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「きみは俺と……」
おぼつかない目で俯いた。制服の少女は同じおぼつかない目で覗き込んだ。「全部捨てる覚悟がありますか?」その問いの意味がよくわからず言い淀む。
「全部……とは?」そう訊けば、「全部は全部」それっきりだった。
しばらくして、女子高生は口を開いた。「見られたから言うけど、私がここで本当にレイプされていたと思います?」
「いや……それは……」
「仮にされてたとして、あなたはどう思います?」
首を傾げた。こういう質問は苦手だった。小学校の先生が問い質すような質問は。正解を言わせようとしているのが見え見えで、答えはこの一つしかないのよ、と遠回しに言っているような質問は。
だから、論点を逸らしたのだと思う。
単に言いたくなかっただけかもしれない。軽はずみともとれる、ありきたりで、でも労わりの言葉とされる、優しそうで、でも安そうな言葉を。
「仕方のないこと……で済ませられたら楽かもしれない。今まで見て見ぬふりをしてきたことの積み重ねが、この罪と罰につながった……と思えるなら百倍ましだ。性犯罪者の内面に同情したら終わりだと思う。そういう性癖の人が少なからず世の中にはいて、まあ仕方ない、被害者が私でよかった、そういって誰かに同情して、誰かを悲しんだらもう抜け出せないと思う」
女子高生の返事はなかった。
逃げたくて仕方がなかった。だから個室のドアの鍵に触れた。個室の薄い戸は鍵に触れただけでよく響く。「ねえ」と声がする。
「全部捨てられる?」
だから全部とは何なのだ。具体的に言ってくれ。抽象的過ぎてわからない。「全部捨てたら何も残らないだろ」やけになって極論を嘆けば、「そう。だからそういうこと」……また抽象的な言葉。イライラする。「~とか」「~たり」「一応」聞き飽きた。
自分が一番口にしてきた言葉だったから。
「なに、一緒に死んでほしいって?」
「まあ、そういう感じ、とも言えます」
「そういう感じってどんな感じだよ」
「どうって言われても……とりあえず手持ちのもの全部捨ててもらえますか?」
「どうして?」
「初めて会った人なんて尚更信用できないからです。鞄はここに置いていけばいいです。財布もいりません。スマホはトイレに流してください」
「流れるのか? スマホ」
「知りません。音楽流せるくらいなんだから流れるんじゃないですか?」




