夜の訪問-3-
「おいしそうに食べるね」
ファウが目を細めて、キョウを見ている。
キョウは照れくさくもあったが、昔話してるみたいで嬉しかった。
「甘い物好きなのはあいかわらずなんだ。背と髪は伸びたのに、味覚は変わらないのね」
ふと、キョウは手を止めた。
「昔は肩ぐらいまでの長さだったのにね」
ファウは手を伸ばし、キョウの髪に触れていた。
「髪、実は子どもたちに切るよう言われてんだけど、どうかな?」
キョウはなるべく軽い口調で聞いてみた。ひょっとしたら、どもってたかもしれない。
「切りたいの?」
ファウは、じっくりキョウを見た。
そしてはっとしたようにキョウの髪に触れていた手を離した。無意識に触っていたらしい。
「……別に切りたかったら切ればいいんじゃない?」
キョウは若干失望しかけたが……
「こんなきれいな髪を切るのは勿体ないような気もするけどね」
「じゃあ切らないよ」
決断は早かった。
――うん、約束ね。切っちゃダメだからね。
と言ったのは、今のファウではない。幼い頃のファウだ。
キョウはいまだにその約束を覚えていて、守っていたのだった。
そんなキョウの足元に、掃除を終えたらしい環境維持ロボがぶつかった。
「終わった? ありがとうね」
キョウはロボットを頭のあたりをぽんぽんと叩く。
固い物体だし、なでるより叩いた方が自然な感じがした。
「さっきの、私もやってみようかな」
そこにファウが腕を伸ばし、水晶に手をかざす。そうしてファウ自身の魔力を注ぎ込んだ。
水晶の青い光が増す。
「初めてした」
「そうなの?」
キョウは結構日常的にしていた行為なのに。
エネルギー補充したロボはドアの方へと進みだした。
「じゃあ、私も帰る」
「送るよ」
「大丈夫」
「女性の一人歩きはさせられない。例えロボが一緒でもね」
二人と一体は夜の道を歩き出した。
この頃から、キョウとファウの距離は縮まってきた。
ファウはキョウを見て不機嫌そうになることはなくなってきた。