アナトリア遭遇戦I
爆発的に増えた人口により、人類は有史以来様々な分野で輝かしい技術発展に富んだ。しかし、その一方で人類自身は未だその進化を始めてはいなかったのである。
各国は競うように地球外の恒星系に植民し自国の経済圏に置いた。資源確保と星の切り取りは前時代の帝国主義そのものであった。やがて経済規模が大きくなると、各国は独自にまとまっていき各星系にいくつかの勢力となった。
取り尽くした資源や領土の先に待っているのはいつの時代も正義のぶつかり合いであった。
広く、人類が初めて宇宙空間において国家間戦争を始める時代を風宙期と言う。力ある国が正義となるべく、より多くの国家の支持を得んが為に風体にこだわった。この風体主義は正義や正当性と結びつき、とうとう引き返すことの出来ぬ所まで足を踏み進めたのである。
地球から数光年先にあるアナトリア星系。地球の資源枯渇により地球人類が移り住んだ最初の星系である。
風宙期35年標準日156日、第3惑星アヴァノスでは大規模な軍事演習が行われていた。ひとえに皇帝「ラザーン・テン」の権力を誇示する為であった。軍事演習は約20日間行われ、第6惑星ブルサまで広宙域に及んだ。また最終日には勅令「兵種改漸令」が発令され軍事費の増額、兵役規定の見直しなどが行われた。特に注目されたのは増額した軍事費は全て帝国民から徴収した税金から賄われたことである。しかし異例の徴税にも関わらず反乱暴動が一切起きなかったのは軍事演習の効果を最大限発揮したものとなった。
時を同じくして159日、アナトリア星系から1光年進んだエーレブ星系では小規模ながら同じく軍事演習が行われていた。
――エーレブ星系第5惑星エディルネ――
「テン帝国の巡航艦多数を確認、接近する模様!」
第一報はレーダー員の肝を冷やした。レーダーに感ありの報が遅れたからである。しかしこれはレーダー員の失態による所ではないことを知りエディルネ総司令「ラディア・イシュキリ」はさらに肝を冷やした。
「接敵はいつだ!」
冷静沈着で知られた氷のイシュキリも焦った。再びレーダー員に問う。
「接敵は!」
レーダー員は再度確認を行った。指令室の空気が張り詰める。
「接敵は6時間後です!」
イシュキリの判断は早かった。接敵が確実なものと思ってすぐに中央星エレーブの総司令室に連絡して、自身は2等戦艦に乗艦し補給艦他数艦を引き連れて宇宙港を発った。その他の艦は順次続くように命令している。また、中央星エレーブ総司令室ではすぐに作戦立案がなされ、掃討艦3艦と掃宙艇12艦を宇宙港から発進させていた。これらの艦が接敵する宙域に到着するのは約1日後のことであった。
接敵が予想された宙域ではひと足先にテン帝国側の艦が巡航していた。
「敵巡航艦の艦種識別、3等戦艦相当と思われる艦が2、偵察艦4を確認。以上」
ほどなくしてイシュキリ率いる艦も宙域に到着した。しかしそこにテン帝国の艦は無かった。イシュキリは冷静に命令を下す。
「警戒体制を維持し索敵に当たれ、岩石群を抜け次第ソナー投下と偵察ポット射出を行う。準備せよ」
イシュキリの艦が接敵宙域に到着してから8時間が経過したがテン帝国の艦が見つかることはなかった。次第に追従して来たイシュキリ麾下の艦やその他の艦も宙域に集まり、一帯はエーレブ帝国の艦が密集することとなる。
標準日160日、中央星から出発した掃討艦3艦と掃宙艇12艦が宙域に到着した。掃討艦に乗り指揮をとっていたのは星系内で植民将の名で知られている「ドチル・シュルツ」一等大将である。彼は父がエーレブ星系を植民する時にこれに従い、また自らも父に習って植民を推し進めてきた軍人である。
シュルツとイシュキリの両者は2等戦艦「ヨーラント」で面会した。席次はシュルツ、次いでイシュキリであった。これは総司令といえども地方の辺境惑星では事実上中央星の一等大将よりも実権が上に無いことを意味した。また、イシュキリの性格がそうさせたことも事実であった。
会談を終えた両者は共に「ヨーラント」に乗ることを決めた。そして残り1日は索敵に当たり、見つかれば交戦、そうでなければエディルネへ引き返すことを取り決めた。また、艦隊の指揮は言わずもがなシュルツ一等大将が行った。先の理由の他に総司令はこの時代のエーレブ帝国にあっては行政官としての性格が強かったからであった。
標準日161日、岩石群に阻まれ思うような索敵が進まない中、取り決めの時間が近づいた。シュルツ一等大将は敵艦を見る事もなく帰還するのを内心悔しがりながらも艦隊に撤収の指示を出した。
まさに、その時だったーー
風宙期概史
アナトリア星域戦
風宙期35年標準日160日、アナトリア星系第6惑星周辺宙域にてエーレブ帝国軍艦が同宙域で軍事活動。
同年161日、テン帝国軍艦第5惑星周辺で軍事演習。
同年176日、テン帝国軍艦第6惑星ブルサで軍事演習。勅令「兵種改漸令」発令。




