朝日さん!新入部員(仮)ゲットです
「朝日さん、早く部員を増やさないと本当にこの部活廃部になっちゃいますよ」
無元がお茶をすすりながら言った。
「そうだな、もうそろそろ増やさないとマジでヤバイかもな」
朝日もお茶をすすりながら言う。
「友達とかには声かけたんですか?」
「面倒だとさ」
朝日にも友達がいるし人ともそつなく付き合っていくだけのコミュニケーション能力は持っている。
「本当ですか〜」
「本当だよ」
無元が疑わしそうに覗き込む。
「そう言う無元はどうなんだよ!」
「全員ダメでした!」
自信満々に言う。
「堂々と言うな!」
そんなこんなで朝日と無元はいつも通りの学校生活を送っている。
あの事件から三日ほどたったが特に変わった事は無い。
いつも通りだ。
機龍の方は妹がいきなり転校してきていろいろあったらしいが朝日はまったく関わっていない。
この3日間、朝日がしていた事といえば草刈りだ。
結局、無元を新たに加え3人で3日もかけてやっと半分取り終えたところだ。
まだ半分もあるのかと思うと頭が痛い。
「今日も草刈りやるんですか?」
「下で寧々先生が待ってるよ」
憂鬱そうに朝日がため息をつく。
「そうなんですか・・・。でもすいません僕、今日は手伝えませんよ」
「え!」
「今日はアビリティアーツの方に行かないといけませんから」
「マジで」
「はい」
無元は申し訳なさそうにしながら少し肩をすくめる。
「今日は新入部生歓迎会があるんですよ、流石に行かないと」
「今日は寧々先生と二人かよ」
朝日は頭を抱える。
「明日はちゃんとやりますから」
うなだれる朝日を余所目に無元は第1闘技場に向かった。
◇
無元が闘技場に着くと立花と機龍が既に入り口付近で手招きしているのが見えた。
「無元。今日は来たのね」
「流石に新入部生歓迎会は来るよ」
三人で歓迎会が行われる方へ向かう。
「それにしても、やっぱり入部生多いですね」
「そりゃ、人気の部活だからね」
立花が入部生を見ながら言った。
「本当に多いな。これ何人くらいいるんだ?」
機龍が目を丸くさせる。
「これは100人以上はいるでしょうね」
「すげ〜!」
無元もあたりを見回してみる。
確かにこの人数の部活はなかなか存在しないだろう。
機龍が驚くのも無理はない。
「そういえば立花さん。怪我の方は大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫よ。やっぱり今の医療技術はすごいわね」
あの事件の後、立花は学院長に病院に担ぎ込まれ緊急入院したようで、そこまでの怪我なのかと心配していたのだが杞憂だったようだ。
「明日香、本当に大丈夫なのか」
「心配しなくても大丈夫!」
立花がポンポンと怪我したところを叩いて見せる。
「それにしても本当、学院長が居てくれて助かったわ。あのまま助けられずに事が進んでたらって思うとゾッとする」
立花は体をさする。
「・・・そうですね。本当に良かったです」
「なんでそこで間が開くのよ」
「あ、あははは・・・」
立花は思いっきり学院長が助けたと思っているらしい。
あの後、朝日さんは直ぐに去ってしまったし分からなくて当然だ。
「私は襲われた方が良かったかしら?」
「違うよ、ごめん」
「まあまあ、明日香。その辺にしとけよ」
そんな話をしていると、
「お兄さま」
そんな声が聞こえた。
もうだいたい想像がつく。
「な、七海⁈ なんでここに!」
機龍の妹、機龍七海である。
ついニ日前に転校して来たばかりで重度のブラコン。
勿論、立花とはいろいろあった。
それはもう思い出したくないレベルで。
この機龍の妹は前の学校ではかなりの実力者だったらしくこの学院のアビリティアーツ部にも入るようだ。
「お兄様もアビリティアーツに入部するんですね!」
弾んだ声で機龍妹が言う。
「ああ、うん」
「当たり前ですよね!お兄様はとても強いですもの!そこら辺にいるカスどもとは違いますものね!」
そう言って機龍の腕に抱きつく。
妹はいつも通りの仕上がり様だ。
しかしながら機龍がアビリティアーツに入るのは頷ける。あれだけの格闘スキルがあればかなり良いところまでいけるだろう。
本音としては朝日さんに入ってもらいたいところなのだがこの間誘ってみたら「死んでも嫌だ」と言われてしまった。
「あんた、なにやってるの!兄弟でそんなに抱きつくなんて!この変態妹!」
立花が割って入る。
「ああ、居たんですか。影が薄すぎてわかりませんでした」
「居たわよ!ずっと翼の隣に!」
「すいません〜ん。お兄様に寄生する虫の類かと思いました」
妹が可愛く舌を出してテヘッとする。
「どこをどう見たら私が虫にみえるのよ!いいわそっちがその気ならやりましょう。私はいつでもOKよ!」
立花がデバイスを出す。
「うふふ、笑えますね。何処かの誰かに腹を殴られて寝込んでた人に私が負けるとでも」
機龍妹もデバイスを出す。
まさに、一触触発という感じだ。
「や、やめとけ二人とも!また、いろいろ壊すつもりか!」
機龍が止めに入る。
二日前、この二人は演習室を破壊したばかりだ。
できればそんなことは避けたい。
「ほら、二人とも。こんな所で戦ったら人にも迷惑がかかるしみっともないよ。それに、また鬼の極堂先生に叱られたいんですか。アビリティアーツ部に入ったんだから後で嫌ってほど模擬戦が出来るさ」
僕は二人をなだめる。
「そ、それもそうね。演習室を破壊した時は結構怒られたし・・・」
「まあ、お兄様に見苦しい所は見せられはせんね」
どうやら極堂先生のお叱りは相当こたえたらしい。
二人ともいそいそとデバイスをしまう。
何とか危機は避けたらしい。
そんなこんなで四人は歓迎会が始まるまでたわいない話をしながら時間を潰した。
しかし、無元がこの歓迎会に来たのには別の目的がある。
それはミス研への新入部員勧誘である。
無元がミス研に入部したのが2月ごろ、そして二ヶ月が立って今は4月!勧誘の季節である。
アビリティアーツ部にまだ染まりきっていない新入部員を上手い具合に兼部の道に誘い込み、名前だけミス研に置いて貰おうと言う作戦である。
そんな事を考えていると
「無元。どうしたの考え込んだ顔して?」
立花が心配そうに話しかけてきた。
どうならかなり険しい顔をしていたらしい。
「いや、ミス研どうやったら新入部員を勧誘できるかなと」
「あ〜〜。廃部の危機だもんね」
「ええ、ヤバイんですよ」
「あと何人くらい足りないの?」
「あと一人ですね」
「そう・・・」
立花が少し考え込む。
「私で良ければ入りましょうか」
「えっ」
立花の予想外の言葉に僕は驚いた。
「そこの部長には風切に絡まれた所を助けてもらったし、この間の変態妹の件でも無元にはお世話になってるしね。そのお礼で入部するわ。あまり顔は出せないと思うけど」
「本当にいいの?」
「ええ」
だとしたら願ったり叶ったりだ。
「じゃあ、明日。部室に来てください」
「分かったわ。ちょうど明日は予定も無いしお邪魔するわね」
こうして新入部員(仮)をゲットしたのであった。
誤字、脱字がありましたら申し訳有りません。