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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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 訪れた俗楽の花の里は、里という言葉とは裏腹に、町に近い規模の集落だった。

 立ち並ぶ家々は数が多く、そして大きく、そこで生活する人々が豊かである事を物語る。


 もう夕暮れ近くという事もあって、竈の煙が上がってて、調理されてる食事の匂いが、家の外まで漂う。

 子供の笑う声もあちらこちらから聞こえてきて、……随分と穏やかな雰囲気だ。

 これが本当に、忍び衆の里なのだろうか。


「あ、八重様だ。おかえりなさい!」

 家で遊んでいた子供が八重を見かけて、そんな風に呼びかける。

 ふと、俺はまだ彼女に手を引かれていた事を思い出し、その手を放そうとするが、八重は何故だか、俺の手を握ったまま離さなかった。


「おぉ、本当に八重様だ」

「おかえりなさい、八重様」

「外でのお役目、ご苦労様です」

 するとその声を聞きつけた里人が、言い方は悪いがわらわらと湧いて出てくるようにやってきて、俺と八重を取り囲む。

 あぁ、うん、これは、どうやら八重は、この里では随分と慕われているらしい。

 彼女が手を握ってくれてなかったら、この輪の外に弾き出されていたかだろう。


「皆、久しく。けれども、今はこちらの方を、お屋敷に案内差し上げなければなりません。道を開けてくださいまし」

 八重がそう声を掛けると、里人達はそれで漸く俺に気付いたように、大慌てで道を開ける。


 言葉に説得されたというよりも、大急ぎで指示に従った風に見える里人達。

 たった一言で里人が従うという事は、どうやら八重はこの里の中で、それなりに高い地位にある様子。

 しかし大人達は素直に従えど、子供はやはり子供らしく、僅かに不満そうな表情で、

「明日! 明日は八重様、遊んでね。暫く里にいるんでしょ?」

「あの人、八重様の手を握ってるわ。ねぇ、あの人、八重様の良い人?」

 なんやかんやと囀っていて、周りの大人に窘められる。


 八重はそんな子供達を見て、少し唇を緩めるも、特に何も言葉を返さずに、俺の手を引いて再び歩き始めた。

 俺に気を使ったのだろうか?

 子供と触れ合う時間くらい、待っても別にいいのだけれど……。

 でも、俺は確かこの里の守り神の一つ、迷い館様とやらに招かれた客になるから、その足を止めたとなると子供が叱られるかもしれないか。



 そのまま暫く歩いていると、不意に俺の手を引いていた八重が足を止め、

「四木様、あすこに見えるこの里の東から北にかけての山々が、守り神の一柱にしてこの里の母、雪女ゆきめ様の領域です」

 里の向こうに見える山々に視線をやる。

 夕暮れ時で少し見えにくいけれど、山の上側、半分以上がまだ白い山々だ。


 なるほど。

 雪の名を冠する守り神が、支配地とするに相応しい山なんだろう。


「そしてここからは見えないのですが、山のふもとから西にかけての凍らずの湖に、もう一柱の守り神、聖獣、一角龍様がおわします」

 次にその視線を少し下げ、八重は次の守り神の名を挙げた。

 こちらが聖獣か。

 確か俗楽の花の守り神は、大妖が二体に、聖獣が一体という話だったから、つまり先程の雪女は大妖という事になる。


 そうなると少し気になるのは、里の母って言葉だ。

 言葉通りに考えると、里の開祖を生んだのがその雪女という大妖だって意味なのかと思うけれど、……それは、少し考えにくい。


 というのも、妖怪と人が交わった例というのは過去にも多くあるのだけれど、その結果として生まれる子は、母親がどちらなのかに左右される。

 母親が人である場合、無事に生まれるのは腹に宿った子が人だった時だ。

 仮に腹に妖怪を宿せば、その陰気で母体である母親が死に、赤子も成長しきれずに流れてしまう。

 逆に母親が妖怪だった場合は、腹に宿った子が人であったなら、母親の陰気で生まれずに死ぬ。


 母という言葉や、雪女という名前から、恐らくは人に近い、女の妖怪だとは思うのだけれど、見る限り、里の人々は人間だったから、血の繋がりがあるとは思えない。

 だとすれば、この里を築いたのが、その雪女という大妖なんだろうか。

 確かにそれなら、里の母という言葉も然程は違和感がないけれど……。


「最後に、森からこの集落の大半が、四木様を招かれた守り神、迷い館様の領域でございます。今宵は、迷い館様のお屋敷で御泊りくださいませ」

 そして最後に、俺をこの里に招いた大妖、迷い館の名が出てくる。

 名前から考えると、もしかすると泊まるお屋敷とやらが、その迷い館という大妖そのものか。

 ならば以前に会った梅香童子とかいう眷属の妖怪は、その屋敷に生える庭木の精だろう。


 要するに今夜、俺は妖怪の腹の中で寝泊まりするって意味になるが、……まぁ、今更だ。

 その大妖に俺を害する心算があれば、森に踏み込んだ時点でそうしただろう。

 もっと言えば、八重ならば俺を殺害する機会なんて、この旅の最中に幾らでもあった。


 だからずっと以前から俺の命は八重に預けてあったし、逆に俺は彼女の命を預かってもいたと言える。

 恐れる必要は、今更何もない。

 もちろんそれは、いざ、何かあった時、無抵抗に命を差し出すという意味ではないのだけれど。

 まぁ、何かあればやれるだけやって駄目なら仕方ないだろう。


「わかった。案内してくれ」

 俺がそう言うと、八重は何時ものように微笑んでから頭を下げ、再び、俺の手を引いて歩き出す。




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