第十夜 ③ー1
満天の星空の下、庭園の真ん中を風が吹き抜けていく。
「“原初の魔女”って言うのはね。元々はただの人間の赤ちゃんだったんだ」
イオニコフが語ったのは“原初の魔女”の最初の物語。
☆
ある日、魔物の森に捨てられたのは人間の赤ちゃんだった。
その赤ちゃんを拾い育てたのが闇の世界を統率する唯一の王、魔王その人だった。
「光の世界の住人が闇の世界である魔界で生きるためにはその属性を変えなければいけない。それでその赤ちゃんは魔王の手によって闇属性に変わったんだ」
属性が変わってからは子供はすくすく育ち立派な淑女になった。そこまでは良かった。
娘は魔物達とも仲が良く幸せだったはずだ。
「だけどね。人間っていうのは身勝手な生き物だ。魔物の森にまた捨てたんだよ。赤ちゃんを」
それが全てのきっかけになった。
魔王から自身の身の上を聞いていた娘は再び軽々しく命を捨てた人間を激しく憎んだ。自分も勝手な都合で捨てられた命。魔王が拾ってくれなければとうに死んでいた。
「娘は人間を憎み、光の世界を憎悪した。その怨み、憎しみの念は娘を魔女へと変えたんだ。闇の魔力と魔軍を引き連れ、娘は近隣の街を破壊した。人間を襲い、人間と同盟を組む一部の魔族をも標的としたのさ」
全身を黒のドレスで飾り立て、娘は女子供容赦なく目に入った光の世界を闇で食らいつくそうとした。
人間は恐れた。不気味に笑いながら殺戮を繰り返すその娘を。魔物を操るその姿を。
「人々はその娘を“魔女”と呼んだ。……それが、魔女の始まりさ」
イオニコフが話を区切る。そこに黙って聞いていたイドラが口を挟んだ。
「…確かに、不遇だったのは判ったが、やはり魔女は滅ぼすべき相手だと言ってるような話だ。魔女は人間を嫌い光の世界を闇で食らいつくそうとするんだろう?ならば芽のうちに摘んでしまうのが最善策だと思うんだが?」
「だからキミはもう少し余裕を持った方が良い。何度も言ってるじゃないか。気が早いって」
イオニコフは駄々をこねる子供を諭すような声でイドラを嗜めた。
「本題はここからさ。原初の魔女はもともとは光の世界の住人だったため闇の魔力に耐えきれなかった。その為、彼女は三十年も生きれなかったのさ」
原初の魔女が死んでからも懲りない人間達は場所を転々としながら育てられなくなった赤ん坊や子供を捨てていった。その度に魔王が拾って歩いたそうだ。その中でも人間に対して怨みの念を持つ少女は第二、第三の魔女として覚醒していった。
「問題は第二、第三の魔女が生まれる理由さ。さっきエラは得体の知れない何かと記憶が飛ぶ経験があるって言っていただろう?それこそ、後続の魔女達に表れた症状でね」
「症状、ですか?」
「うん。後続の魔女達は皆、原初の魔女の思念に内側から食らい尽くされていってたんだ」
イオニコフの言葉にイドラもエラも驚愕した。それは聞いたことがない話。
「内側から食らい尽くす…だと?まさか、その後続の魔女達は皆、原初の魔女に乗っ取られた、と?」
「そう。内側から食らい尽くした原初の魔女はその体を乗っ取った。そしてまた光の世界を襲っていった」
「それが絶えず魔女が現れる理由さ」とイオニコフが続けた。この話を聞いていたエラは開いた口が塞がらずにいた。
…魔女の成り立ち…こんなの、ゲームの何処にも出てこなかった話じゃない!一体、どういう事なの?これが本当の話なら私は魔女だけど…その正体は原初の魔女ってこと?私の中にいるの??
乗っ取られる感覚は身に覚えがあった。気が付いたらいじめっ子達を吹き飛ばしていた事がある。それに、今日の昼間にも気が付いたらイドラがこちらを睨んでいて、国民達も怯えていたことがあった。あの瞬間が原初の魔女に乗っ取られた時だということか。




