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セントリアに旅行要素はなかった

「では、これから転移魔法陣を起動しますね」


 聖女様と、魔法陣の前に来ていた。

 隠し階段は聖女様が内側から閉じていた。

 よく考えるとそれができないと隠し階段としては欠陥だな。


「準備は大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です」


 俺は荷物に俺の全財産を入れておいた。

 給料未払いなのは正直不安だが、荷物が多くて管理が甘い今、大金を持っていてもどこかで取られたり無くしたりしそうだからお小遣いみたいでちょうどいい......かもしれない。


「あぁ、そうだ。お給料渡せていなかったですし、これを預けておきます」


「急に、どうしたんですか?」


 無理やり給料がないことを納得させた後だというのに、向こうからその話を持ってくるとは思わなかったからつ驚いて声が少し大きくなってしまった。が、それを気にせず聖女様は手に何かを持つ。

 そして「はい、これを持っていてください。教会にとって大切なものですから」と聖女様は俺の右手にその何かを入れる。


「これは......指輪?」


「そうです。お給料を渡します、という約束の意味を込めて。あとは......そうですね、延滞している分を先に払った、とでも思っていてください」


 そう言って、聖女様は前を向いた。

 これは......担保という意味合いで渡されたのだろうか。それとも利子なのか。そこは推し量れなかったが、大切というあたりその素材以上の価値があるのだろう。

 赤い宝石が付けられた金の指輪。教会にとって特別、と言われても、それが何を意味するのかは全く分からなかった。まぁ、売り払わないように、紛失しないようにだけしていたら良いだろう。

 俺は忘れないように、しっかりと意識してポケットの中に入れた。

 洗濯で食い違わなければ、無くすことはないだろう。


「それでは、起動します」


 聖女様が祈りを捧げ始めた。

 そういえば俺は祈りを捧げたことがない、と今になって思う。

 教会に所属する聖者としてはいかがなものかと思うが、この日数で神への祈りを模範レベルで行えと言われてもそれはそれで困る。

 さて、いつ練習しようか、なんて考えているうちに、聖女様の儀式が完了したようで、魔法陣は薄く光っていた。


「それでは行きましょう」


「はい」


 俺と聖女様は魔法陣の上に立った。

 どうやって移動するのか、と思ったら、どんどんと魔法陣の上に魔法陣が重ねられていく。


「これが......転移」


 気付いたころには、もう見たことのないくらいに白い壁と床、天井に囲まれていた。






「ようこそ、首都セントリアへ。それでは、さっそく向かいましょう」


「あ、はい」


 そこには、一人の神官服の女性が立っていた。

 どうやら俺を案内するためにいるらしい。本当にセントリアなのか確認をしたかったが、目の前の人は俺を逃がしてはくれなさそうだ。

 どこに向かうかは告げられなかったが、きっと服の仕立てとか、説明とか、何かしらするんだろうと当たりをつけてとりあえずついていくことにした。


「こちらの部屋で少々、お待ちください」


「わかりました」


 俺は招かれるままに部屋に入る。

 と、そこで聖女様が、どこか不安そうにこちらを見ていることに気付いた。


「聖女様はまた別の部屋に?」


「え、えぇ、そうです。少しその部屋にいてくださいね」


 少しワタワタとしている聖女様に、どこか疑問を覚えた。

 直感が鳴り響く。何かが起こる、と。

 俺は自分にバフをかけ、さらに探知魔法を使用した。

 だが、特に暗殺者だとか、魔法陣だとか、そう言ったおかしなものは見つからない。


「わかりました」


 毒物を撒かれても、まぁ数秒持てば俺は無理やり治せるから、大丈夫だろうと推測し、おとなしく部屋に入る。



「あ、れ......」



 その瞬間、体の力が抜ける。

 探知魔法は、確かに何もないと結論を出したはず。

 バフは、効果がなかった。


 治癒魔法を、考えるより先に使用。

 エフェクトを隠さず、反射のままに放った治癒魔法は、眩い光を放ちながらいつも以上の効果を発揮した。


「なん......で......」


 だが、その効果も虚しく、深い海の底に沈んでいくように俺は意識を失った。





「推薦される理由が、分かった気がします」


「そうでしょう」


 部屋の外では、案内していた女性と聖女が話していた。

 その二人は、こうなることがわかっていてこの部屋にロードを入れた。


「探知魔法で危うく魔法が見つかる所だった、バフでもしかしたら効果がなかった、治癒ですべてなかったことにされたかもしれなかった。歴代の候補者でも、この時点この年齢でこれだけの実力を持っている人はいなかったですよ」


「そうですね。ロードさんは素晴らしいを持っています」


 聖女様は、懐かしげに、そしてどこか悲しげな顔で倒れ込んだロードを見た。


「彼が試練を突破することを、祈っています」


 案内した女性はぽつりとこぼすと、「採寸の用意をしてきますね」と言い残しその場を去った。

 後には、ただその部屋を眺める聖女だけが残った。

次回は2/1夕方に更新予定です。気長にお待ちください。

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