入って右の突き当り
「すみません、礼服を直して欲しいんですが大丈夫ですか」
俺はその部屋に入って、すぐそこにいた女性に声をかけた。
その女性はすぐに俺の元へと走ってきた。
「あ、はい、って聖者様! 早く、今日の主役の服よ!」
どうやら今気づいたようだ。まぁ、そこはまぁどっちでも良い。
俺はすぐに上だけ脱ぐと、その服を手渡した。
「任せてください、すぐに直しますので! 急ぐわよ!」
とても張り切っている様子だった。
まぁ、直してもらえるならどんな人でも極論構わないのだが。
とりあえず、服がない以上ここで待つしかない。
俺は椅子に座って待っていることにした。
奥では騒がしく――――というよりさっきの受付にいた人の声がほとんどだったが――――作業が行われているようだった。
一応、場所が場所だから宮廷裁縫士的な扱いなんだろうか。そうであれば、すぐに仕事が終わるだろう。
そう思っていた時だった。
「終わりました、着用してみてください」
「あ、はい」
そんなことを考えているうちに出来ていただなんて、流石、としか言いようがない。
時間もそこまで......というよりほとんど経っていないはずだ。
「大丈夫ですね」
「よかった、ちなみに参考程度に、これどうされたんですか?」
その人が持っていたのはさっきまで胸元についていた布。
「突きで貫通していなかったのは幸運でしたね」
「そうですね......」
貫通していたら俺は生きていなかったかもしれない。
「まぁ、男に一突き、ですよ」
「そんな物騒なことがあるもんですねー、聖者様って、大変そうで」
ふふっ、と笑い声が聞こえる。
確かに、そう言われてみれば大変ごとばかりのような気がしてきた。
「そういえば、毒付きのナイフだったんで、それ気を付けてくださいね」
「えっ!」
よく見れば、切り裂かれた周囲少しが変色しているのがわかる。
きっと毒を吸い込んだんだろう。
色と特徴から時間が経てば毒としては使い物にならないだろうが......って、それを言わないといけないのか。
「まぁ、これだけ時間も立ってますし、大丈夫とは思いますけれど、一応」
「驚かさないでください! はぁ、もう死ぬかと思った......」
胸を押さえ、彼女は荒くなった息を整える。
その様子を面白がりながら見ていると、その女性はここ一番の大きな声を出した。
「ほら、早く行ってください、主役様!」
「あ、はい」
もう夜だというのに、それだけ元気にいられるのは一種の才能かもしれない。
俺はその女性に元気をもらったような気分だ。
俺は「ありがとうございます、失礼しますね」と言い残し部屋を退出した。
しかし、俺は外には向かわなかった。
俺は道行く人達に聞きながら、ある部屋へと入った。
次回2/6日の午後......の深夜枠かもしれないです。ご容赦ください。




