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Ghost Life~キミハヒカリ~  作者: Akira Clementi
第3章 悪魔とは

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第45話 ソフィア

「ちょっとあんた待ちなさいよ!」


 濃霧の中でうっすら見える人影を、ソフィアが追いかける。相手は間違いなく死者だ。移動方法はソフィアと同じで、空中を滑るように飛んでいく。

 先ほどまで引きずられてからから乾いた音を鳴らしていた白骨死体を、『霧の悪魔』は念糸で支え直していた。黒いローブをひらめかせて宙を舞うその姿は、まるで死神だ。


「あんまり深追いすんな!」


 横に並んだゲイルがソフィアに忠告してくるが、ようやく見つけた『霧の悪魔』を逃したくない。


 ソフィアの気合のおかげか、じわじわとソフィアと『霧の悪魔』の距離が詰まっていく。

 唯一の武器といってもいい極太の念糸を相手に伸ばそうとして、ソフィアは我が目を疑った。


 長い茶色のおさげ髪。

 黒を基調とした、品のいいメイド服。


 霧の中から浮かび上がったのは、よく見知ったエレナの姿だった。


 ちらりとソフィアに振り返った顔も、間違いなくエレナだ。ただしその青い目に優しい光はなく、代わりに突き刺すような鋭さがあった。

 ソフィアがためらった、その一瞬。


 エレナの手から伸びた無数の念糸がひとつに絡み合い、鞭のようにうねった。それは風切り音をともなって、ソフィアの体を打ちつける。


 息が詰まった。

 念糸の鞭が掠めて、ニゲラの花の髪飾りが吹き飛ぶ。


「ソフィア!」


 住宅の石壁をすり抜ける寸前で、ソフィアはゲイルに抱き留められた。


 友人だと思っていた相手に、同じ日に二度も痛めつけられるとは。しかも今回は、エレナはあきらかにソフィアに対して敵意を持っていた。

 湧き出る悔しさから、ソフィアが下唇を噛み締める。


「今の、エレナだったよな」


 ゲイルが信じられないものを見たというように呟く。


 ソフィアを弾き飛ばした隙に、エレナと白骨死体は姿を消してしまっていた。もう耳を澄ませても、白骨が立てる乾いた音は聞こえない。


 今自分が見たものこそ、真実だ。

 エレナはだいたいいつも領主の屋敷にいると言っていたのに、夜は『霧の悪魔』として出歩いていた。昼間ソフィアに激怒したのも、『霧の悪魔』であるエレナを排除しようとするウィッテンに情報提供してしまったからだ。


 だがなぜエレナは、毎日ソフィアに優しくしてくれたのか。仲のいい霊など作ったら、自分の正体がばれてしまう可能性が出てくる。それくらいソフィアだってすぐに気づく。現にエレナについての情報は、ウィッテンに伝わったのだから。


 『霧の悪魔』として行動しつつも、友人を欲した理由があるとすれば。

 ソフィアが必死に考えて思いついたのは、たったひとつ。


 エレナは、本当は誰かに止めて欲しい。


 それしかなかった。


「お屋敷に行きましょ、ゲイル」

「マジかよ」

「マジよ。あたしたちの手で、エレナを止めるの。きっとエレナは、なにか理由があってこんなことしてるのよ。早くやめさせないと。でないと、このままじゃ……」


 エレナがウィッテンに消滅させられる。


 ソフィアはその言葉を飲み込んだ。


 せっかくできた友人が悪霊だったという事実は、あまりにも悲しい。否定できるものなら否定したい。

 それでも、一度は友人として心を通わせたエレナを、ソフィアは助けたかった。今までのエレナの行為は許しがたい。しかしせめてもう二度と同じことをしないと誓ってもらえたら、ウィッテンに消滅させられずに済むかもしれないとソフィアは考えたのだ。

 このアルカナ神聖国で暮らしていたからには、エレナだってセーフェル教徒のはずだ。


 ならば、告解で赦されない罪はない。


 なんとも都合がいい話だとソフィアも感じるが、今はその可能性に賭けるしかない。そうでなければ、友人をひとり失ってしまう。


 まだ仲直りもしていないのに。

 永遠に別れることになる。


 それだけはなんとしても阻止しなければと、ソフィアは顔を上げた。


 エレナがあの白骨死体を持って屋敷に帰る姿は想像しがたいが、彼女と会えそうな場所はそこしか知らない。


「とにかく今は、エレナに会って色々たしかめないと」

「仕方ねえなあ」


 なんだかんだずっとソフィアにつきあってくれているゲイルが、呆れたように息をつく。言葉こそ面倒そうにしているが、最後まで一緒に見届けてくれるつもりらしいというのは、ソフィアにも伝わってきた。

 ゲイルがいてくれるという安心感が、エレナに対する若干の恐怖を吹き飛ばしてくれる。ゲイルが一緒ならば、ソフィアはなんでもできそうな気がした。


「おまえ、意外と怖いもの知らずなんだな」


 ゲイルの言葉にソフィアが笑う。


「だってもう死んでるもの。これ以上怖がるものなんて、そうそうないわ」

「そう言われりゃそうだ」


 濃霧が立ち込める真っ白な路上で、ゲイルの笑い声がけらけらと響く。その声を聞いているうちに、気づけばソフィアも笑い声を上げていた。

 態度が豹変したエレナに感じた恐怖は、ほんの一瞬だ。ソフィアを止めるだけの力を持たない。


 これ以上死なない体と、どこまでもついてきてくれる友人。その二つが、ソフィアを突き動かしていた。

更新再開は7月21日(火)の0時更新分からです。良い連休を。

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