Part 4-4 Pulsation 血潮
149FW(/Fighter Wing) SKF(/Kelly Field Annex) JBSA(/Joint Base San Antonio) San Antonio, TX. 12:01 Oct 18th 2012
2012年10月18日12:01 テキサス州サンアントニオ・サンアントニオ共同基地ケリーフィールドアネックス第149戦闘空団
F-16D30Hを長いタキシング上そつなく走らせ追従しバイパー2から4が付いてくる。サンアントニオ共同基地は大型機の格納庫が多くあり戦闘機などや小型機のハンガーは遠く滑走路までが1300ヤード以上あった。その合間に航法NAVを含めアヴィオニクスの設定ができる。だがパネルに注視し過ぎると管制へ連絡入れずタキシングウェイに入ってくる他機との接触事故になる。警戒しつつその合間に各兵装の設定もすると1300ヤードがあっという間で滑走路端に到達するので苦にならない。
EORクルーが離陸前の最終チェックをする間、ヴィクトリアは両手をコクピットの高い位置に載せて地上クルーから見えるようにすした。可動翼でクルーが怪我を負わないようにするための取り決めだった。
ここでEORクルーが兵装の安全ピンを引き抜くアーミングを行う。
EORクルーが後方安全のサインを腕を振って2人のパイロットに知らせた。離陸時刻を待つ間にフルブレーキでスロットルを80パーセントにしブレーキの滑るクリーピングが起きないか確かめスロットルをアイドルに戻す。
いよいよこいつで飛べるんだとビクトリア・ウエンズディは胸が高鳴った。両翼に増槽を下げるツーバックの状態では滑走距離が長い。フラッペロンの下げ角も大きくなる。訓練空域までの距離と滞空時間、空中給油なしの条件から離陸はABを使わないミリタリー出力で行う。それでも空力に優れた軽い機体なので加速性が良く増槽2本とAIM120、AIMー9X各2本の装備でも滑走距離は3分の2で済む。クリーンジェットならミリタリー出力でも滑走路半分で楽に離陸できる。
『痺れ切れた。出すぞ少尉』
「え、本気ですか!? 管制の許可なしに──」
『滑走路クリアか?』
ヴィクトリアは眼を游がせて滑走路とその前方上空、さらに顔を振ってEORクルーが周囲にいない事を確認した。アイドル時周囲15フィート、後方は100フィート幅10フィートが侵入禁止ゾーンでミリタリー出力まで上げると同じ距離で後方幅12フィートまでが危険とされている。横を見ると滑走路サイド・エリアにEORクルーチーフが立ち右腕を滑走路先へ振り上げていた。
「テイクオフエリア──クリア! オールグリーン!」
『出せ少尉!』
ヴィクトリアはスロットルを押し進めながらパーキングを解除し一気に進み出ると50ヤードでミリタリー出力のノッチまでスロットルを押し込んだ。
蹴りつける様に背中を押され周囲の光景が流れだす。
凄い! ジェット戦闘機の停止からの加速はF1に劣ると云われるがそれは百ヤードほどだった。まるで上限がないように加速してゆく。スロットルをABに入れたらと背筋がぞくぞくしてきた。
甲高いが威圧感のないタービン音に混じり燃料流量計の時計の運針の様な音が聞こえ毎秒13.8lb(ポンド:約6.3kg)の燃料を呑み込むプラット&ホイットニーのF100ーPW200の脈動をカウントしていた。
5秒で滑走路が濁流と化し大気速度60ノット(:約111km)で前輪操舵を切りラダーとエルロンで操り始めた。それでもサイドスティックに力をかけないニュートラルでレール上を走る様に滑走路中央を加速してゆく。ブレーキを解除してミリタリー出力に入れてから13秒半で880ヤードに達しサイドスティックに力かけぬ状態でメインギアも滑走路から浮く直前グレアシールド沿いに並ぶ各種警告燈が消えている事を視線走らせ確認した。
履行不可能速度に達しギアアップしサイドスティック前面に引っ掛けた指を軽く引っ張った。
増槽2つに対空ミサイル4本の重さも苦にせず機首をぐんぐんと上げてゆく。Be109メッサーシュミットは力強さを感じさせるが、その比ではなかった。まるでロケットの打ち上げのように駆け上ってゆく。
垂直速度計を一瞬見ると毎分6千フィートを軽く越えている。大気速度は340ノット(:約630km/h)を越えてなおシートに腰から背中が押しつけられる。
暴力的だとビクトリア・ウエンズディは一瞬思った。
『綺麗な離陸だ』
少佐に言われてもビッキーは有頂天にはならなかった。身体の殆どが翼と化した様な感覚に神経を張り詰めていた。
「ありがとうございます──素敵────ステキなんです!」
興奮を抑えきれない。だけど1基しかないエンジンを気遣いエンジン系の計器に視線走らせ異常の傾向がないかヴィクトリアは探った。直後管制とのコールを矢継ぎ早に交わしながら右肩越しに振り向くと3機が等間隔の斜め1列に追従していた。
『さて、作戦空域に到達する前に少尉お前に告げておく。お前がウイングリーダーとして指揮をとれ。無能だと判断したら即座に帰投を命じる。できるな少尉』
「好きにやっていいんですか? ──好きに!?」
『ああ、いいぞ。アグレッサー全機を堕とし制空圏確保できたらC型の搭乗を考慮してやる。まずどうする?』
「作戦空域のメキシコ湾上空に我々が侵攻する場合、アグレッサーは北と南からの挟撃にでます。まずは高高度の南側からの要撃を目立たせ、北から高速低空でインターセプトしてきます。囮は1機か2機。低空侵入は3から4機でこちらの殲滅を図るでしょうですが────」
早くも海岸線が見えていた。ここまでは精霊シルフィードの力借りぬともやれる。やる事は1つ。北からのインターセプトをレーダーをオミットした状態で目視外3機で叩き、囮は2機とも私が叩く。残りが出た場合、臨機応変に目視格闘戦で叩く。
「少佐、あなたが戻したら私の事をブロック27と言った意味を教えてください」
だが少佐は軽んじているのか許諾した。
『いいだろう、ウエンズディ少尉』
「こちらヴァイパー・リーダー。各機に告げる。レーダーオミットのまま作戦空域へ向かい模擬アムラームを慣性誘導で射出、対空ミサイルのレーダーのみで低空高速侵入の敵インターセプトを撹乱。敵回避飛行先へさらにアムラームを撃ち込む。高高度のアグレッサー数機は私1機で落とす。ではアムラームの慣性誘導コース及びアクティヴ切り替え座標をこれからリンクさせる」
そう告げビクトリア・ウエンズディは声にならぬよう唇を動かした。
シルフィ────手を貸して頂戴。
首筋のぞくりとする感覚と同時に彼女が背後から腕を回してきて首を抱きしめ耳元に囁いた。
────何を知りたいの、ヴィクトリア?
全機が丸見えだと仮想敵部隊は知らない。首の契約紋章が熱く盟約を主張していた。