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試練

 暗い、暗い場所を一人、彷徨っていた。

 何も見えない、音も聞こえない。ただ、そこに自分が存在していると、そう不思議と知覚させられているだけだった。


 何故、この場所にいる。

 何も、分からない。


 この状況に至った一切の記憶がない。

 転移が成功してから何かがあったことだけは間違いないが、まるでそこだけ鍵をなくして見られなくなってしまったかのように、ぽっかりと空白が出来ていた。


 とりあえず、前に進もう。

 そう思い、ゆっくりと前に進んだ。


「これより、試練を始める」


 何も聞こえなかった世界で、突如声が聞こえた。

 そしてその言葉をきっかけにしたように、一つの白い球が目の前に浮かぶ。

 試練。言葉の意味こそ知っているし、きっと宗教的な課題を受けている――――もしくは受けさせられている――――ということは大体理解した。

 そのうえで、俺は続く言葉を待つ。


「健闘を祈る」


 しかし、試練の内容を説明されることはなかった。

 そしてまた視界は暗闇に落ちていった。






「ここは......?」


 眠りから覚めた、爽快な感覚。

 しかし、心当たりがない。

 周囲を見回す。が、見覚えのない白い建物ばかりであった。


「ロードさん、起きましたか」


「聖女様......?」


 ここに、俺は連れてこられたのだろうか。

 転移魔法陣は無事に成功して、ここに転移されたというのだろうか。

 転移するときはその姿勢のままだと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 後は......魔力が減っている。重傷者一人か、範囲での治癒一回くらいしか使えないくらいに。

 転移は便利だと思っていたが、そう言う代償があったのかもしれない。


「ロードさん、立ってください」


 聖女様が、俺に手を差し伸べた。

 俺は少しためらった。が、聖女様に甘えて、手を借りることにした。


「ロードさん――――」


 その瞬間、周囲の景色は一気に変化する。






 白い街並みが、崩れた瓦礫に。

 青い空が、黒煙で覆われる。

 道がぼろぼろになり、あちこちに火が上がっている。

 周囲には臨戦態勢の兵士が聖女様を囲むようにして立っていた。。


「ロードさん――――」


 聖女様の怯えた声が聞こえる。

 突如、上空から魔法が――――隕石が降り注ぐ。


「聖女様!」


 俺は物陰に転がり込んだ。が、聖女様は空を見上げて固まっている。

 それは突発的な状況に混乱してか、それとも避けることが出来ないと絶望してか。



「聖女様――――!!!」



 そして魔法は地上に降り注いだ。

 聖女様を、そして周囲の兵士を巻き込んで。



「選べ、大切な一人か、大勢か」



 声が、聞こえた。

 状況を確認する。

 聖女様は幸か不幸か、生きるのが辛いほどの怪我を負いながら浅い呼吸をしていた。が、呼びかけても返事はない。この怪我だとそう遅くないうちに死んでしまう。

 周囲の兵士はとっさに盾などで受けたようで聖女様に比べれば怪我は少ない。が、すぐには動けない。

 そして何より人が多すぎる。第二射が来たら大勢が死ぬことは間違いないだろう。



「選べ、大切な一人か、大勢か」



 聖女様か、兵士。

 聖女様を癒して、兵士を癒してもらおうとも思ったが、この様子ではそれは難しいだろう。治癒をしてから、精神状態を持ち直してすぐに魔法を使えるとは正直思えない。



「選べ、大切な一人か、大勢か」



 頭の中にうるさいくらいに声が聞こえる。

 選べない、なんて言うつもりはない。選ばなければどちらも死ぬだけだ。

 数瞬、悩む。そして決断した。



「――――」



 俺は魔法を使った。

 瞬間、俺の選んだ通りに治癒の光が広がった。

 次回2/1夜更新予定です。

 そして総合評価500pt越え、ありがとうございます。

 明日も三回更新予定で頑張りますので、応援のほどよろしくお願いします。

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