幽霊屋敷
人間なんて使い捨てだ。
私の希望を叶えられない人間が側近としているなど耐えられない。
今までマネージャーは数十人ほどいたが、どれもこれも使えるものでなかった。
私のためならなんでもすると言っておいて結局は融通が効かないのだ。
最近プロデューサーが連れてきたマネージャーも"顔"はよかったが、やはり使えないからすぐにクビにした。
まぁ、それでも私のマネージャーをやりたいという人間は次から次へと現れるから問題なんてない。
今回の件が終わったらまたプロデューサーに言って次を用意してもらおう。
そうだ、あのプロデューサーも使えないから辞めてもらおう。
替えなんていくらでもいるだろうから。
でも今はライブを成功させることだけを考えないと……
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フィールドの関係なのか今日はやけに薄暗かった。
空は雲に覆われていて今にも雨が降りそうだ。
私はいつもの黒髪ツインテールと黒のゴスロリ衣装で身を固め、今回の企画へと赴いた。
内容は"このゲームのダンジョンを抽選で選んだファンと一緒に攻略しよう"という企画。
そして攻略対象となるダンジョンは『ガラン・ブラムスの屋敷』という場所。
屋敷というだけあって中世の貴族が住んでそうな巨大な屋敷の中を探索して、その奥にいるボスを倒すとクリアだという。
広い庭に黒色の外壁の屋敷はなんとも不気味に感じる。
まるで"幽霊屋敷"だ。
私は今回メンバーに選ばれた3人を見た。
1人は背の低い太った騎士のような格好の男性。
もう1人は細い体にローブを着た魔法使いのような格好の男性。
最後に中肉中背の盗賊風の男性だった。
全員が青年というくらいの見た目で、あまりカッコ良くはない。
構わず私は満面の笑みで挨拶する。
「みなさん、今日はよろしくお願いしますね!」
「は、はい……」
「が、がんばります……」
「よ、よろしくお願いします……」
緊張の面持ちの3人は私に視線を合わせることなくペコペコと頭を下げた。
あまりにも尊い存在が目の前にいると思っているのだろう。
全く気乗りしない企画だが、こういう反応を見ると気分がいい。
コブトリはというと後方の少し離れた場所にいた。
ネコシシ曰く、カメラマンをやってもらうそうで配信関係はコブトリに任せてある。
「じゃあ早速行きましょうか」
そう笑顔で私は言った。
するとファン3人は頷き、剣士風のファンを先頭に屋敷のダンジョンへと入った。
屋敷型のダンジョン内は赤一色。
敷き詰められた赤いの絨毯にワインレッドの壁。
正面には大きな階段があり、両サイドには他の部屋と繋がっているドアがある。
先頭に立つ太った剣士風のファンが振り向いて口を開いく。
「このダンジョンにはデメリットがあるのでお気をつけて」
「デメリット?」
私は首を傾げた。
そんな私に構わず剣士風のファンが言ったデメリットというのは、
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このダンジョン内でHPバーがゼロになった場合、町に帰還せずに地下の牢獄に送られる
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というもの。
牢獄からは簡単に出られる。
しかし、そこからは気味の悪いお化け屋敷のような地下迷路を抜けて入り口まで戻ってくる必要があるそうだ。
もちろんモンスターも出現する。
地下牢のダンジョンでHPバーがゼロになると完全に町へと帰還してしまう。
内容を聞いた私は眉を顰めた。
「なんか……企画書と違う気が……」
何週間前かにもらった企画書には、そんなことは書いていなかったと思う。
プロデューサーも"企画で行くのは簡単なダンジョン"であると言っていた。
デメリットがあるなんて一言も聞いていない。
