SS ドルフの受難
主人公が森で遭難している一方では・・・
-謁見の間にての一幕-
「まだ勇者様の行方はわからぬのか?」
「残念ながら。情報収集部隊の総力を挙げて調査している最中ですが、未だ消息は明らかになっておりません。」
情報収集部隊の部隊長を勤めているドルフ・インフォは焦っていた。
目の前で勇者の行方が見つからないことに苛立つソフマフ国の国王バスク・ロン・ピシー・ソフマフはドルフの報告を聞いて余計にその苛立ちを大きくしていた。
魔王が勇者に倒されてから10日後。勇者の出身国であるこのソフマフ国に帰還し、盛大なパレードが催された。50年という長い間魔王軍と人類軍で争い、疲弊していた人類軍はもはやこれまでかというところまで追いつめられていたのだが、人類の希望として立ち上がった9人の光の加護を神から賜りし者が魔王城に潜入。見事そのうちの4人が魔王を討ち取ったのだ。
魔王を討ち取ったその4人は勇者と称えられ、それぞれの出身国に帰還したのだ。ソフマフ国はその中でも特に魔王討伐においてリーダー的立ち回りをしていた勇者の出身国ということで、周辺諸国からも「偉大な戦士を輩出した国」としての評判を集めていた。
しかしその後国王が勇者に対して爵位と国王の娘であるシャリア第一王女を与えるための式典を催す直前に姿を消したのである。
勇者が宿泊していた部屋には現在の居場所の手がかりなどは一切発見できず、装備や持ち物などもほとんど残されていたために謎の失踪ということで情報収集部隊が各地に赴き、調査、捜索をしているのである。
しかし今のところ全くといっていいほど勇者に関する手掛かりは発見できていない。ゆえにドルフはこのままでは王の怒りに触れて処罰されるのではと内心気が気でないのだ。
「なぜこのタイミングで失踪などするのだ!五日後には戦勝祝いの式典がわが国で催されるというのに。爵位を与え、シャリアとの婚約発表し、式典にて我が国の権威を知らしめる予定であるというのに。このままでは逆に笑いものにされてしまうわ!!」
国王はそういって王座の肘掛に拳をぶつける。国王はもう50にさしかかっており、老化のせいか体はほっそりとしている。近頃は体を動かすこともめっきり減って、筋肉の衰えも著しく、手の骨は形がわかるほどにやせ細ってもいる。ゆえにぶつけた手は相当痛かったはずだが、しかし焦りは怒り、恐怖から感覚が鈍感になているようであり、今も肘掛に振り下ろした手は強く握りしめられている。爪が掌に食い込んで傷つけてしまうと感じるほどに。
そんな王の怒気に気圧されてつい顔を伏せてしまう。ドルフにはもうチャンスがないのではないかと感じていた。これ以上の失態は許されない。そう感じさせるほどの怒りが王から発せられているのだ。
ドルフはそんな原因を作った勇者に対して強い恨みを抱いた。
「・・・して、勇者に同行していた者たちの行方はわかったのか?」
表向きは勇者4人の力によって魔王が討たれたことになっている。しかし実際はそうではない。確かに勇者は最前線で魔王と対峙し、特殊な力によって魔王を死に追いやった。しかしいくら勇者と言えど魔王との力の差は大きく、9人いた勇者が4人にまで減らされるほどであった。勇者一人につき1000人の軍隊に相当する力を保有するといえば、そんな化け物じみた力を持つ勇者を単体で5人も殺して見せた魔王という存在がいかに強大であったかがわかるだろう。
さらに魔王城の中枢ということで、潜入できた時点で外よりもはるかに少数の敵数になるとはいえ、ここの力がより洗練された魔王の配下も多数存在する。そんな中勇者だけでは魔王を討ち取ることはできなかったという声も上がっている。これは4人の勇者が帰還後にパレードで勝利宣言を行っていた際に言っていたことでもあるのでまず間違いないだろう。
では何故討ち取ることができたのか?その答えが勇者に同行していた者たちの存在であった。
勇者に同行していた者たちのことを「勇者一行」「勇者パーティ」と呼ばれているのだが、その同行者たちは勇者に一歩及ばないまでも魔王とその配下が居る魔王城に勇者とともに潜入し、魔王の配下の中でも精鋭だった者たちと互角に渡り合えるほどの実力者であった。
ゆえに今回の式典にももちろん参加してもらう予定だったのだが、ソフマフ国の勇者が失踪したという情報をどこかから聞きつけたようで、ほぼ同時期に勇者パーティも姿を消したのだ。
