催促と不安
「今、時間をもらえるだろうか」
「えぇ、どうされましたか?」
ギルドの受付嬢に、俺は強気で話しかける。今回は以前と違いベテランに、だ。
ちなみにギルドでは敬語を使わないのが吉だ。敬語は弱く見えて、下手をすれば絡まれる。
「治癒代金、払ってない人がいてね」
「は、はい、どうしましょう」
俺の格好を見て、治療院で働いているということが分かったのだろう、向こうも提案を受け入れる姿勢のようだ。
俺もそれだけ話が早いと助かる。まぁそれが理由でベテランを選んでいるから良しというものだ。
「依頼の報酬から何割か、天引きして返済に回させてくれ」
「期限がどれくらいとかは......?」
ギルドの受付嬢が俺の予想よりも下手に出てきた。
ギルドの信頼問題にかかわってくるか、とか、街に不可欠な治療院の財政に影響が、とかを考えると、そうなってもおかしくないとは思っていた。
が、まぁ判断が速い。流石ベテランだ。
「三か月で全額。割合はそっちで決めてもらって構わない」
「わかりました。名簿のほうは書き写しておきますね」
俺は名簿を見て、中から未納者がたくさん書かれたものを探す。
すると、未納者だけを取り上げたリストが挟み込まれていた。ご丁寧に二部も。
これに関しては流石フィアさん、と言ったところだろうか。
俺はそのうちの一部を取り出し、手渡した。
それを受付嬢は受け取ると、「少々お待ちを」とだけ言って、裏方へと入っていった。
ギルドについてから、どれくらいの時間が経過しただろうか、と時計を見た。
時計は十一時半を指していた。
と、その時ちょうど、受付嬢が裏から出てきた。
「お待たせしました。名簿の返却と、こちらで写した物の一部です」
俺はさっき渡した物とは別に、数枚の紙を受け取った。
間違いがないか、また後から書き換えて不正をしていないか、それを確認するためのものだ。
「では、失礼する」
俺はその二つを持ち、ギルドを後にした。
フィアに名簿と一緒にギルドの写しを渡したころには、もう昼時だった。
もうすぐ出発だろうから、荷物を回収に部屋に戻る。
「はぁ、気を張るのは何回やっても慣れる気がしないな......」
自室で一息、ため息をつく。
頭では、いや心の部分だろうか。
己の中で、ある一つの確信があった。
「このセントリア旅行、絶対に何かが起きる――――」
まぁ旅行というには目的が組織に引っ張られているが。
そんなこと
コンコン。と丁寧なノックの音が聞こえる。
「ロードさん、準備はできましたか?」
優しい、聖女様の声が聞こえた。
直感は根拠がないから無視したとしても、自分の、そして治療院としてのお金のこと、セントリアでの数日間にわたる不明瞭すぎる「数日間」のこと。
どうなるかという不安を抱えながらも、俺は聖女様の声に答え、部屋を出るのだった。
次回明日2/1深夜更新です。少々お待ちください。




