今更スキルごときに証明してもらう必要はないが……。主が望むなら、断る理由などどこにもない」
ノータイムでの返答。
その一切の迷いがない忠誠心に、俺は思わず吹き出してしまった。
「ありがとうな。……じゃあ、使わせてもらうよ。『シャドウドミニオン』!!」
俺がスキル名を唱えた瞬間。
足元から溢れ出した漆黒の影が、大蛇のようにグリムの身体を包み込んだ。
影は渦を巻き、グリムの骨の身体に染み込むように消えていく。
数秒後、影が完全に収まると、そこには以前よりもさらに深い闇の色を纏った骸骨の魔導師が立っていた。
「なんだ、見た目が劇的に変わるわけではないのか」
「確かにそうだが……主。これは、すごいぞ」
グリムが自分の骨の手を見つめ、驚愕の声を漏らす。
「全身に漲る力が、以前とは比較にならん。それに、闇の魔力が……まるで私の意思を先読みするかのように研ぎ澄まされている」
グリムは元々闇属性がメインの魔導師だ。
このスキルとの相性は、計算するまでもなく最高だった。
俺は、自分のステータスの変動を確認する。
■名前:サク 種族:シャドウリーパー レベル:40
HP:212/212
MP:174/174(-20)
筋力:E(122+7)
耐久:E(119+11)
敏捷:B(286+8)
器用:D(156+11)
魔力:C(222+17)
運 :D(174+6)
スキル:盗む、シャドウインベントリ、ファイヤーボール、強奪、アナライズ、バックスタブ、エクスプロードボール、影潜り、完全透明化、ダークブレード、影移動、幻惑、シャドウドミニオン
「……笑えるくらい強いな、これ」
グリムのステータスの10%が上乗せされた結果、俺の数値は軒並み跳ね上がった。
封印されたMPのデメリットを補って余りある強化。
そして、グリムが成長すればするほど、俺自身もさらに強くなっていくということだ。
ならば、今やるべきことは一つしかない。
「グリム、方針変更だ。……すまないが、一度ここを出て、12層に戻ろう。あそこで徹底的に狩り尽くす」
「ほう、下層へ向かうのではなく、逆戻りか?」
「ああ。それが、このダンジョンの最深部へと辿り着くための、最短で唯一の近道だ」
現在の俺たちの実力では、13層のエリアボスにはまだ届かない。
だが、この『シャドウドミニオン』による経験値ボーナスと、ステータス共有があれば、12層での効率は以前とは比較にならないものになる。
「私は主の指示に従うまでだ。まだ何もできない自分が、少しでも主の力になれるのなら、喜んでその剣となり、杖となろう」
本当に、こいつは。
喋り方は尊大で、見た目は禍々しい骸骨なのに、どうしてこうも可愛げがあるんだろうか。
「頼りにしてるよ、グリム」
俺はグリムを抱え上げ、翼を広げて飛び立った。
灼熱の13層を背に、俺たちは大量の獲物が待つ12層へと舞い戻った。
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