決戦・アナトリア
風宙期35年169日、テン帝国はエーレブ帝国に対し宣戦を布告した。テン帝国は兵種を改修、新調し短期決戦を持ってエーレブ帝国を屠り去ろうと作戦を立てる。しかしエーレブ帝国もまた黙って侵攻を見守るような真似はしなかった。
風宙期35年185日、エーレブ帝国は迫り来るテン帝国に対し全兵力のおよそ半数をブルサ宙域に向けた。この異常なまでの反応はテン帝国の先鋒を務める第三艦隊を困惑させた。
「先行艦より入電、ワレ テキカンヲホソク」
第三艦隊を指揮する上級大将「ウィリム・ボーン」は先行艦から順次もたらされる情報により敵が大規模であることを確信した。
「陣形をA-2に移行、装甲艦を全面に展開し砲艦を両翼に展開せよ」
ウィリム・ボーンの狙いは大規模な敵艦隊に対し中央に防御力に長けた装甲艦を配置し攻撃を集め、両翼に配置した砲艦をもって応戦し本隊到着の時間を稼ぐことであった。
戦闘はウィリムの想定内で運ばれ、装甲艦が疲弊しながらもおよそ三倍の敵を相手によく耐えたと評価される。また、各艦長に対して的確な指示を出し見事にその戦列を維持してみせたのである。この前哨戦においての功績によりウィリムは戦いの後にマウヤー(城壁)の愛称で呼ばれることになる。
戦闘開始から15時間が経過し一向に戦線を押し上げられないエーレブ帝国はその城壁の前に攻勢を断念した。そして城壁の背後には本隊が迫っていた。
後の歴史書や他の文献には揃って「エーレブ落日前夜」と表される。
翌186日両軍は陣営の再構成に注力した。この間一切の戦闘が行われなかったことは両軍が明日の戦端により勝敗を決しようとしたからである。
エーレブ帝国側では翌日の決戦に向けて2等戦艦「ホーフラント」内で軍議が開かれていた。総司令は元帥号の「オース・カロン」が務め、次席には一等大将「エスニヤ・ヘレニー」、「アライン・ベル」が、その他エーレブ帝国の中枢を担う高位将が多数参加した。しかしそこにエディルネ総司令イシュキリの姿は無く帝国の興亡を決める場においても皇帝エレーブは私情からか既に調査が終わり潔白が証明されたイシュキリを戦場には向かわせず後方の予備軍としての位置に留まらせた。他でもなくこれを進言したのは宰相であるギルシェンであった。
約5時間の長考の末エーレブ帝国側ではまず戦艦群が先陣を切り敵の戦列を崩し、後に巡洋艦などの各艦が続く。数による圧倒で敵の戦意を削ぐとともにあわよくば敵旗艦の撃沈を狙った。
数で勝るはずのエーレブがなぜこのような挑戦的な策に及んだのか意見が分かれるところであるが最も一般的には一等大将エスニヤが兵站上の問題から短期決戦を唱え、また諸将も眼前に敵の戦列が整うのを恐怖したからとされている。
風宙期35年187日、エーレブ帝国一等大将エスニヤ率いる第二艦隊が突撃した。目標は眼前の十層に敷かれた戦列を突破することだった。
「火力を前方に集中!臆するな、進めぇ!」
エスニヤの果敢な突撃でテン帝国第一層の装甲艦は総崩れ、後方列の砲艦が援護に向かおうと艦を前進させるが指揮を取るラザーン・テン皇帝はそれを許さなかった。
ラザーン・テンの乗艦する旗艦「コンフランデ」では艦橋モニターに全軍の配置が映っておりこれを見て左翼の「ミクシル・ムルガ」大将の艦隊を向かわせた。その間にもエスニヤの突撃は止むことなく熾烈を極めた。
「敵の突撃が凄まじく、これ以上戦列を維持できません。何か策を講じる必要が、」
「皇帝陛下は我々に動くなとただそれだけ仰ったのだ、それに従うほかあるまい」
戦闘が開始して2時間、エスニヤは戦艦群を率いてテン帝国戦列の第六層まで打ち破っていた。しかしその突撃も限界点に達しようとしていた。
「エスニヤ大将、後続艦が離れていきます。ここは戦線を維持しつつ味方を待つべきでは」
「なぜ後続艦が来ていないのだ!この機を逃すと次は無いぞ!」
「大将、エネルギー残量が40%を切りました。射程が大幅に減少します。敵に接近しなければ届きません」
エスニヤの乗艦する1等戦艦「グリーンラント」の連装レール砲二基は継戦能力に乏しいわけではなかったがその性能がエスニヤの突撃には付いていけなかったのである。エスニヤはこの時初めて後続艦の居ない事を理解した。1等戦艦がこれでは他の戦艦群ではエネルギーは枯渇している。
「駆逐艦もこの速さには付いて来てはいまい、あと少し、あと少しなのだ、」
「後方より発光信号を確認!ワレ キカン ニ キュウデン スです!」
僅かに付いて来た駆逐艦がエネルギー供給ポッドをグリーンラントに渡す。グリーンラントは息を吹き返したのだ。しかしこの間テン帝国の戦列は再編されグリーンラントはじめここまで来た戦艦群は狙い撃ちされていた。
「敵砲火が強く艦隊損耗率が急増!」
「ホーラントに打電せよ」
エスニヤは最後に総旗艦ホーラントに入電した。
ーー我攻勢限界に達すも残り一押し、我に続かれたしーー
打電の10分後、左舷中央にグリーンラントは直撃弾を受けた。艦歴5年の1等戦艦は瞬く間に爆散した。急増された戦艦ではまともな防御機構も無く、一撃爆散の運命を辿ったのである。
第二艦隊壊滅により、戦いは峠を越えた。当初の作戦とは逆に戦意喪失したのはエーレブ帝国であった。
エーレブ帝国 1等戦艦「グリーンラント」
諸元 全長150m 全幅56m 全高40m
武装:連装レール砲二基、宙間信号銃三挺
機関:宙間航行エンジン二基
その他:換砲クレーン二基
艦略史
風宙期30年12日進宙。第二艦隊旗艦となる。
同31年348日、オレンタ諸国連合との外交艦として西オレンタ国宇宙港に駐留。
同33年1日、エーレブ帝国中央星帰還後、機関を中心に改装を施す。
同年65日、機関故障のためドック入り。
同年360日、機関故障のためドック入り。
同34年32日、新兵訓練中に原因不明の電力ダウン。
同35年1日、エスニヤ・ヘレニー一等大将が艦長に就任。
同年187日、アナトリア戦争に参加し撃沈。




