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指輪

「やっと戻ってきた......」


 転移魔法陣の先へ進めば、いつもの見慣れた治療院。

 長い旅だった、そんな感覚だ。

 とはいえ、長い旅のほとんどは矢を撃ち込まれていた記憶のため、やっぱり旅行という印象は少なかったりする。


「我が家って感じがしますね」


「確かに、そうですね」


 一緒の気持ちか、と少し幸せな気持ちが広がった。が、よくよく考えるとアミリアさんのほうがこの部屋で暮らした時間としては長いから、その感覚になるのも当然か、と俺は反省する。これしきのことで喜んでいたら、俺の人生これから大変だ。


「それじゃ、荷ほどきしてきますね」


「はい、分かりました」


 俺は持っていた大量の荷物――――大多数がお土産だったが――――を持って、自室へと入った。


「あ、忘れていた」


 やっぱり俺は忘れるのが多いようだ。

 礼服のポケットから指輪が出てきた。大切にしろと言われていたあれだ。

 そういえば、礼服をあれから着ることはなかったからそのままポケットに入れたまま持って帰ってきたようだ。

 .......あれ?


 俺はある疑問を抱いた。

 ので、すぐにアミリアさんの部屋へと向かう。

 ノックをすれば、「はい、どうぞ」と部屋の中から聞こえてきたので慎重に開ける。


「アミリアさん」


「はい、どうされましたか?」


 アミリアさんもやはり自室で荷ほどきしていた。

 そこで俺は疑問に思ったことを話す。


「指輪って、聖者には配られないんですか?」


「......あぁ! そのことを話してなかったですね」


 アミリアさんは、どうやら何か知っているらしい。


「あの指輪って、二種類あるんですよ」


「......なるほど?」


 二種類、となればもう一つはあの青いやつだろう。

 だが、それが渡されない理由にはならない気が――――

 と思っていたら、アミリアさんは話を続ける。


「そして、この指輪は聖女や聖者としての地位を約束するもので、ある程度の権限も行使できます」


 ほう。だから聖女や聖者には大切なものだと皆が口を揃えて言うのか。確かに、それがあるから聖女、聖者として動ける、というものなんだろう。

 まぁ、それは納得だが......結局、それなら俺のやつはどうなったんだ?


「そして二種類っていうのは、聖女が渡される赤い宝石のもの、そして聖者が渡される蒼い宝石のもの。そしてその二つは、契りを交わした二人の間で交換する、という決まりがあるんです。だから今私はロードさんの、蒼い宝石の指輪を持っています」


 そう言って、アミリアさんは蒼い宝石の付いた指輪を荷物の中に入っていた小箱から取り出した。


「あ......なるほど」


 俺は今まで勘違いをしていた。

 聖者や聖女には各自、色の違った指輪を渡されるのか、赤と蒼、良いほうをつける、みたいな感じだと思っていた。

 単純に、マリーさんが蒼いものを持っていたから。

 だがそれは、単純にアルトさんと交換した、というわけだ。

 つまり交換をする必要があるから、タイミングがなかったのか面倒だったのかは知らないが、元からアミリアさんが蒼いほうをもらった、というわけだろう。


 いや、それだったら......


 俺はあの時の言葉を思い出す。

 それはアミリアさんが攫われた時の、大聖女様の言葉。



 ――――せめて、あの頑固な子が指輪を預けていれば......



 ――――早く頼りになる人に、と言っているのに、危険にさらすから、と言って頑なに......



 頼りになる人、ってことは、その人でないほかの人に渡す可能性もあるということに他ならない。


「それって、例えば親友だったりとか、契りを交わす人以外に指輪を預けたまま、婚約だったり、結婚したらどうなるんですか?」


「それは......ないです」


 ぼそり、と呟くように言った。

 顔がどんどんと赤く染まっていく。

 なにも具体的なことがわからないのに、アミリアさんが一人赤くなり始めて正直混乱している。


「ない?」


「契りを交わしたい人以外には基本的に渡さないので......ないです......」


 尻すぼみになりながら、アミリアさんは説明をした。


 そこでやっと理解した気がする。

 となればきっとあの大聖女様の言葉も、頼りになる結婚相手、という意味だったのか。


 つまりあの時もらった指輪は、いろんな意味こそつけられはしたが、彼女からの意思表示だった......というわけで......?

 そう考えるとどんどんと顔が熱くなってきた。


「ま、まぁフラれたり、あとは死んじゃったりしたらもちろん指輪は返してもらうんですけど!」


「そ、そうですよね!」


 アミリアさんも、そして俺も恐らくだが真っ赤のままだろう。

 まさか指輪に、そんな意味があっただなんて。

 そしてあの時点で、結婚の意思を伝えられていただなんて。

 なんとも、宗教的なものは行動一つ一つが難しい。


 と、そこでアミリアさんはふと、思いだしたように付け加える。


「でも、指輪はまだ付けたらだめですよ」


「え、どうしてですか」


 俺は疑問を口にした。それこそ、もうつける気でいたからだ。だというのに先を見越したように禁止されてしまう。

 けれど実際、アルトさんとマリーさんは......


「私たちは、表向きはまだ結婚していませんから」


「あぁ、確かにそうですね」


 失念していた。

 もう結婚した気になっていたが、まだ公式に発表とかはされていないんだった。

 確かに、指輪がそう言う意味を持つならば俺が赤を、アミリアさんが蒼を持っていること自体がまずいのか。


「それじゃ、大切に保管していますね」


「はい、くれぐれも無くさないよう、お願いしますね」


 ドアを開け、俺は部屋に戻る。

 俺はその赤い宝石の付いた指輪を手にする。

 そんなに大切だったのか、と感心しながら見ていると、あっという間に時間が過ぎていた。

 ので、とりあえずカバンのポケットに入れ、荷解きをすぐさま始めるのだった。


 結局、昼を超えたあたりまで、荷解きは続くのだった。

次回未定。今日中に出します。少々お待ちください。

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