「まぁ……でも大丈夫でしょう」
考えていても仕方ない。
どうせ何もしなくてもファンたちが私の盾になってくれるだろう。
こうして私含めた4人パーティーとカメラマンのコブトリは攻略順であるという屋敷の2階へと向かった。
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2階の右へと進むと、長く伸びた廊下があった。
不思議に1階よりも薄暗く感じる。
赤い絨毯、木材で作られた壁はやはりワインレッドだ。
等間隔に壁に吊るしてある蝋燭だけが廊下を照らし出していた。
さらにはいくつもの肖像画が飾られ、それらに向かい合わせにして鏡が掛けられている。
それに何の意味があるのかは全くわからなかった。
「わぁ〜怖い」
見るからにホラーテイストのダンジョンに身を震わせる"フリ"をする。
ホラーは得意ではないが、こんなに大人数ならさほど怖くはない。
私の言葉を聞いたファンの3人はやはり緊張の面持ちで私を励ました。
気を取り直して先へと進む。
先頭を歩く剣士風のファンは腰に差した剣を抜いた。
その後ろを歩く盗賊風のファンと魔法使い風のファンも武器を構えている。
「ん?」
私は妙な違和感を覚えた。
なぜか全員がキョロキョロとして挙動不審、私以上に震えているように見えたからだ。
すると壁に掛けられた肖像画と向かい合わせになった鏡の中から何か影のようなものがウネウネと這い出してくる。
「なになに!!なんなの!?」
ドサっと音を立てて床に落ちた黒い影は赤い床に手をついてゆっくりと起きあがろうとしていた。
一番前にいた剣士風のファンが叫んだ。
「ヤバい!」
立ち上がった黒い影は人型。
肖像画に描かれていた貴族の服装の男だが、その顔はまるでゾンビのようだ。
剣士風のファンとの距離は3メートルほど。
相手はまだこちらに敵意を向けていないように感じられる。
そこに先手必勝と言わんばかりに剣士風のファンは床を蹴っていた。
「うおおおお!!」
振り上げた剣をゾンビ目掛けて一気に振り下ろす。
剣は肩を切り裂き、胸の辺りまでまた到達していた。
「な、なんだこれ……引き抜けない!!」
そう言った瞬間、ゾンビは軽く腕を振る。
ゾンビの腕は剣士風のファンの顔面を直撃すると、それを抉った。
瞬く間にHPバーがレッドゾーンに突入する。
見ていた魔法使い風のファンが後方の私に叫んだ。
「カノンさん、ヒールを!!」
「え、え!?そ、そんなこと言われてもわかんないわよ!!」
このやり取りの間に剣士風のファンのHPバーはゼロになる。
すると体が白い光に包まれると拡散して消えた。
「俺がやります。援護を!!」
そう言って飛び出したのは盗賊風のファンだ。
短剣を逆手持ちして凄まじいスピードでゾンビへと向かっていた。
「ファイア・エンチャント!」
魔法使い風のファンが詠唱していた。
盗賊風のファンが持つ短剣には炎が纏う。
そして彼の高速の横切りはゾンビの首元へと向かった。
しかし短剣は首元に到達しなかった。
ゾンビの単純な腕を振る攻撃によって短剣を持った腕が切断されて床に転がる。
「マジか……コイツ!?」
さらに力任せに腕を振って盗賊風のファンの首をもぎ取った。
「きゃあああああ!!」
私はあまりの衝撃的な光景に両手で顔を押さえていた。
これがゲームなの?
ありえないくらいリアルだ。
さらにドン!という鈍い音が鳴る。
恐る恐る正面を見てみると魔法使い風のファンの頭が潰れていた。
恐らくゾンビは盗賊風のファンの頭を投げて当てたのだろう。
「やだ、やだ……どうしてこんな……もうギブアップよ!!私の怖がる姿を配信したかったならもう十分でしょ!!」
私はそう言って振り向いた。
だが、そこには先ほどまでいたコブトリの姿はない。
「な、なんで……どうなってんのよ」
呟くと同時に私の首が鈍い音を立てて曲がる。
そして気づいた時には私のHPバーはゼロになっていた。




