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「誰の夢だったんだろう」
真っ暗な廃病院の閉鎖病棟の一室。明かりの届かない地下の部屋。スマートフォンの明かりが照らす壁の先。ペンキの痕がある。
それはまるで、いつか美術の教科書で見た画のようだった。ユダ……そう、ダヴィンチ。最後の晩餐。画そのものに意味があった。でもその意味を見出させるためには、当時、誰も気づけない技術を駆使しなければならなかった。
このペンキの壁画に、意味はあるのだろうか。この壁画に、誰も知らない技術、見せ方が駆使されているのだろうか。
絵美子は自分の見た夢を頼りにやってきた。まさか本当にあるとは思わなかったが、今現にこうして目撃しているのだから、過去に誰かしらはここに居て、それが誰であれ、ここにペンキを塗ったのだろう。肝試しに来た若い子たちが描いていったのかもしれないし、本当に手術を受けたあの男が描いたものかもしれない。真相はわからない。
この病院に入る際、入り口に張り紙が貼ってあった。何でも、取り壊し予定の病院なのだそうだ。だろうな、と絵美子は思う。精神病患者が過ごした場所となれば、心霊現象とか起きかねない。実際に起らなかったとしても、好き好んでこの建物をそのまま再利用しようと思う人は少ないだろう。金のないフリーターでも一瞬躊躇うだろう。「俺、霊感ないから!」と陽気に話す物好きでなければ、事故物件同様、寄り付かないだろう。
たまたま通りかかったことを幸運に思う。人が寄り付かない場所なら尚更だ。絵美子はパイプ脚のベッドの上に腰を下ろす。




