勉強
「あ、ロードさん。帰ってきて早々、二件ほど報告することがあるんで、ちょっといいですか」
「えぇ、大丈夫ですよ」
俺が昼食を食べに外へ向かおうとしていた時、フィアさんに呼ばれた。
一か月の間に何か面倒ごとがあったんだろうか。
「一つは治癒魔法を教えてくれる人がこちらに来ていることです。この国の宮廷治癒術師らしいですよ」
「それはそれは。助かりますね」
そう、俺は技術、相性、知識諸々を無理矢理魔力ですっ飛ばしている状態だ。
それを教えてもらえるというなら、それに越したことはない。
面倒ごとを引き連れてこなければ。
「ちなみに対価とかは?」
「いえ、前の魔物の一件のお礼らしいですよ。技術向上のために、是非、って言ってましたね」
確かに、あれは国として解決するべき事象だっただろうが、その前にアミリアさんと共に解決してしまった。
国としても、何か褒章を出しておきたいんだろう。あわよくば国にとどまってくれ、とか。
「なるほど、その人はもう来ているんですか?」
「えぇ、あちらの部屋でロードさんの帰りをずっと待ってました。......正直少し不機嫌ですが、すぐ帰ってこなかったロードさんのせいですよ」
「あぁ......わかりました」
確かに、最初は一か月も滞在する予定はなかった。
まぁ、元から二人がいなくても回っていた治療院だから、治癒自体はアミリアさんと俺がいなくても回ると思って滞在したが、思わぬところで面倒なことに。
「あと、もう一つは?」
と、そこで俺は要件が二つあったことを思い出す。
そしてフィアさんが「それなんですが......」と言いづらそうにしながらも、小声で話す。
「えっと、マルコ? さんと、ケルヴィンさん? が面会許可を求めて何度も訪れていました」
「うえ......」
つい声が漏れてしまった。主にケルヴィンのほうで。
正直、あのパーティーには関わりたくない。というか、向こうから関係を切ってきたくせに何を考えているのか。全く理解が出来なかった。まぁ、理解しようとするのがそもそも間違いなんだろう。
「それで、二人はいつ頃?」
「そうですね......周期的に、明後日、ケルヴィンさんが来られます」
面倒な。
ついそう思ってしまった。
まだマルコが先のほうが良かった。
というのも、俺はケルヴィンとは詰め所送りにしてから顔を合わせていない。つまり、印象最悪だってことだ。最悪路地裏に連れ込まれて殺されるかも。
呼び出して殺すなんて言うバレバレのことをしないだろうと思っているが、どうしてもあの粗暴な性格のことを考えると可能性を捨てきれない。
「まぁ、分かりました。とりあえず、さっきの宮廷治癒術師さんに会ってきますね」
「はい、お願いします」
俺は昼食を食べる前に、とりあえず顔だけ出そうと考え、宮廷治癒術師の待つ部屋へと向かった。
「遅い!」
「はぁ、すみません。用事が長引きまして」
俺はとりあえず謝る。
フィアさんの言う通り不機嫌な男だ。
筋肉隆々で、治癒術師か正直疑わしかったが、そこにいるということはそう言うことなんだろう。
「まぁいい。今から始める。この本を使って勉強するから、すぐにそこに座れ」
その宮廷治癒術師さんは、すぐに立ち上がって本を開いた。
俺が「はぁ」と声を漏らすと、すぐにまた怒鳴ってしまった。
「すぐに座れ! 私は早く家に帰りたいんだ」
「もしかして、こっちに来てから......」
そう考えると、確かに気の毒だ。
さっさと椅子に座り、言われた通りの本のページを開いた。
「さて、始めるぞ」
その短い言葉で、授業が始まった。
「まず、手を切り落とす」
「はい」
俺は言われた通りに手を切り落とした。
当然、痛い。
だからいつも通りに治癒をした。
「違う! それだと魔力で強引に治癒しているだろう! 骨と肉、血管を意識するんだ! それでも本当に治癒術師か!」
「この本の通りに、ですか......」
見抜いてくるあたり、実力は確かなんだろう。
けど正直言って、うるせぇ。
ここまで怒鳴られるとは思っていなかった。
その本は人体解剖図のようで、細かく骨の位置や筋肉の形、血管などが書き込まれていた。
とりあえず腕で、ということだろう。
ので、それを意識して治癒をした。
数回、数十回と繰り返して、どんどんと魔力消費が少なくなった。
どうやら、うるさいが言っていることは正しいようだ。正直疑っていた。
ごめんなさい、と心で謝る。が、それに気付かず男は笑顔を見せる。
「そうだ、やればできるじゃないか。名前は?」
「ロードです」
「ロード。さぁ、次だ!」
笑顔を浮かべたその治癒術師さんは、もう私の弟子だ、と言わんばかりの目をして授業を再開した。
「やっと終わった......」
「この内容を半日で理解したロードは正直天才だ。おめでとう、よければ宮廷に来ないか?」
「行かないです......」
どうやら引き抜きが目的だったようだ。
外を見る。もう月が昇っていた。
結局昼も夜も食べずに、肉体を再生し続けていた。
もちろん、俺の腹は空腹を訴えて音を立てて唸っていた。
治癒について学べたが......これは想定外。
「ありがとうございました」
「おう。何かあったら俺を頼るんだぞ!」
そう言って、名前も名乗らないままその治癒術師は部屋から出て、治療院を後にしてしまった。
......夜食を食べたら寝るか。
次回夜更新。
一気に、終わらせます。




