第二十八話 打ち上げ
打ち上げの日は、カザフスタンだった。
日本時間で朝の五時半。
私は実家のテレビの前にいた。母も起きていた。二人で並んで座った。
画面の中で、ロケットが白い煙を出している。カウントダウンが始まる。アナウンサーが何か言っているが、内容が入ってこない。
母が言った。
「フミお母さんが縫ったものも、ああやってどこかへ飛んでいけばよかったね」
「……祖母のものも、届いていると思います。ヨシコさんやサチコさんに」
母は少し黙った。
「そうかもね」
ロケットが上がった。
白い炎が下に広がって、機体がゆっくり離れていく。それがだんだん速くなって、煙の柱だけが残る。
私は画面を見ながら、ヨシコさんの指先を思った。
四人の体を覚えた指先。
あの指先が作った形が、今、地球の外へ向かっている。
工場には、その日全員が集まっていた。
仕事をしながら、小さなテレビで打ち上げを見た。
ロケットが上がった瞬間、誰も何も言わなかった。
サチコさんが小さく息を吐いた。それだけだった。
ヨシコさんはすぐミシンに向かった。
アカリさんが私の横で言った。
「行きましたね」
「行きました」
「あの布、本当に宇宙に行ったんですね」
「はい」
夕方、若田さんから城島さん経由でメッセージが来た。
「軌道に乗りました。着替えました。布がありました」
城島さんがそれを私に転送してきた。
私は工場で読んだ。声に出して、全員に読んだ。
布がありました。
ヨシコさんはミシンを踏みながら聞いた。
止めなかった。でも、少しだけ、踏む速さが変わった。
私には、それが泣いているのと同じに見えた。
了
次回 第二十九話 春




