第十一夜 ②ー6
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肝試しをするために一行が向かうのは寂れた灯台だ。今はもう使われていないらしく肝試しにはうってつけだとギザイアが話した。
そこへ向かう途中のイオニコフ達の後を追ってきたのはエミーユ。彼らの姿を見つけたエミーユは一行を呼び止めた。
「ちょっと待ってください!」
灯台に向かう森の中の獣道。一行はその声に振り向く。
「おや、ミッドナイル君。追い付いたね?良かったよ」
クスクス笑うギザイアにエミーユはムッとする。
「…話があります。イオニコフ先輩」
ムッとはしたがギザイアに突っ掛かってもしょうがないのでエミーユは本題に入る。
「話?なんだい?エミーユ」
「どうしてあんなこと言ったんですか?」
「あんなこと?何の事だい?」
きょとんとした顔でそう訊ねてくる。彼の隣にはリチアが立っていた。彼女もキース達もきょとんとする。エミーユはその態度にも腹を立てた。
「エラ先輩に言ったことですよ!なんであんな冷たい事言うんですか?それに病人を放っておいて出掛けるなんてあんまりじゃないですか?」
「そういう君だって合流してるじゃぁないか?ねえリチア。君もそう思うだろう?」
「え?ええ…ですけど、でもエミーユの言うことも一理ありますよ。やっぱり、今からでも戻りませんか?」
リチアは困った笑顔を浮かべているがギザイアはそんな彼女に不服を申し立てる。
「リチア…君は私の望みは叶えてくれないのかい?」
「え?い、いえ、そういう意味ではないのですけど…」
「ギザイア先輩、脅しはやめて頂きたい」
「エドワルド…君もいちいち邪魔してくるねぇ」
二人で揉め出したのでローレンが仲裁に入る。その横でエミーユはイオニコフを問い詰めていた。
「イオニコフ先輩、エラ先輩と何かあったんですか?ここ二日の様子を見てたら絶対おかしいってわかりますよ。エラ先輩が元気ないのってイオニコフ先輩が絡んでますよね?」
「エラが?…まさか。キミ達とだって楽しそうにしてたじゃないか。…あんな場所でいちゃついたりしてただろう?」
「あんな場所でって…」
言われてエミーユは思考を巡らせる。
考えてひとつ思い当たった。昼間の浜辺でのことじゃないだろうか。あれを見られていたのか、と、エミーユは恥ずかしくなってくる。が、しかし今はそんな事を入っている場合じゃない。
「あ、あれは…」
「それに…エラはボクじゃないんだ。側にいてほしいのはさ」
目を伏せてイオニコフは寂しそうに呟く。
「…?どういう意味かはわかりませんけど、だったらなんでさっきエラ先輩は貴方の名を呼んだんですか?」
その言葉にイオニコフはドキッとする。確かに聞こえた彼女の声。
「…僕は夏休みに入る前、何度か二人が一緒にいるところを見たことがあります。すごく仲良さそうでした。それなのに今は距離が空いていて…エラ先輩がすごく寂しそうにしてました。…それが先輩の魔力に影響するくらいに」
エミーユが呟いた言葉にイオニコフが食い付いた。ガッ!と勢いよくエミーユの肩を掴む。その勢いと逼迫した表情にエミーユは驚いて体を強張らせた。
「今、何て言ったんだい?」
「え?二人が仲良さそうだったって…」
「そこじゃない!最後だよ!エラの魔力がなんだって?!」
「え?え?先輩の魔力が…もともと灰色の斑模様の魔力色だったんですけど、昨日今日は色が黒く染まりつつあることがあったんです。…気づいてませんでしたか?」
イオニコフはエミーユの言葉にサァーっと青くなる。
青ざめたイオニコフの様子にリチア達も尋常じゃない何かを悟る。
「イオニコフ様?どうされましたか!?」
さっきまでギザイアと睨み合っていたキースが話に入ってくる。それはリチアも同じだ。
「イオ様?どうかしたんですか?」
リチアがそう訊ねるとイオニコフは別荘の方を振り向く。つられてエミーユ達も別荘の方を振り向いた。
と、同時に森の向こうで大きな爆発音と巨大な黒い竜巻が爆発的に発生した。
「!?」
「あれはなんだ!?」
「あれは…強大な…魔力…?」
キースが咄嗟に氷の剣を構えてリチアを背に隠す。
方角は別荘の方で間違いがない。それを悟ったイオニコフは別荘に向かって走り出した。エミーユもその後を追い、キース達も後に続く。
一足先に走り出したイオニコフは走りながら指笛を吹き彼の相棒であるドラゴン・ギーウィを呼び出す。
「キシャアアアアアア!!!」
「ギーウィ!頼んだよ!!」
空から現れ地面すれすれを滑空するギーウィの背に飛び乗ったイオニコフはそう指示を出した。ギーウィは咆哮を上げ別荘へと飛び出した。