王はそれを聞いたとき激怒したが、勇者パーティを見つけ出すことができれば勇者を発見することができるかもしれないと、勇者パーティの捜索も同時に命じたのだった。
ドルフは勇者パーティのことに話が移ったことに思わず安堵した。
それなら話すことができる。
「今日の朝に報告を受けたのですが、勇者パーティの内の1名を見かけ、どちらに向かったのかが判明いたしました。」
「それは誠か!?」
王は目を見開き、体が少し前に出る。口元も少しほころんでいるようだ。
「はい。ルークスという魔法剣士で、勇者の右腕とも呼ばれた15歳の少年です。」
「ふむ。確かパレードでも勇者の傍らに控えていた少年がいたが。」
「その者で間違いありません。」
王の機嫌がわずかではあるがよくなった。これで後はルークスから勇者のことに関して聞き出すことができればこの件に関しての私の仕事はなくなるだろう。
ただ・・・
「それで、どこに向かっておるのだ?そのルークスとやらは。」
それが問題であった。おそらく向かった先は見当をつけている場所でほぼ間違いないだろう。しかしその場所こそが問題であった。
「グリーズ聖森林です。」
「・・・なんだと?」
「ルークスが向かった先はグリーズ聖森林で間違いありません。」
王は前のめりになった体を再び王座の背もたれに預ける。表情は希望から落胆へと変わり、右手で顔を覆う。
「・・・調査は進んでおるのか?」
「森の中心にある聖地に向けて部隊の一部を送り込んではいるのですが・・・」
「・・・そうであろうな。かの森は聖域であり、神域でもある。招かれざる者が入り込めば森はその者たちに容赦なく襲い掛かる。ルークスとやらが導かれたのかはわからぬが、もしそうでなければ今頃生きてはいまい。もし生きていたとしても・・・我々が手出しすることはできぬ。」
グリーズ聖森林。それはこの世界を創造したとされる神が世界の安定のために創ったとされる聖域のうちの一つである。特にグリーズ聖森林は神域も兼ねており、森の神秘性は数々の聖域の中でも上位に位置する。それゆえに森に入ることを神に許されていない者には容赦なく神の下僕である神物が襲い掛かるのである。神物は魔族とは比べられないほどの力を持っており、ゆえに森には魔王でさえも手出しできなかったほどである。
そんな森にルークスは向かった。なぜなのかはわからないが、もし中にいるのであれば彼が外に出てくるまでドルフ率いる情報収集部隊は何もできない。
せめて生死を確認することだけでもできれば良いのだが、それでも中に入らなくてはならない。おまけにグリーズ聖森林はかなり広大であり、中央の聖地に向けて直進できたとしても歩いて二日はかかる。さらに森の中は常時月のない夜と変わらない暗さであり、どこを見てもほとんど同じ風景が広がっているために方向感覚が狂わされ、追い打ちで神物が襲い掛かってくるのである。
この時点で国軍を動かすか、それこそ勇者を行かせるしか中の調査を行うことはほぼ不可能だろう。現時点でドルフの部隊が森に入ってから4,5メートルほどのほんの一部しか調査できていないことがいい証拠だろう。
「ドルフよ。他の一行に関しての情報はないのか?」
「・・・今のところは。」
「・・・そうか。では引き続き調査を続けよ。なんとしてでも勇者を見つけなければならん。でなければ国としてのメンツが立たん。」
「心得ております。一刻も早く勇者、及び勇者パーティの所在を掴んでまいります。」
「・・・頼んだぞ。」
王は力なくそう答え、王座から立ち上がって自室に向かっていく。数人の使用人を引き連れて謁見の間から退場する間ドルフは跪いたままで待機し、王が退出するとすぐさま仕事を全うするために自分の執務室に向かう。
執務室には外に出ている部下と通信ができるように魔石を加工した通信機がある。魔石は内包している魔力に特定の魔力を外部から加えることで様々な力を起こすことができるのだが、それを応用することである程度遠くにいるものとも会話することができるのである。しかしさすがに隣国よりも遠くにいるものと会話することはかなわず、遠い国にいるものには今だに手紙を出すことでしか情報を共有できないのだが。
とにかく、その通信機を使って各地に送り出している部下と情報の共有を図る。
一刻も早く解決しなければ、自分の命があと五日で終わってしまうかもしれん。




