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風宙期伝  作者: 二階幸樹
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アナトリア遭遇戦II

 エーレブ艦隊がテン帝国軍艦を発見できないまま撤収取り決めの時間が来た。艦隊は踵を返し第5惑星エディルネを目指す。しかし、その背後から戦いの影は静かに迫っていたーー

 エーレブ艦隊を指揮する植民将ことドチル・シュルツは決断を迫られることになる。


 風宙期35年161日。人類は新たな正義を生んだ。

 2等戦艦「ヨーラント」は後方から急速接近する敵艦の存在に気づいた。見失っていた敵巡航艦であった。


 「第一種戦闘配備!急げ!」


 艦隊を率いる一等大将「ドチル・シュルツ」の判断は早かった。元々好戦的な性格で知られている彼は手ぶらのまま中央星に帰ることを選べなかった。指揮権が完全に彼にある以上、艦隊は交戦を行う。しかしそれに反対した者がいた。


 「シュルツ大将、私に考えがございます」


 そう声を上げたのはエディルネ総司令イシュキリの参謀の「ケーデン・ライナ」地方幕僚であった。総司令が行政官としての性格が強いため、エディルネ方面の軍統制や作戦はほとんど彼が担っていた。無論その方面の延長線にあるここブルサ周辺の宙域にもある程度の地の利はあった。


 「ライナ幕僚、手短で良ければ聞こう。戦史に学ばない私ではないのでな」


 「はっ、こちらのデータをご覧ください。こちらはここ数日のエディルネ方面のテン帝国偵察艦の動きです」


 ライナは幕僚としての任を充分に果たそうとした。艦橋内の誰もがテン帝国の挑発行為であることは分かっていた。そして彼のデータはそれを確信へと押し上げたのである。


 「しかしなライナ幕僚、いくら敵が挑発して来たとしても我々が戦端を開いてしまえば正義は我らにはありません。ぐっと堪え、帰還するのが良いかと」


 中央星幕僚の「テデン・アストロフ」が言う。彼は老齢ながら腰が低いことで知られ下士官はじめ多くの兵士から慕われる存在であった。そんな彼がしばしば好戦的なシュルツと組んで行動を共にするよう命じられていたのはシュルツがただ一つ活気盛んだという欠点を持っていたに他ならない。アストロフはあえてシュルツではなく、非交戦を主張するライナに意見することでシュルツを諌めようとした。


 「ライナ幕僚の言うことは充分理解できる。そしてアストロフ爺の言うこともまた理解できる。しかしだ、しかし」


 シュルツは決断を迫られる。


 「敵艦ロスト!」


 この報がシュルツの運命、引いてはこの艦隊の運命を左右したことは後の歴史にしか見えない事実だった。


 「艦隊急速回頭!」


 各艦内に戦闘体制が敷かれる。


 「光学索敵を中止し赤外線探知に切り替えよ!砲兵は副砲にて照準を合わせ!」


 「大将、我々は戦闘指揮所へ向かいます。ブリッジとの回線は有線でよろしいですか?」


 「回線は有線で接続し、総司令は指揮所での情報をお願いします。ライナ幕僚はブリッジに残ってもらう、では。」


 総司令「ラディア・イシュキリ」は艦の情報が集まる戦闘指揮所へ向かい、その幕僚ライナはシュルツ大将と共にヨーラント艦橋へと残った。一昔前の戦闘艦では士官は全員戦闘指揮所で指示を出すのが一般的であったが艦の大型化に加え、被弾時のリスク分散の意図から最高位は戦闘指揮所、次席は艦橋の配置が定着しつつあった。もっともシュルツが艦橋に残ったのはここに操艦士、砲撃士などが集まっており、その士気を高める目的であった。


 「敵艦2を確認、データ照合完了、A型高速巡航艦と判明。データを砲撃長に送ります」


 「砲撃長確かにもらった。副砲に転送、自動照準よし、セーフティ解除よし」


 艦長席に浅く座り深く息を吸って機会を待つシュルツ、その横で軍服の裾を握りしめ正面を見据えるアストロフ。ライナも汗を流しその時を待っていた。


 「後続に敵艦2を新たに探知!駆逐艦です!」


 「艦長セーフティ解除、順次砲撃よし!」


 全長500mほどの紡錘形の戦艦がその艦首から敵艦を捉える。


 「初弾夾叉!」


 「データ各艦に送れ!一斉射ぁー!」


 戦艦ヨーラントの副砲を試射として艦隊は前列から順に射程圏内へと入った敵高速巡航艦は向け砲を光らせる。初弾の夾叉によって以降は命中確実と思われたが高速巡航艦はその名を知らしめるかの如く無傷でヨーラントの眼前まで迫った。


 「焦るなっ!砲撃長、続行だ!」


 艦橋にシュルツの怒号が響き渡る。しかし無慈悲にも宇宙空間では音も立てずに高速巡航艦が迫る。


 シュルツの怒号のわずか30秒後、シュルツはその目で敵艦を捉えた。


 思考が停止する。


 瞬間、轟音がなるや否やすぐに艦橋は静寂となった。シュルツ以下艦橋にいた者は全て無音の大宇宙へのその身を投げ出されたのである。


 ーーより、ブルサ管制局へ

 「偵察艦66号より、ブルサ管制局へ、敵2型戦艦の撃沈を確認、作戦は成功した。繰り返す敵2型戦艦の撃沈を確認、作戦成功である」


 「ブルサ管制局より偵察艦66号へ、了解。ご苦労さん、陛下のパレードに少しばかりお土産が出来たな」


 風宙期35年標準日161日、エーレブ帝国軍艦のテン帝国領侵犯により撃沈された2等戦艦ヨーラントはエーレブ帝国では事件として、テン帝国では報復措置として認識された。しかし後の歴史には記述される、「アナトリア遭遇戦」と。

風宙期概史

 アナトリア星域戦

  風宙期35年標準日160日、アナトリア星系第6惑星周辺宙域にてエーレブ帝国軍艦が同宙域で軍事活動。

  同年161日、テン帝国軍艦第5惑星周辺で軍事演習。エーレブ帝国地方艦隊、テン帝国領侵犯により両国で遭遇戦(アナトリア遭遇戦)発生。戦艦ヨーラント撃沈、他数艦艦隊落伍後撃沈。

  同年176日、テン帝国軍艦第6惑星ブルサで軍事演習。勅令「兵種改漸令」発令。

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